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アンドレ・ナヴァラ(Andre Navarra) |エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年録音(Andre Navarra:(Con)Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on 1957) Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [1.Adagio; Moderato]
Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [2.Lento; Allegro molto]
Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [3.Adagio]
Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [4.Allegro; Moderato; Allegro, ma non troppo; Poco piu lento; Adagio]
意外と評価が低い作品なのでしょうか?・・・、不思議です。
レコード芸術という雑誌があります。私は購読しなくなって随分な日が経つのですが、一応クラシック音楽を聴く人間にとっては定番のような雑誌です。その定番の雑誌の定番とも言うべき企画がベストレコードの選出です。20世紀が終わろうかと言うときには、誰もが想像するとおりに20世紀のベストレコードの選出を行っています。その時の企画が一冊の本となって出ているのですが、選出の対象となった300の作品の中にこの協奏曲はノミネートされていません。
エルガーの作品でノミネートされているのは驚くなかれ「威風堂々」だけです。これでは、エルガーはマーチの作曲家だったと誤解されても仕方がありません。
チェロによる協奏曲と言うことでは、おそらくドヴォルザークのものと並び立つ最高傑作だと思うのですが、残念ながら無視をされています。
それは同時に、日本におけるエルガー評価の反映なのかもしれません。
それはエルガーに限ったことではなく、同時代のイギリスを代表するディーリアスになるとノミネートすらされていませんから、日本におけるイギリス音楽の不人気ぶりは際だっています。おそらくその一番大きな原因は、にこりともしない晦渋さにあるのでしょうね。
どこかで聞いたエピソードですが、エルガーの作品は退屈だという意見には不満を感じるイギリス人も、ディーリアスになると他国の人間には分かってもらえないだろうなと諦めてしまうそうです。
しかし、あらためてこのエルガーのチェロ協奏曲を聴いてみると、冒頭のチェロのメロディは実に魅力的です。ドヴォルザークならこれに続いてどんどん魅力的な歌を聞かせてサービス満点の作品に仕上げてくれるのですが、エルガーの場合はその後はいつものイギリス風に戻ってしまいます。しかし、ある種の晦渋さと背中合わせになっているそのような渋さが、聞き込むほどに良くなってくるという意味で「大人の音楽」と言えるのかもしれません。
なお、この作品を完成させた翌年に彼を生涯にわたって支え続けてきた妻を亡くすのですが、その打撃はエルガーから創作意欲を奪ってしまいます。その後の15年間で数えるほどの作品しか残していませんから、この協奏曲は実質的にはエルガーの最晩年の作品といえます。
音楽の核心にまっすぐに切り込んでいく真摯さ
アンドレ・ナヴァラは早熟の天才でした。しかし、彼は決して道を急がなかった人でした。
20歳でラロの「チェロ協奏曲 ニ短調」を演奏してソリストとしてデビューしていながら、ソリストとしての活動をメインにする前にパリ・オペラ座管弦楽団の首席チェリストとして長く活動しています。
彼はそこで戦前の華やかなパリの空気に包まれながら、トスカニーニやワルター、フルトヴェングラー等の偉大な指揮者たちの音楽を間近で経験して、彼の音楽のバックボーンを形づくったのではないかと思われます。
そのおかげで、フルニエやトルトゥリエ、ジャンドロンに代表されるような、フランス風のチェリストとは一味違う音楽を作り上げていったのです。
そのことはこの上もなくエネルギッシュなシューマンの協奏曲を紹介した時にも少しふれました。
しかし、それ以上にナヴァラの持ち味を味わうには、このエルガーの協奏曲はもってこいの作品です。
エルガーのチェロ協奏曲といえば、世間的にはデュ・プレとバルビローリの録音で「決まり!」みたいなものです。いわゆる刷り込み」みたいなものもあるのかもしれませんが、結局あれこれの録音を聞いても、最後に帰ってくるのはやはりデュ・プレでした。
しかし、おそらくはバックをバルビローリがつとめていることも大きなアドバンテージになっているのでしょうが、ナヴァラのチェロからはデュ・プレとは異なる「男泣き」の音楽が聞こえてきます。もっとも、今の時代に「男泣き」などという言葉はいささか不適切なのかもしれませんが、その言葉の背景にはこらえてこらえて、それでもこらえきれずに悲しみを吐露するというイメージがあります。
ナヴァラのチェロはフランス的な優雅で粋な音とは少し異なり、芯の強いそして一つずつの音を克明に刻み込むような強さがあります。それは、音楽の核心にまっすぐに切り込んでいくような真摯さにあふれていて、それだけにAdagio楽章での男泣きにはこちらまで涙を誘われます。
そして、そこで改めてバルビローリがこの作品にどれほどの深い敬意の念を持っていたかを知らされます。
ともかく、デュ・プレにしてもナヴァラにしても、バルビローリがいてこその演奏だったことは間違いあありません。
そして、そのバルビローリの深い思いにこたえることができたのはナヴァラとデュ・プレだったということなのでしょう。
デュ・プレ以前にもかくも素晴らしいエルガー演奏があったことを見いだせたのは大きな喜びでした。
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