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R.シュトラウス:メタモルフォーゼン

クレメンス・クラウス指揮:バンベルク交響楽団 1953年1月録音



Richard Strauss:Metamorphosen, Studie fur 23 Solostreicher


滅びへと向かう変容

R.シュトラウスにとって第2次世界大戦の敗北に向かうドイツの姿は絶望的なものとして映ったはずです。ナチス・ドイツに残った音楽家の中で彼はフルトヴェングラーとならぶ大物でした。そして、ナチスにとっては何かと目障りなフルトヴェングラーとは違って、金銭欲と権力欲の強かったシュトラウスは御しやすい相手でした。
彼が、唯々諾々と第三帝国の帝国音楽院総裁の地位についたことは、彼の俗物的な一面がさらけ出された汚点でもあるのですが、これほどの知性に恵まれた人物であっても、金銭欲と権力欲の絡む政治的な駆け引きの中では驚くほどまでに無知となる典型とも言えます。

しかし、自分のオペラの台本作家にユダヤ人を起用した事でヒトラーと袂を分かち、結果とし音楽総裁の座も辞職し、それ以後はガルミッシュの山荘に籠もることになります。
彼は連合国の攻撃によって、ミュンヘンやドレスデンが壊滅し、ウィーンの歌劇場も灰燼と帰していくのを絶望的な思いで眺めながらも、ひたすらガルミッシュの山荘でゲーテの作品を読みふけるのです。
そして、滅びへと向かうドイツへの追悼の思いをこめて「メタモルフォーゼン」と題した作品に取りかかることになります。

「メタモルフォーゼン」とは普通は「変容」と訳されるのですが、そのヒントは彼が山荘で読みふけっていたゲーテの作品の中に見いだすことが出来ます。ゲーテは「植物のメタモルフォーゼン」や「動物のメタモルフォーゼン」の中で、変容していくそれらの姿を理屈や論理ではなくて直観によってとらえようとしています。

この庭一面に咲く百花繚乱の花は、愛する人よ、あなたを混乱させます。
たくさんの花の名まえを聞いても、
聞き慣れない響きをしているので、一つも耳に残りません。
すべての形態は似ているけれども、
一つとして同じではありません。
それらの群れは、秘密の法則、
聖なる謎を指し示しています。

滅びゆくドイツの姿は彼を混乱させたでしょうが、その滅びへと向かう姿を直観によってとらえ、そのとらえた姿を音楽によって表現しようとしたのではないでしょうか。
そして、彼はその変容の最期をエロイカの葬送行進曲で締めくくっています。

この作品は「変容」と題されているので、形式的には「変奏曲」の部類に入るように見えるのですが、聞いてみればそういう形式よりははるかに自由です。「変奏曲」ならば最初に提示された主題から自由になることは出来ませんが、この「変容」ではその様な約束事には縛られることなく最初の「原型」は次々と変容していきます。そして、その変容の根底にはエロイカの葬送行進曲へと流れ込んでいくことが暗示されていたことに、最後の最後に気づかされるのです。

人間も、そしてこのドイツという国も、あえぎ、のたうち回ると言う「変容」を重ねながら、最後は「葬送」へと流れ込んでいくのです。

ただし、ゲーテは滅びの先に復活を言祝ぎます。
自然はここで永遠の力の環を閉じます
しかし新しい環が前につながり鎖は永劫未来にのびていきます

しかし、シュトラウスのこの音楽を聞く限りは、彼はドイツの復活は信じ切れなかったようです。

そして、この先に彼は「ドイツ文化は終わった」との感慨をこめて「4つの最後の歌」を生み出します。
深い絶望感はシュトラウスの本性とも言えた金銭欲や権力欲と言う灰汁を洗い落としてしまい、最後の最後でシュトラウスらしい艶麗たる優美さは失うことなく、なんといえない高貴さと品格の良さが匂い立ってくる作品を生み出す事につながりました。

その意味で、シュトラウスの音楽を「遊び半分の名人芸」と評してきたフルトヴェングラーが、この最後の2作品については最高の評価を与えたのは極めて妥当な判断だったと言えます。


まるでウィーンのオーケストラのような響き

この録音を聞いて一番驚かされるのは、ある意味ではもっともドイツ的だと言われるバンベルク響がまるでウィーンのオーケストラのような響きで演奏していることです。人によれば、メタモルフォーゼンなどの演奏からは、第2次大戦でなくなった人々への痛切なる慟哭のようなものが聞き取れるというのですが、私にはそれよりもこの優美で美しい響きの方にこそまず耳がいってしまいます。

そして、それが「クープランのクラヴサン曲によるディヴェルティメント」のような、擬古典的な優美な音楽であればその美しさは一層作品の魅力を引き立てますし、デュカスの「魔法使いの弟子」なども、これをブラインド聞かされてウィーン・フィルの演奏だよと言われれば納得してしまう人もいるでしょう。
もちろん、それは「魔法使いの弟子」だけに限った話だけでなく他のリヒャルト・シュトラウスの作品にもあてはまります。少なくとも、私は「ウィーン・フィルの演奏だよ」と言われればきっと信じてしまうはずです。

と言うことは、ここで聞くことのできるオーケストラの響きというのはクラウスが最も強く求めるオケの響きだと言うことになります。そして、クラウスとウィーン・フィルとの相性の良さは常に指摘されるのですが、それは裏を返せばクラウスがウィーン・フィルの響きに乗っかっているのではなくて、クラウスが理想とする響きをもっとも的確に実現できるのがウィーン・フィルだったと言うことなのでしょう。

意外な話ですが、クラウスという人は結構しつこくリハーサルを行って、楽団員との関係は結構緊張関係になることが多かったようです。
それは、彼の中に理想とする響きが確固として存在していて、その理想にほど遠ければ絶対に許せないという気性だったのでしょう。

そう言えば、あのチェリビダッケも晩年はどのオーケストラを指揮しても同じような音色を紡ぎ出していました。そして、その背景には気の遠くなるようなリハーサルの積み重ねがあったことはよく知られています。
ある意味では全く異質と思われるこの二人の指揮者は意外なところで共通点があったのかもしれません。

ちなみに、バンベルク響と言うのは、もともとはチェコにあったドイツ系の人々によって創設されたオーケストラが母体になっています。それが、ドイツの敗戦でチェコ在住のドイツ系の人々が追放されることでオケは解散し、その団員たちがドイツの小都市バンベルグで新しく創設したのがバンベルクでした。
人口が10万人にも満たない小都市には不釣り合いなほど立派なオーケストラなのですが、その背景にはそう言う戦争の影響があったようです。そして、それ故に彼らのドイツ的な指向は非常に強いものとなったのでしょう。
それだけに、そう言うオケからこういう響きを生み出したクラウスというのは、やはりチェリビダッケのような並大抵の男ではなかったようです。

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