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Home|アンタル・ドラティ(Antal Dorati)|ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1959年6月16日&18日録音

Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]

Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68 [2.Andante sostenuto]

Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68 [3.Un poco Allegretto e grazioso]

Brahms:Symphony No.1 in C minor, Op.68 [4.Adagio - Piu Andante - Allegro non troppo ma con brio]


ベートーヴェンの影を乗り越えて

 ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。 い人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。


「幻」の全集

ドラティのブラームス交響曲全集には「幻」という言葉が冠せられることが多いようです。まあ、こう言えば聞こえはいいのですが、要はほとんど話題になることもなく「無視」されてきた録音だと言うことです。

確かに、ドラティと言えばまずはハイドン、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽、さらには同郷のバルトークやコダーイなんかに優れた適正を示したという印象はあっても、ベートーベンやブラームスみたいなドイツ・オーストリア系の正統派(ってなにが正統なのよ・・・という正統な突っ込みはひとまず脇において)音楽とはなんだかミスマッチな気がします。

ところが、実際に聞いてみると、例えばベートーベンなんかは確かにガタイは小さいのですが、とんでもなくパキパキとした演奏で、よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないのです。ある意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。どの録音を聞いても最後のフィナーレでは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくて、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。

そして、それとほぼ同じ事が、このブラームスの録音にもいえます。
ドラティによるブラームスは以下のような順で録音されています。


  1. ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73・・・ミネアポリス交響楽団 1957年12月12日録音

  2. ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68・・・ロンドン交響楽団 1959年6月16日&18日録音

  3. ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98・・・ロンドン交響楽団 1963年7月11日&13日録音

  4. ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90・・・ロンドン交響楽団 1963年7月13,14日&16日録音



最初の第2番だけが手兵のミネアポリス交響楽団を使い、残りの3曲はロンドン交響楽団を使っています。
ドラティはミネアポリス交響楽団を1960年まで率いていたので、少なくとも59年録音の第1番ではこの手兵を使って録音するのが普通だと思うのですが、その普通のことをしなかったあたりにドラティの意気込みみたいなものを感じます。

この全集の録音プロデューサーは全てウィルマ・コザードです。
コザードは、モノラルならば一本のマイク、ステレオ録音になってからは左右に一本ずつ追加して合計で3本というスタイルを厳格に守り続けた人です。いわゆるワンポイント録音という手法で、3トラックに録音した音を2チャンネルにトラックダウンするだけですから、録音してからの調整などはほとんどできません。
ですから、録音してからいかようにも料理できるマルチマイク録音と違って、演奏する側に一切の誤魔化しを許さない録音スタイルでした。

ですから、上手に化粧を施された最新録音を聞きなれた耳からすれば、ミネアポリス交響楽団との録音は「荒さ」みたいなものを感じるのですが、誤魔化し無しでこれだけ演奏できれば実は大したものなのです。
しかし、残りの3曲をロンドン交響楽団で聴いてしまうと違いは歴然としてしまいます。この時代のロンドン響は凄いのです。

ドラティという人は「オーケストラ・ビルダー」であると同時に本職の「作曲家」でもあったのですが、そういう現在の作曲家としての目で音楽を一から見直せば鋭い切れ味抜群のリズムとテンポで音楽を再構築したくなるようです。そして、その本能を満たすにはミネアポリスのオケでは役不足と感じたのでしょう。

特に、63年にまとめて録音された3番と4番は実に素晴らしい演奏です。
個人的には、第3番の最後の二つの楽章がとりわけ気に入りました。そう言えば、このピアニシモで終わるこのフィナーレが苦手で、聞くと必ず眠ってしまうなんて書いたことがあったのですが、ドラティとロンドン響との演奏ではそんな愚かなことは絶対に起こりません。
第4番の第2楽章のしみじみした雰囲気も秀逸なのですが、それよりも決して「枯れてはいない」ブラームスの姿がはっきりと聞き取れる音楽の作りが実に凄いです。

この二つの録音がなければ、いささか行儀のよすぎる1番のロンドン響よりも、ある程度の「荒さ」が牧歌的な第2番に妙にマッチしているミネアポリスの方が好ましく思う面もありました。
しかし、63年に録音された二つのブラームスの世界は、残念ながらミネアポリスとのオケでは実現できない世界であったことは否定しようがありません。
長く無視されながらも最近になって「幻」という定冠詞がついた所以でもあったのでしょう。

この演奏を評価してください。

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