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Home|バルビローリ((Sir John Barbirolli)|モーツァルト:交響曲第29番 イ長調, K.201

モーツァルト:交響曲第29番 イ長調, K.201

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1956年12月30日~31日録音



Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [1.Allegro moderato]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [2.Andante]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [3.Menuetto: Allegretto; Trio]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [4.Allegro con spirito]


シリアスな人間的感情を表現する音楽へと変貌

ザルツブルグ時代のモーツァルトの交響曲の中では、このK.201のイ長調のシンフォニーとK.183のト短調シンフォニーは特別な意味を持っています。それはアインシュタインが、「イタリア風シンフォニーから、なんと無限に遠く隔たってしまったことか!」と絶賛したように、音楽会の始まりを告げる序曲でしかなかったシンフォニーという形式がこの上もなくシリアスな人間的感情を表現する音楽へと変貌したことを表明しているのです。

そして、そのシリアスな表情はこの両端楽章に於いても、ト短調シンフォニーの両端楽想に於いてもはっきりと刻み込まれています。
さらにいえば、ハイドンと較べればやや物足りないと言われるモーツァルトの最終楽章は、このこのシンフォニーの最終楽章においては入念に作り込まれたソナタ形式になっています。

そして、そのシリアスな表現は中間の2楽章に力を及ぼしていて、付点音符を多用したアンダンテ楽章はこの上もなく雄弁に語り続けることで舞踏的な是界から抜け出そうとしてます。
それは続くメヌエット楽章にもおよび、それは既に舞踏の音楽と言うよりは一つのシンフォニックな世界に達しようとしています。

ただし、そう言う交響曲の世界が内包すべき「構築」という抽象性はモーツァルトらしい叙情性にくるまれています。それこそが、ハイドンが為し得なかったことであり、ベートーベンが理解できなかった世界なのでしょう。


  1. 第1楽章:アレグロ・モデラート(ソナタ形式)

  2. 第2楽章:アンダンテ(ソナタ形式)

  3. 第3楽章:メヌエット(複合三部形式)

  4. 第4楽章:アレグロ・コン・スピーリト(ソナタ形式)




切れ味を失わないモーツァルト

バルビローリによるモーツァルトの録音というのは珍しいのではないでしょうか。戦前は協奏曲の伴奏をよくつとめていましたが、戦後はオペラの序曲などの小品がほとんどで、このような交響曲の録音は珍しいのではないかと思います。
ですから、モーツァルトとは相性が悪いのかなと思っていたのですが、実際に聞いてみると、驚くほどに切れ味のよいモーツァルトなのでいささか驚いてしまいました。

そう言えば、バルビローリと言えば一時「ミニ・カラヤン」みたいな言われ方をしたときがありました。それは、バルビローリの歌い回しの上手さと、「レガート・カラヤン」との間に似たようなものを感じた人が言い始めたものかと思うのですが、こういうモーツァルト演奏を聞かされるとそう言う言い方は全くの的外れであることを思い知らされます。

例えば、カラヤンがサンモリッツで夏の休暇の時にベルリン・フィルのお気に入りのメンバーを集めて小編成のオケでモーツァルトを演奏したことがあります。
それは、過剰なまでの響きで演奏するいつものスタイルとは違って、その小編成の弦楽合奏が紡ぎ出す響きはこの上もなく美しいもので、「何だ、やろうと思えばこういうモーツァルトがやれるんだ」と思ったものでした。しかし、本気モードの時のカラヤンは常にを過剰なまでのの響きとレガートでモーツァルトを描き出しました。
つまり、カラヤンが考えるモーツァルトの世界はあの過剰なまでのレガートで描かれる世界だったと言うことを思い知らされるのです。もちろん、あのカラヤンがそう思ったのですから、我々ごときがあれこれ言って何になるものでもないのですが、それを好ましく思わない人が多かったことも事実です。

しかし、このバルビローリのモーツァルトは明らかにそう言うカラヤンのモーツァルトとは異なった世界です。それは、両者の音楽感の違いを見事なまでに浮かび上がらせるものでした。
とりわけ、戦時中にRCAで録音したK.183の「小ト短調」の凄みさえ感じさせる切れ味の良さと凄みは、ワルターの有名な1956年のウィーンフィルとの演奏を思い出させたほどです。そして、戦後に録音したイ長調のシンフォニー(K.201)とジュピターもまた、そこまでの凄みはなくとも、小気味良い切れ味を失っていませんでした。
とりわけ、ジュピターの最終楽章などは見事としか言いようがありませんし、それとは対照的に、アンダンテ楽章では「歌うバルビローリ」もたっぷりと味合わせてくれる演奏でした。それらと較べればイ長調シンフォニーはいささか特徴に乏しいかもしれませんが、こういう静かな音楽はそう言う中庸性を保った方が相応しいのかもしれません。

バルビローリのモーツァルトなんてほとんど眼中に入っていなかったので、これは意外な収穫でした。

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