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モーツァルト:フルート四重奏曲 第1番 ニ長調, K.285(Mozart:Flute Quartet in D major, K.285)

(Fl)ジャン・ピエール・ランパル:パスキエ・トリオ 1960年代録音(Jean-Pierre Rampal:Pasquier Trio Recorded on 1960s)



Mozart:Flute Quartet in D major, K.285 [1.Allegro]

Mozart:Flute Quartet in D major, K.285 [2.Adagio]

Mozart:Flute Quartet in D major, K.285 [3.Rondo]


フルートがオペラのヒロインのように感じられる

モーツァルトのフルートを独奏楽器とする作品は、裕福な商人でもあったフェルディナン・ド・ジャンからの依頼によっていやいやながらも作曲されたものだと言われいてきました。つまりは、モーツァルトはフルートという楽器はあまり好きではなかったと言うのです
しかし、最近の研究によると、それは少しばかり事情が違うようだと考えられる様になってきているそうです。

ド・ジャンはフルートの素人奏者だったのですが、彼がモーツァルトに示した報酬は破格のものでした。それは、フルート協奏曲と四重奏曲の作曲に対して200グルテンを支払うというものだったのです。
200グルテンというのは、当時の音楽家が受け取れる半年分の報酬にあたるものだったのです。

そして、その依頼は、パリへの旅行の途中で立ち寄ったマンハイムで世話になったヴェンドリンがモーツァルトをマンハイムにもう少しとどめておくために用意した仕事だったようです。
そして、その依頼に対して、モーツァルトは父親への手紙で2ヶ月もあれば仕上げられると安請け合いしているのです。
しかし、息子の性格をよく知っている父親のレオポルドはこの言葉を全く信用せず、仕事をはやく済ませるようにお尻を叩く手紙を送ります。しかし、モーツァルトはあれやこれやと言い訳を書き連ねた手紙を送るばかりで仕事ははかどらず、ついにはレオポルドが予想したように約束の期間に作品は完成しなかったのです。

モーツァルトが約束の期間に完成させたのは協奏曲2曲と四重奏曲3曲だったのですが、依頼されたのは協奏曲4曲と四重奏曲6曲だったのです。そのために、ド・ジャン氏から支払われた報酬は半分の96グルテンにとどまってしまったのです。
モーツァルトはその事に対して「半分ならば4グルテン不足だ」と父親に書き送ったために、それまでの手紙のやり取りでモーツァルトが依頼された作品の数を少なく偽っていたことがばれてしまいます。

当然の事ながら、レオポルドは息子に対して手厳しい手紙をおくって彼の怠惰を非難するのですが、その手紙に対してモーツァルトは「ご存知の通り、僕は我慢できない楽器のために書かなくてはならないときは、いつもたちまち気が乗らなくなります」と言い訳の手紙を送ったのです。

モーツァルトはフルートという楽器がお気に入りではなかったという通説はこのモーツァルトの「手紙」に基づくのですが、どうやら真実は、父親からの厳しい叱責を切り抜けるためのその場限り「嘘」だった可能性の方が高いのです。

落ちついて考えてみれば、いかにモーツァルトといえども、嫌いな楽器のためにこれほどにユーモアと温かみ、そして洗練された音楽が書けるというのは考えがたいのです。
さらに言えば、この一連のフルートのための作品はフルートという楽器の技術的な可能性を学び取り、その限界に挑戦しているものの、その限界を超えて演奏者を困らせるような事はしていないのです。
フルートという楽器が嫌いならば、それは考えがたいことです。

アインシュタインはこの第1番のアダージョ楽章を「甘美な憂愁」とよび「おそらく今までにフルートのために書かれたもっとも美しい伴奏付きの独奏曲」と絶賛しています。


ソリストのもち味を十分に発揮させる

パスキエ・トリオはその名の通りパスキエ3兄弟によって1927年に結成された室内楽団です。彼らは父親はヴァイオリニスト、母親はピアニストという音楽家の家庭で育ち、長男のピエール・パスキエがヴィオラ、次男のジャン・パスキエがヴァイオリン、三男のエティエンヌ・パスキエがチェロという弦楽三重奏団です。
この組み合わせは、例えばモーツァルトの「ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調, K.563」のような神品とも言うべき作品もあるのですが、一般的にはそれほど多くの作品に恵まれているスタイルではありません。どうしても、そこにピアノとかフルート、オーボエなどが加わらないとプログラムが広がりません。
そこで、彼らはゲストとしてピアニストのマルグリット・ロン、フルーティストのランパルなどと組んで演奏会や録音を活発に行うことになります。

とは言え、彼らの名を高らしめたのは、何といってもその長いキャリアの中で3回も録音したモーツァルトの「ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調, K.563」であったことは間違いありません。

それにしても「弦楽三重奏曲」と言うのは不思議な演奏形態です。見た目には世間に山ほど存在する弦楽四重奏曲からヴァイオリンが一つぬけただけなのですが、音楽がつくり出す様相は随分と変わってしまいます。
もちろん、ヴァイオリンが一つぬけるのですからその分響きは薄くなります。しかし、そのマイナスと引き替えに響きの透明感は高まります。
あのモーツァルトの三重奏曲が「神品」と言われるのは、その透明感によってそれぞれの楽器の絡み合い、精妙なフレーズの移ろいやダイナミズムの変化などが聞き手に深い集中力を要求するからでしょう。

しかし、それは裏返せば、演奏する側に、そう言う聞き手の高い集中力を十分に納得させるだけの音楽性と精緻な呼吸の共有が必要です。そう、「精緻なアンサンブル」ではなくて「精緻な呼吸の共有」です。
おそらく、楽譜通りに縦のラインが揃っているだけでは話にはなりません。緊張度の高い精緻なアンサンブルが必要なことは言うまでもないのですが、ここぞと言うところで何か遊び心のような部分が出てこないとモーツァルトとは言えないような気がするのです。
その意味では、パスキエ・トリオの場合は常設のグループであり、さらに三兄弟なのですから、その部分に関しては彼らを凌駕するのは不可能でしょう。

とはいえ、コンサートのプログラムが弦楽三重奏曲だけでは成り立ちません。何といっても、それだけでは食っていけません。
ですから、彼らはオーケストラのメンバーとしても活動していました。しかし、単純にそう言う経済的な理由だけでなく、パスキエ・トリオとして活動していくためには、どうしてもそこにフルートやピアノなどのソリストが加わる形が必要となります。そうしなければ、パスキエ・トリオとしてのコンサートのプログラムがいつも同じようなものになってしまうからです。

そして、ソリストにしても、パスキエ・トリオのような常設のトリオと演奏するのは好ましかったでしょう。
彼らな、その「精緻な呼吸の共有」によって、それぞれのソリストたちが気持ちよく、そしてその持ち味を存分に発揮できるような舞台を設えてくれるのですから。これは、にわか編成の三重奏では到底不可能なことです。例えその3名がハイフェッツ、フォイアマン、プリムローズのような腕利きであっても無理だと言わなければなりません。
それ故に、ピアニストのマルグリット・ロン、フルーティストのランパルのようなビッグネームたちは喜んで協演したのでしょうランパルなどは50年代と60年代の2回にわたってモーツァルトのフルート四重奏曲を録音しています。よほど、彼らとは気があったのでしょう。

なお、ここでソリストをつとめているピエール・ピエルロは日本にも良くやってきた人なのでお聞きになられた方もおられるかもしれません。
生粋のパリッ子だったようで、ランパルやジャック・ランスロー等と木管五重奏団を結成して演奏活動を開始し、その後はパリのオペラ=コミック座に首席オーボエ奏者として加わったようです。また、ジャック・イベール、フランシス・プーランクやダリウス・ミヨーたちの作品を積極的に取り上げていたのも、パリッ子らしいと言えるのでしょうか。


ちなみに、ランパルとの60年代の録音はどうしても詳しい録音年代が特定できなかったのですが、1966年にステレオ録音が国内でもリリースされていますから間違いなくパブリックドメインのようです。
また、そこでは録音がステレオであることが大きなメリットになっていることにも気づかされました。
おかしな話と思われるかもしれませんが、オーケストラ曲のような規模の大きな編成だと、時にはステレオ録音故の音場優先の音づくりが響きの薄さに繋がって不満を感じることが良くあります。逆にクオリティの高いモノラル録音だとそのドッシリとした中身の詰まった響きが非常に好ましく思えることがあります。
しかし、このような小編成の室内楽だと、その精緻な楽器の絡み合いがもたらす美しさはステレオ録音の方が圧倒的に有利であり、その事はここで紹介しているランパルとパスキエ・トリオによる2種類の録音を聞き比べてみれば誰もが納得してくれるでしょう。

また、ステレオ録音の時のランパルはまさに脂ののりきった時期の演奏だったようで、その響きの美しさだけでなく心地よいまでの疾走感のようなものが感じられて非常に魅力的です。

そして、その演奏もまた、いうまでもなく心の底からモーツァルトの世界にひたらせてくれる優れものばかりです。
弦楽三重奏という世界を最後まで大切にしてくれたパスキエ兄弟には感謝あるのみです。

この演奏を評価してください。

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