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スタインバーグ(William Steinberg) |ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1957年4月18日録音
Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis
交響曲は知らなくても・・・
ヴォーン・ウィリアムスについては既に
ボールト指揮による「交響曲全集」 をアップしてあります。交響曲という形式が終焉を迎えた20世紀という時代に9曲もの交響曲を残したと言うことで「隠れたシンフォニスト」などと言われたりします。
しかし、そう言う彼の本線である交響曲を聞いたことがなくても、この弦楽合奏を主体とした二つの幻想曲なら聴いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ヴォーン・ウィリアムズは20世紀の作曲家としては珍しく穏やかで美しい旋律ラインを持った音楽を書いた人というイメージがあります。そう言うイメージにピッタリなのがこの二つの幻想曲であり、とりわけ「トマス・タリスの主題による幻想曲」は彼に作曲家としての成功をもたらした作品です。
トマス・タリスの主題による幻想曲
トマス・タリスとは16世紀のイングランドで活躍した作曲家でありオルガン奏者でした。ロンドンの小さな教会のオルガン奏者からたたき上げて最後は王室礼拝堂のオルガン奏者にまで上りつめた人で、テューダー朝のヘンリー8世、エドワード6世、メアリー1世とエリザベス1世という歴代の王に仕えました。
ヴォーン・ウィリアムスがこの幻想曲のもとにした「トマス・タリスの主題」とは、彼が1567年に書いた「大主教パーカーのための詩編曲」の第3曲の旋律です。
ヴォーン・ウィリアムスはこの偉大なオルガン奏者に敬意を表したのか、単純な弦楽合奏としてこの作品を仕上げるのではなく、二組の弦楽合奏(一組は通常の弦楽合奏、もう一つは少し離れた場所に各パート二人からな小規模の弦楽合奏と指定)と、一組の弦楽四重奏によってオルガン的な響きを実現しています。
グリーンスリーヴスによる幻想曲
おそらく、ヴォーン・ウィリアムスにとっては不満でしょうが、彼の作品の中ではもっとも有名な作品です。何故ならば、その「有名」さの大部分がイングランドの古い歌「グリーンスリーヴス」に依存しているからです。
この作品はもともとはオペラ「恋するサー・ジョン(Sir John in Love)」の第3幕の間奏曲としてかかれたものであり、さらにその間奏曲をラルフ・グリーヴズ(Ralph Greaves)が編曲して独立させたのが「グリーンスリーヴスによる幻想曲」です。楽器編成は弦楽合奏を主体としながらそこにハープとフルートが追加されています。
とは言え、その編曲はヴォーン・ウィリアムス自身も気に入ったようで、1934年に本人の指揮で初演されています。
と言うことで、この作品の著作権関係が心配になったのですが、調べてみると編曲者である「ラルフ・グリーヴズ」の権利も既に消滅していました。
ヴォーン・ウィリアムズがスコアに託した響きを完璧なバランスで再現
スタインバーグによるヒンデミットの交響曲「画家マティス」を聞いたときに、彼はただの「職人指揮者」という枠なのかではとらえきれない存在だと驚かされました。あの「画家マチス」は作品の背景として存在したであろうナチスにおける抑圧されたものの感情が痛いほどに聞き手の側に迫ってくる演奏でした。
ただし、注目すべきなのは、そのような抑圧されたものの心情をドラマとして演出しているのではなく、あくまでも新即物主義的な解釈であることに徹しながらそれを実現していることです。
彼はヒンデミットがスコアに託した思いを、何も足さず何も引かず、またオーケストラにも余分な響きを盛ることもせず、ひたすらまっすぐにヒンデミットの代弁者であろうとしています。そして、その音楽を通して聞き手が様々な感情を抱いてくれるとしたら、それは演奏者である自分ではなくて、音楽を生み出したヒンデミットの貢献だと主張しているような演奏でした。
そして、それと全く同じアプローチがこのヴォーン・ウィリアムズの演奏でも徹底されています。
ヴォーン・ウィリアムズと言えば真っ先に思い浮かぶ「トマス・タリスの主題による幻想曲」も、ボールトのような厳しさやオーマンディのような甘さではなく、かといってそれを足して2で割ったような演奏にしているのではなくて、まさにヴォーン・ウィリアムズがスコアに託した響きを完璧なバランスで再現することによって、この作品が持っている浮遊感のようなものが見事に表現されています。
ただし、スタインバーグがくせ者なのは、基本的にはそう言う新即物主義的なスタイルを貫きながら、時々ブルックナーのロマンティックやチャイコフスキーのイタリア奇想曲みたいに、「なんだこりゃ」みたいに脳天気とも言えるような演奏をしてしまうこともあると言うことです。
実は、「5つのチューダー朝の肖像」はこの録音でしか聞いたことがありません。さらに言えば、作品そものに関する情報も乏しく、作品紹介の項で書いた「ここまで怒りの日をおちょくった作品を知りません」と書いたのですが、それはあくまでもこの録音を聞いての感想をもとにしたものです。
そして、もしかしたら、時々顔を出す脳天気な気質がここで炸裂している可能性は否定できないのです。
まあ、おそらく大丈夫だろうとは思うのですが、個人的にはこういう風な音楽は嫌いではないので、ヴォーン・ウィリアムズがこういう音楽を書いたと信じたいものです。
この演奏を評価してください。
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