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Home|ディヌ・リパッティ(Dinu Lipatti)|モーツァルト:ピアノソナタ第8番 イ短調 K 310

モーツァルト:ピアノソナタ第8番 イ短調 K 310

(P)ディヌ・リパッティ:1950年録音



Mozart:ピアノソナタ第8番「第1楽章」

Mozart:ピアノソナタ第8番「第2楽章」

Mozart:ピアノソナタ第8番「第3楽章」


イ短調は絶望の調性

モーツァルトが短調で悲劇的な音楽を書いたとしても、それは決して個人的な出来事の反映ではありませんでした。彼は友人たちと馬鹿騒ぎしながらこの上もなくパセティックな音楽を書き、逆にどうしようもないどん底の状態にあっても明るく透き通るような作品を書きました。
個人レベルのあれこれの出来事が作品の性格に反映するのは凡人のすることであり、モーツァルトのような天才にとってその様な個人レベルの出来事は音楽の前にあってはどうでもいいような些事でしかなかったのです。

しかし、この第8番と呼ばれるイ短調のピアノソナタばかりはちょっと違うように思えます。モーツァルトはこれほどまでに悲劇的なピアノソナタをこの後も書くことはありませんでした。
このソナタは始めから終わりまで異常な緊張感と暗さに包まれています。中間の緩徐楽章はいくらかは慰めに満ちた旋律ではじまりますが、それもまた聞き進んでいくうちに不気味な緊張感が支配するようになります。最後のプレストも影に満ちた音楽です。

アインシュタインは、「このソナタには社交性がない。これはきわめて個人的な表現であって、この時代のあらゆる作品を見渡してみても似たものは見つからないであろう。」と述べて、「イ短調はモーツァルトにとって絶望の調性である」と断定しています。
アインシュタインが「個人的表現」と言ったのは、言うまでもなく、パリ旅行の途中に母を亡くしたことを意味しています。そして、この作品がその母の死と密接に結びついていることを指摘しているのです。さすがのモーツァルトと言えども母の死は彼の音楽に影響を与えざるを得なかったと言うことで、ユング君もこの見解には賛同します。
そして、これと同じような表情を見せる作品としてホ短調のヴァイオリンソナタ(K.304)があります。
ともに聞き手を深い孤独感に誘う音楽であり、モーツァルトの孤独な魂がそのまま音楽になったようだと言えば、あまりにも表現が文学的すぎるでしょうか。


神は一刻も早く自分の手元に置きたかったのでしょうか。

あらゆるところで語り尽くされ、賞賛され尽くした演奏です。今さら私ごときが付け加えることは何もありません。
おそらくはリパッティが残した遺産の中で、ショパンのワルツ集とならんで最も素晴らしい演奏の一つだと思います。そして、あまりにも俗な言い方で気が引けるのですが、このような素晴らしい演奏を聞くたびに、神は一刻も早くリパッティを呼び寄せて、自らの手元に置きたかったのだろうなと思わざるを得ません。
モーツァルトの孤独な魂を、これほどまでに澄み切った水晶のような響きで歌い上げた演奏は二度とあらわれないでしょう。そして、安っぽい叙情などは寄せ付けないストイックな演奏スタイルの中からこの上もなく澄み切ったロマンが香りだします。

21世においても永遠に語り継がれるであろう演奏です。

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