クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|リリー・クラウス(Lili Kraus)|モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第32番 ヘ長調 K.376(374d)

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第32番 ヘ長調 K.376(374d)

(P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー 1955年12月16,19~23,26,27日録音

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 376 [1st movement]

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 376 [2nd movement]

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 376 [3rd movement]


ザルツブルグからウィーンへ:K376~K380「アウエルンハンマー・ソナタ」

モーツァルトはこの5曲と、マンハイムの美しい少女のために捧げたK296をセットにして作品番号2として出版しています。しかし、成立事情は微妙に異なります。
まず、K296に関してはすでに述べたように、マンハイムで作曲されたものです。
次に、K376?K380の中で、K378だけはザルツブルグで作曲されたと思われます。この作品は、就職活動も実らず、さらにパリで母も失うという傷心の中で帰郷したあとに作曲されました。しかし、この作品にその様な傷心の影はみじんもありません。それよりも、青年モーツァルトの伸びやかな心がそのまま音楽になったような雰囲気が作品全体をおおっています。
そして、残りの4曲が、ザルツブルグと訣別し、ウィーンで独立した音楽家としてやっていこうと決意したモーツァルトが、作品の出版で一儲けをねらって作曲されたものです。
ただし、ここで注意が必要なのは、モーツァルトという人はそれ以後の「芸術的音楽家」とは違って、生活のために音楽を書いていたと言うことです。彼は、「永遠」のためにではなく「生活」のために音楽を書いたのです。「生活」のために音楽を書くのは卑しく、「永遠」のために音楽を書くことこそが「芸術家」に求められるようになるのはロマン派以降でしょう。ですから、一儲けのために作品を書くというのは、決して卑しいことでもなければ、ましてやそれによって作り出される作品の「価値」とは何の関係もないことなのです。

実際、ウィーンにおいて一儲けをねらって作曲されたこの4曲のヴァイオリンソナタは、モーツァルトのこのジャンルの作品の中では重要な位置を占めています。特に、K379のト長調ソナタの冒頭のアダージョや第2楽章の変奏曲(アインシュタインは「やや市民的で気楽すぎる変奏曲」と言っていますが・・・^^;)は一度聴いたら絶対に忘れられない魅力にあふれています。また、K377の第2楽章の変奏曲も深い感情に彩られて忘れられません。
ここでは、ヴィオリンとピアノは主従を入れ替えて交替で楽想を分担するだけでなく、二つの楽器はより親密に対話をかわすようになってます。これら4曲は、マンハイムのソナタよりは一歩先へと前進していることは明らかです。

ヴァイオリンソナタ第32番 ヘ長調 K.376(374d)

  1. 第1楽章:Allegro

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Allegretto grazioso




忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音

リリー・クラウスによるモーツァルトと言えば、真っ先に思い浮かぶのはゴールドベルグとのコンビで録音されたSP盤の方です。あのパチパチノイズ満載の録音をいつまで聞いているの?と突っ込まれながら、それでも未だに捨てきれぬ愛着を感じている人は少なくありません。
それと比べると、この50年代の中葉にウィーンフィルのコンサートマスターとして名をはせていたボスコフスキーとのコンビで録音したソナタ集は話題になることが少ないように思われます。しかし、今では「偽作」と断定されている「k.17~k22」の6作品や子供時代の2作品も収録されているのは興味深いです。
特に、「k.17~k22」のような「偽作」と断定された作品を今さら録音する人はほとんどいないので、それを実際の音として聞ける価値は大きいと思います。
何故ならば、この偽作を通して、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。ただし、この偽作がもしかしたら、モーツァルトをして「悪くありません」と言わしめたシュスターの作品そのものではないか?と言う見方は否定されているようです。

しかし、演奏に関して言えば、これはある意味でモーツァルトの時代にふさわしいものになっています。

この時代のヴァイオリンソナタというのは従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるというのが慣例でした。そして、モーツァルトはシュスターの作品などにも影響を受けながらこの慣例を打ち破っていくのですが、ボスコフスキーのヴァイオリンはどこまで行ってもリリー・クラウスのピアノに付き従っていくのです。
音色的に自己主張の少ないふんわりとした雰囲気で、その面でも芯の強いクラウスのピアノをサポートしています。

つまりは、この二人の演奏はどこまで行ってもクラウスのピアノが「主」でありボスコフスキーのヴァイオリンは「従」なのです。初期作品ならばこれでいいのかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンがただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるようになってくると、いささか物足りなさを覚えるのは事実です。

しかし、聞きようによっては、クラウスの絶頂期のピアノが堪能できるという風にとらえることもできます。

昨今のピアニストはは右手と左手がほぼ均等に響きます。これは、ギーゼキング以来の「伝統」です。
しかし、リリーの演奏では左手は基本的に控えめで、ここぞと言うところになると深々と響かせて前に出てきます。そこには、彼女なりのモーツァルト解釈とそれにもとづく演奏設計があって、右手と左手が絶妙のバランスで鳴り響きます。その結果として、モーツァルトが音符を使って書いた「心のドラマ」、深い感情がリリーの演奏からはヒシヒシと伝わってきます。

そう言う意味では、これもまた忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音だと言えます。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2103 Rating: 5.2/10 (149 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2014-12-07:nakamoto





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-04-04]

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.61(Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61)
(Vn)ダヴィド・オイストラフ:シクステン・エールリンク指揮 ストックホルム・フェスティヴァル管弦楽団 1954年録音(David Oistrakh:(Con)Sixten Ehrling Royal Stockholm Philharmonic Orchestra Recorded on 1954)

[2026-04-02]

ベートーベン:「ルール・ブリタニア」による5つの変奏曲 WoO 79(Beethoven:5 Variations on Rule Britannia, WoO 79)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)

[2026-03-31]

アントン・ルビンシテイン:ピアノ協奏曲 第4番 ニ短調 作品70(Anton Rubinstein:Piano Concerto No.4 in D Minor, Op.70)
(P)オスカー・レヴァント:ディミトリ・ミトロプーロス指揮ニューヨーク・フィルハーモニック1952年3月31日録音(Oscar Levant:(Con)Dimitri Mitropoulos Philharmonic-Symphony Orchestra Of New York Recorded on March 31, 1952)

[2026-03-29]

ケルビーニ:レクィエム ニ短調(Cherubini:Requiem in C minor)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:チェコ・フィルハーモニー合唱団 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年12月録音(Igor Markevitch:Czech Philharmonic Chorus Czech Philharmonic Orchestra Recorded on December, 1962)

[2026-03-26]

ベートーヴェン:八重奏曲, Op.103(Beethoven:Octet in E-Flat Major, Op.103)
ウィーン・フィルハーモニー木管グループ:1954年録音(Vienna Philharmonic Wind Group:Recorded on 1954)

[2026-03-24]

ルーセル:弦楽三重奏曲 イ短調 Op.58(Roussel:String Trio in A minor, Op.58)
パスキエ・トリオ:1954年発行(Pasquier Trio:Published in 1954)

[2026-03-22]

アンリ・リトルフ:交響的協奏曲第4番 ニ短調, Op.102~第2楽章:Scherzo(Litolff:Concerto symphonique No.4 in D major, Op.102 [2.Scherzo. Presto])
(P)レナード・ペナリオ:アーサー・フィードラー指揮 ボストン・ポップス 1963年5月24日録音

[2026-03-19]

リリ・ブーランジェ:詩篇第130篇「深き淵より」(Boulanger:Psaume 130, Du Fond De L'Abime)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)ミシェル・セネシャル 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Michel Senechal Recorded on 1958)

[2026-03-17]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調 作品106「ハンマークラヴィーア」(Beethoven:Sonate No.29 En Mi Bemol Majeur Op.106 "Hammerklavier")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1960年7月15日~19日録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on July 15-19, 1960 )

[2026-03-14]

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 ハ短調,Op.27-4(Eugene Ysaye:6 Sonatas for Solo Violin, Op.27-4)
(Vn)マイケル・レビン:1955年9月30日録音(Michael Rabin:Recorded on September 17, 1955)