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ベンノ・モイセイヴィチ(Benno Moiseiwitsch)|ボッケリーニ:チェロ・ソナタ第6番 イ長調, G.4(Boccherini::Cello Sonata No. 6 in A Major, G.4)
ボッケリーニ:チェロ・ソナタ第6番 イ長調, G.4(Boccherini::Cello Sonata No. 6 in A Major, G.4)
(Cell)エンリコ・マイナルディ:(P)カルロ・ゼッキ 1952年録音(Enrico Mainardi:(P)Carlo Zecchi Recorded on 1952)
Boccherini::Cello Sonata No. 6 in A Major, G. 4 [1.Adagio]
Boccherini::Cello Sonata No. 6 in A Major, G. 4 [2.Allegro]
Boccherini::Cello Sonata No. 6 in A Major, G. 4 [3.Affettuoso]
伴奏楽器から主役へ

ルイジ・ボッケリーニのチェロソナタは、チェロという楽器を「伴奏楽器から主役への完全な脱皮」を果たしたともいえる重要な作品です。
ボッケリーニは通奏低音を支えるだけの楽器だったチェロを、ヴァイオリンに匹敵する高音域での旋律演奏を要求して主役になりうるポジションを与えました。さらに、素早いパッセージや重音奏法、そして独自の美しいフラジオレットなど、当時のチェロの限界に挑むような超絶技巧を盛り込んでいきました。
自らがチェロのヴィルトゥオーゾだったボッケリーニは30曲を超えるチェロ・ソナタを通して、わき役から主役への道を切り開いていったのです。
チェロ・ソナタ第6番 イ長調 G. 4
チェロ・ソナタ第6番 イ長調 G.4は、ボッケリーニのチェロソナタを代表する作品と言えます。、ひいては18世紀のチェロ音楽における最高峰の傑作として広く認められている作品です。
このソナタが突出して有名な理由は、19世紀の伝統的なチェロの教育課程やリサイタルにおいて、文字通り「必須のレパートリー」として定着したからです。
特に第1楽章の、弾き始めた瞬間に空間がパッと明るくなるような「イ長調のアルペジオ主題」は非常にキャッチーで、世界中のチェロを学ぶ学生が必ず一度は通る道となっています。
ボッケリーニの全作品に通底する「優雅さ(ガルラント様式)」「イタリアの歌心」「超絶技巧」が最も完璧なバランスで結晶化したのが、このG.4です。
- 第1楽章:Adagio
一般的なソナタとは異なり、ゆったりとした Adagio で幕を開けます。
冒頭、チェロが豊かな和音(重音)を伴いながら、堂々とした、しかし極めてエレガントな旋律を歌い出します。
テンポは緩やかですが、細かな16分音符や32分音符の装飾的な音階、アルペジオが万華鏡のように散りばめられており、独奏者のセンスと高度なボーイングが試される、非常に内容の濃い楽章です。
- 第2楽章:Allegro
ソナタの実質的な「主役」とも言える、生命力に満ち溢れた急速楽章です。
下から上へと一気に駆け上がるイ長調の分散和音のテーマが、聴き手に強烈な爽快感を与えます。
曲が進むにつれ、旋律はチェロの最高音域へと突入します。親指を駆使したハイポジションのパッセージが連続し、ヴィルトゥオーゾ的な興奮をもたらします。
- 第3楽章:Affettuosoフィナーレは激しい爆発ではなく、ボッケリーニらしい気品に満ちた、ステップを踏むようなメヌエット風の音楽(Affettuoso)です。
技巧的な緊張感から解放され、聴き手も演奏者も心地よい幸福感に包まれるような、穏やかで美しい幕切れを迎えます。
春風の中にたゆたうような長閑さ
マイナルディのチェロはいつも春風の中にたゆたうような長閑さです。その雰囲気を蕪村の句をもじって
ゆく春やおもたきチェロの抱きごころ
などと悦に入っていたものです。
ただし、それがあまりにも長閑にすぎて間延びしすぎないように、カルロ・ゼッキのピアノが要所要所で締めているのが見事です。しかし、締めながらも、そのピアノは居丈高になることなく、どこまで行っても実に軽やかに駆け回ってくれています。
ただし、カルロ・ゼッキなどと言うピアニストは全くぴんと来ないのですが、ベートーベンやボッケリーニなどの録音を聞く限りはなかなかに魅力的なピアニストであることは間違いありません。
しかし、ふとどこかで「カルロ・ゼッキ」という名前を聞いたことがあるような気がします。
調べてみれば、なんと群響や日フィルにたびたび客演して素晴らしい音楽を聞かせてくれたあの「カルロ・ゼッキ」と同一人物だった事が分かったのです。
もちろん、私は彼の指揮を実際に聞いたことはありませんが、遠山慶子と録音したモーツァルトの協奏曲は記憶に残っています。
ところが、なぜか、私の中ではマイナルディのパートナーとして活躍していたピアニストと、たびたび来日しては指揮活動を行っていた指揮者が結びつかなかったのです。
そして、結びついた途端に、何とも言えず親しみが湧いてきて、ピアニストとしてもなかなかの腕前だったのだと感心させられました。
いや、これって滅茶苦茶凄いんじゃないのと思ってしまうほどの腕の冴えを感じます。
そう思ってさらに探ってみると、若い頃はシュナーベルやブゾーニに師事し、一時はミケランジェリの好敵手と目されたと言うのですから、大したものです。
さらに笑えるのは、嘘か本当かは分かりませんが、彼がピアニストの活動を断念して指揮活動に専念するようになったのは、借金の返済のために「事故でピアノを弾けなくなった」と偽って保険金を受け取ったためだというのです。
なるほど、それならばピアニストとしての活動が出来なくなるのも仕方がないのですが、なかなかに笑えるほどにユニークな人だったようです。
そう言えば、最晩年に群馬交響楽団に客演をしたときには車椅子でやってきて、「おはよう」と言って1曲を通して演奏し、終わると「疲れた」と言って帰るだけでリハーサルは終わりだったそうです。
そんな「おはよう」と「疲れた」だけのリハーサルを数回繰り返しただけだったのに、本番での演奏は群響の歴史に残るような名演だったそうです。
その時にアシスタントを務めた若手の指揮者は「指揮って何だろう?」と考え込んだそうですから、やはり常人にはとらえどころのないほどに懐の深い人だったのでしょう。
うつつなきつまみごころの胡蝶かな
蕪村風に言えばこうなるのでしょうか。
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