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シルヴェストリ(Constantin Silvestri)|チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)
Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58 [1.Lento lugubure]
Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58 [2.Vivace con spirito ]
Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58 [3.Pastorale. Andante con moto]
Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58 [4.Allegro con fuoco]
チャイコフスキーのスランプ脱出のきっかけとなった作品

チャイコフスキーは第4番の交響曲を発表してから次に第5番を生み出すまでに10年の歳月を要しています。
そして、その10年の間に弦楽セレナードなどに代表される多楽章からなる管弦楽曲のすべてが作曲されています。
- 組曲第1番:1879年
- 弦楽セレナード:1880年
- 組曲第2番:1883年
- 組曲第3番:1884年
- マンフレッド交響曲:1885年
- 組曲第4番:1887年
これ以外に単楽章の「イタリア奇想曲」や幻想的序曲「ロミオとジュリエット」なども創作されていますから、まさに「非交響曲」の時代だったといえます。
何故そんなことになったのかはいろいろと言われています。
まずは、不幸な結婚による精神的なダメージ説。
さらには、第4番の交響曲や歌劇「エウゲニ・オネーギン」(1878年)、さらにはヴァイオリン協奏曲(1878年)などの中期の傑作を生み出してしまって空っぽになったというスランプ説などです。
おそらくは、己のもてるものをすべて出し切ってしまって、次のステップにうつるためにはそれだけの充電期間が必要だったのでしょう。打ち出の小槌ではないのですから、振れば次々に右肩上がりで傑作が生み出されるわけではないのです。
ところが、その充電期間をのんびりと過ごすことができないのがチャイコフスキーという人なのです。
オペラと交響曲はチャイコフスキーの二本柱です。
そして、オペラの方は台本があるのでまだ仕事はやりやすかったようで、このスランプ期においても「オルレアンの少女」や「マゼッパ」など4つの作品を完成させています。
しかし、交響曲となると台本のようなよりどころがないために簡単には取り組めなかったようです。
しかし、頭は使わなければ錆びつきますから、次のステップにそなえてのトレーニングとして標題音楽としての管弦楽には取り組んでいたわけです。
それでも、このトレーニングは結構厳しかったようで、第2組曲に取り組んでいるときに弟のモデストへこんな手紙を送っています。
霊感が湧いてこない。毎日のように何か書いてみてはいるのだが、その後から失望しているといった有様。創作の泉が涸れたのではないかと、その心配の方が深刻だ
1880年に弦楽セレナードを完成させたときは、パトロンであるメック夫人に「内面的衝動によって作曲され、真の芸術的価値を失わないものと感じている」と自負できたことを思えば、このスランプは時を重ねるにつれてより深刻なものになっていったようです。
確かに、この4曲からなる「組曲」などはそれほど面白いものではありません。
例えば、第3番組曲などは当初は交響曲に仕立て上げようと試みたもののあえなく挫折し、結果として交響曲でもなければ組曲とも決めかねるような不思議な作品になってしまっています。
そして、そう言うスランプのまっただ中で生み出されたのがこのマンフレッド交響曲です。
彼のスランプはますます深まり、友人に宛てて作品は何一つ書けないとこぼし、「歳は争えない」と弱気な言葉を残しています。
そんなチャイコフスキーの様子を見かねたのか、バラキレフがバイロンの詩劇「マンフレッド」に基づく標題的作品を書くことを勧めます。チャイコフスキーはこの申し出に当初は消極的だったのですが、2年後にも再度バラキレフからの勧めがあったので、本人の言葉を借りれば「多少無理をして」作曲に取りかかることになったのです。
しかし、取り組みはじめると受難者バイロンの姿とスランプに苦しむ自分の姿が重なり合っていくようで、少しずつ作曲に熱中するようになり、最後はの4ヶ月は「ほんと寝食を忘れてかかり切り」になることで4楽章構成の音楽を完成させます。
出来上がった作品はベルリオーズの幻想交響強に通ずる部分を持ちながらも、より強い標題性をもっているので、チャイコフスキー自身も「4つの音画よりなる交響曲」と語っています。
ただし、それは「交響曲」と名前はついていても、その標題性やスタイルから見れば、それは交響曲と言うよりは明らかに多楽章構成の管弦楽組曲と見た方が妥当な音楽になっています。
そう言うこともあってか、当初はスランプ脱出のきっかけとなったこの作品を大いに気に入っていたようなのですが、やがてスランプから脱出してみれば気に入らない部分が見え始めたのか、「第1楽章以外はすべて大嫌いで、とりわけ最低のフィナーレ楽章は破棄したい」とか、「長すぎる交響曲としてではなくて一つにまとめた交響詩に再構成をしたい」などと書き残すようになります。
ただし、このような物言いは彼の癖のようなものであって、フィナーレ楽章が破棄されることも、単一の交響詩として再構成されることもありませんでした。
- 第1楽章:レンド・ルグーブレ(悲しげに)
アルプスの山中を思い悩み彷徨い歩くマンフレッドの姿がえがかれている。
- 第2楽章:スケルツォ ヴィヴァーチェ・コン・スピーリト「アルプスの山霊」
滝のしぶきが生み出す美しい虹の中にアルプスの山霊があらわれて悩めるマンフレッドの前に立つ
- 第3楽章:アンダンテ・コンモート「村の生活」
アルプスの山人たちの素朴でのどかな生活が描かれる。
- 第4楽章:アレグロ・コン・フォーコ「地下のアリアーナ宮殿」
アルプスの山神アリマネスの宮殿で繰り広げられる饗宴が描かれる。幻想交響曲の最終楽章に通ずる音楽。
チャイコフスキー自身の低い評価と、演奏にはパイプ・オルガンも必要なこともあって演奏頻度はそれほど多くないのが残念です。また、チャイコフスキーの交響曲全集が編まれるときも、何故かこの作品だけは「はみ子」にされることが多くて、いささか可哀想な存在でもあります。
「動」から「静」へ
シルヴェストリと言えば一部では「爆裂指揮者」というレッテルを貼られています。しかし、そんな簡単な一言で決めつけられては困ります。
確かに、有名な1957年録音のドヴォルザークの「新世界より」は強烈な演奏で、それゆえに「爆裂指揮者」というレッテルが貼られたようです。翌年に録音したドビュッシーの「海」なんかも強烈な「荒れ狂う海」でした。
しかし、彼の録音をもう少し聞いてみれば、それとは真逆のアプローチに驚かされることがあります。
私の感覚としては、まずは「新世界より」や「海」のような強烈な表現で注目を浴びたのですが、年を追うにつれて次第に「動」から「静」へと移り変わっていきます。
「新世界より」や「海」では「爆裂」と言われても仕方がないほどの強烈な「動」の表現でしたが、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲などでは「ドラマティック」という範囲に収まっています。同じことがフランクの交響曲にも言えます。
他の指揮者に比べれば十分すぎるほどに濃厚でドラマティックな表現ですが、さすがに「爆裂」とは言えないでしょう。
そして61年に録音したベルリオーズの幻想交響曲あたりになると、それまでのシルヴェストリに見られた濃厚な世界観は後退して意外なほど普通の演奏になっています。もっとも第4楽章「断頭台への行進」では変な響きがしていて意味不明ではあります・・・が。
そして、最晩年に近い66年に録音されたルムスキー.コルサコフの「シェエラザード」などでは十分にドラマティックでありながら佇まいは精緻であり、オケもよくコントロールされています。
さらに、彼が西側で初めて手兵としたボーンマス交響楽団との録音では、静的で極めて精緻な響きに驚かされます。もちろんドラマティックな部分は失っていないのですが、もはや「爆裂、爆演」とは真逆の世界です。
そういう彼の西側での軌跡をたどってみると、そこには見事なまでの「静」から「動」への変身が見て取れます。
そして、どちらがシルヴェストリの「本当」なんだと思うのです。
まあ、どちらもジルヴェストリなのでしょう。「静」であれ「動」であれ、そこにあるのは完全に燃やし尽くした演奏であり、逆から見れば、そこまで燃えていない時は駄演となることは否定できなかったようです。
シルヴェストリについては長らく視野の外にありました。
彼が再び私の視野に入ってきたのはジョルジュ・ジョルジェスクのベートーベンと出会ったからでした。
そして、その結果として彼の残した録音をあれこれ聞きなおしています。
聞けば聞くほど、1969年にわずか55歳で亡くなったことが残念でなりませんでした。できれば手兵のボーンマス交響楽団ともっとたくさんの「燃やし尽くした」録音を残してほしかったものです。
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