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ギーゼキング(Walter Gieseking)|シューマン:謝肉祭
シューマン:謝肉祭
(P)ギーゼキング:1943年録音
Schumann:謝肉祭
様々な人間的な感情の交錯
ロマン派の時代におけるピアノ音楽の新しい地平を切り開いたシューマンの、最初期における輝かしい金字塔がこの作品です。
最初と最後に音楽全体の序と終結の役目を果たす比較的規模簿の大きな曲を配置し、その間に様々な容貌と特徴を持った華麗なる19の小品をちりばめたこの作品は、古典派のかたぐるしい上着を脱ぎ捨てて、人間的な感情のあふれるがままに楽想を飛翔させたものです。ただし、シューマンが偉大なのはその様な飛翔が恣意的で放埒なものになることなく、全ての音楽がごく小さな根本動機からの変奏として作品全体が強固に結びあわされていることです。
しかし、このような言葉による説明は現実に鳴り響く音楽の前では虚しいだけです。私たちはその音楽に謙虚に耳を傾ければ、シューマンがこの作品に施した様々な謎かけに関する知識などを持たなくても、光と影が明滅する木漏れ日のように、様々な人間的な感情の交錯に陶然とさせられます。
ここにおいて神は音楽の表舞台から退場し、音楽は純粋に人間にのみ仕えるようになったのです。
第1曲:前口上
第2曲:ピエロ
第3曲:アルルカン
第4曲:高貴なワルツ
第5曲:オイゼビウス
第6曲:フロレスタン
第7曲:コケット
第8曲:返事
第9曲:パピヨン
第10曲:A.S.C.H. - S.C.H.A. - 踊る文字
第11曲:キアリーナ
第12曲:ショパン
第13曲:エストレラ
第14曲:めぐりあい
第15曲:パンタロンとコロンビーヌ
第16曲:ドイツ風ワルツ−
第17曲:パガニーニ(間奏曲)
第18曲:告白
第19曲:プロムナード(散歩)
第20曲:休憩
第21曲:ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進
煩悩の中でのたうちまわる演奏・・・?
ギーゼキングといえば即物主義的な演奏の大家です。そのイメージでこの一連のシューマン作品(ダヴィッド同盟舞曲集・クライスレリアーナ・ソナタ第1番・・・以上42年の録音、謝肉祭・・・43年の録音)を聞くと脳天をかち割られます。
これって本当にギーゼキングの演奏?
そうなのです。ギーゼキングといえども最初からあんなにも取り澄ました演奏をしていたわけではないのです。それは、若い人が老人を見るとき、その人は昔からずーっと老人であったかのように見てしまう誤りと共通しています。
今は欲も得も捨てて枯れきったような日常を送っている人でも、かつては欲と煩悩にまみれた若き時代があったということです。そして、凛とした清貧の生活に彼岸の真実があるとすれば、煩悩の中でのたうち回る姿の中にも此岸の真実があると言うことです。
第2次大戦の惨劇の中で、彼はどのような思いでこの作品を弾いたのでしょうか。
この演奏を評価してください。
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