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ベートーベン:ヴァイオリン協奏曲


(Vn)シュナイダーハン ケンペン指揮 ベルリンフィル 1953年5月17〜21日録音


忘却の淵からすくい上げられた作品



ベートーベンはこのジャンルの作品をこれ一つしか残しませんでした。しかし、そのたった一つの作品が、中期の傑作の森を代表するする堂々たるコンチェルトであることに感謝したいと思います。

このバイオリン協奏曲は初演当時、かなり冷たい反応と評価を受けています。
「若干の美しさはあるものの時には前後のつながりが全く断ち切られてしまったり、いくつかの平凡な個所を果てしなく繰り返すだけですぐ飽きてしまう。」
「ベートーベンがこのような曲を書き続けるならば、聴衆は音楽会に来て疲れて帰るだけである。」

全く持って糞味噌なけなされかたです。
こう言うのを読むと、「評論家」というものの本質は何百年たっても変わらないものだと感心させられます。
ただし、こういう批評のためかその後この作品はほとんど忘却されてしまい、演奏会で演奏されることもほとんどありませんでした。その様な忘却の淵からこの作品をすくい上げたのが、当時13才であった天才ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムでした。
1844年のイギリスへの演奏旅行でこの作品を取り上げて大成功をおさめ、それがきっかけとなって多くの人にも認められるようになりました。

この曲は初演以来、40年ほどの間に数回しか演奏されなかったと言われています。そして1844年に13歳のヨアヒムがこの曲を演奏してやっと一般に受け入れられるようになりました。

第一楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
第二楽章 ラルゲット
第三楽章 ロンド アレグロ

ドイツの田舎オケの風情が残るケンペンとの演奏


ケンペンはシュナイダーハン以上に忘れられた存在になりつつあります。Googleで「ケンペン」と検索をしてもほとんど情報らしい情報をゲットできません。
そう言うわけで、本来ならばシュナイダーハンを中心にふれるべき録音なのでしょうが、ここではケンペンについて少しばかりふれておきます。

ケンペンは、20世紀前半におけるオランダの音楽界を代表した3人の一人といえます。
他の二人は言うまでもないことですが、メンゲルベルグとベイヌムです。ただし、メンゲルベルグとベイヌムはあくまでもオランダを活動の拠点にしていたのに対して、ケンペンはドイツを活動の本拠にしていました。その事が、ケンペンの芸風に大きな影響を与えたように思えます。
メンゲルベルグの濃厚なロマンティシズムとも、ベイヌムの近代的な見通しのよい演奏とも異なる、重厚で剛直な演奏が持ち味の人でした。

ケンペンは1893年にライデン近郊の町で生まれ、早くからヴァイオリンに親しんでいました。その才能は早熟で、17才で早くもコンセルトヘボウの一員としてむかえられています。しかし、その後どのような事情があったのかはよく分かりませんが、20代の前半で活動の拠点をドイツのオケに移します。各地の地方オケでコンサートマスターを歴任したあとに、1932年にはオーバーハウゼンで指揮者としてのデビューを飾り、ついには34年にドレスデンフィルの指揮者にむかえられます。その後は、ベルリンのオペラにも招かれ、42年にはカラヤンの後任としてアーヘンの指揮者に招かれます。
しかし、ナチス政権下におけるこのようなキャリアアップは戦後の戦犯容疑者のリストに名前が連なることとなり、メンゲルベルグやフルトヴェングラーと同じく指揮活動が制限されることになってしまいます。その制限が解除されるのは49年であり、さらにドイツでの活動が再開されるのは53年からになります。
ですから、ここで聴くことの出来る演奏は、まさにドイツにおける活動が再開されたばかりのものです。
聴いてすぐに分かるように、この録音におけるベルリンフィルはその後のカラヤン時代のベルリンフィルとは全く違う音を出しています。ゴツゴツとしてどこかささくれだったような響きはドイツの田舎オケの一員だった時代の懐かしい響きです。
時代はいまだにフルトヴェングラーが君臨していた時代なのですが、ベルリンフィルも相手がケンペンだとリラックスできるのか、彼らの生成りの味がよく出ているように見えます。

この年、ケンペンはベートーベンの作品をベルリンフィルと集中的に録音をこなしています。
5月16日から6月2日の半月間に、このヴァイオリン協奏曲以外にピアノ協奏曲をケンプとのコンビで全曲録音し、交響曲も3・7・8番を録音しています。まさに超人的です。
ところが、その様にして精力的な活動を再開した矢先にケンペンは病に倒れ、55年にこの世を去ってしまいます。わずか62才という、指揮者としてはあまりにも早すぎる死でした。そして、その才能が本格的に開花する前にこの世を去ってしまったことが、結果的にはケンペンを忘却の淵へと追いやってしまうことになったようなのです。この辺の事情はベイヌムも同様かも知れません。

しかし、その死から50年が経過して、彼の録音がパブリックドメインの仲間入りすることで、再度彼の演奏に日が当たるようになりつつあるように見えます。そして、その演奏はいまだにドイツの田舎オケの風情を残しているベルリンフィルの魅力を存分に引き出しており、巨人的な偉大さに満ちたベートーベンもまた限りなく魅力的なように見えます。
著作権という檻から解放されることで、その芸術に対する正当な再評価が進むとすれば、いったい著作権とは何のために存在するのかという根本的な疑念がここでも頭をもたげてきます。

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