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ボロディン:「イーゴリ公」より「序曲」「前奏曲/ダッタン人の行進」「ダッタン人の踊り」

ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1958年9月録音



Borodin:Prince Igor [1.Overture]

Borodin:Prince Igor [2.Prelude-Polovtsian March]

Borodin:Prince Igor [3.Polovtsian Dance]


今や有名曲ですね。

随分前の話になるのですが、何人もの方から、「ダッタン人の踊り」をアップしないのかとプッシュされました。
私の感覚としてはボロディンのこの作品はどちらかと言えば辺境のマイナー曲というイメージがあったので、なぜにこんなにもたくさんリクエストが来るんだ?と不思議に感じたものでした。

しかし、調べてみるとコマーシャルなんかにもよく使われているみたいで(JR東海の「うまし うるわし 奈良」)、さらにあの有名なメロディをカバーしたポップス曲なんかも出ていたのでした。
ですから、クラシック音楽に興味は無くても、あのメロディは知っているという人が意外と多いようで少しばかり驚いたものでした。

ご存知のように、この作品は、ボロディンがその生涯をかけて作曲に勤しんだ歌劇「イーゴリ公」の中の1曲です。残念ながら、本職が「化学者」で、趣味として作曲活動を続けていたボロディンはリムスキー・コルサコフの助力を得ながらも、最終的には自らの手でその作品を完成させることは出来ませんでした。
よく知られているように、未完成のまま放置されたロシア五人組の作品を丹念に仕上げていったのはリムスキー・コルサコフだったのですが、この「イーゴリ公」もリムスキー・コルサコフによって仕上げられて、1890年11月4日、サンクト・ペテルブルクのマリンスキー劇場で初演が行われました。

「ダッタン人の踊り」はこのオペラの中の第2幕に登場するのですが、その分かりやすく異国情緒に満ちた音楽は単独で取り上げられるようになり、今では本体の歌劇よりもポピュラリティを得ています。
そして、「ダッタン人の行進」は第3幕の冒頭に流れる音楽で、オペラではこの音楽で幕が上がります。

多くのロシア人の捕虜を連れて凱旋してくる場面であり、伝えられる話によると、ボロディンは日本の大名行列を描いたものをもとにこの音楽をイメージしたそうです。

なお、「ダッタン人」という表記は、原題が「ポロヴェツ人」になっているため、明らかに翻訳ミスによるものと思われます。一時は、ともに中央アジアで活躍する遊牧民族なので似たようなものだろう、と言われていましたが、今では明らかにミスだとされています。
それから、大阪人である私などは、「ダッタン人」という言葉を見ると、大阪の詩人、安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。」という一行詩を思い出してしまいます。
もちろん、両者の間には何の関係もありませんが・・・。

なお、序曲に関して言えば、ボロディン友人たちの集まりでこの「序曲」をピアノで弾いて披露したりしてはいました。しかし、楽譜は残っていませんでした。
そこで登場するのがグラズノフです。彼は一度聞いた音楽は、例えそれがオーケストラ曲であったてほぼ正確に記憶して、その記憶をもとにスコアに書き起こすことが出来たといいます。ですから、ボロディンがピアノで演奏した「序曲」を思い出して、それにオーケストレーションをつけたのがこの「序曲」だったのです。

この手の話は「天才モーツァルト」のエピソードでもよく語られるのですが、優れた音楽家ならば、やってやれない話ではないようです。
序曲には当然の事ながら歌劇の旋律が巧みに組み合わされていて、最後は華やかに締めくくるので聞きごたえは十分です。歌劇「イーゴリ公」と言えば「だったん人の踊り」ばかりが有名なのですが、これもまた魅力的な音楽です。


各声部は意外なほどクリアで、一片の曖昧さもなくコントロールされている

マタチッチの名前が日本に広く知られるようになったのは1965年秋、スラヴ・オペラの指揮者として初来日したことが切っ掛けだと言われています。この時、歌手はベオグラード国立歌劇場のメンバーがやってきたのですがオーケストラはNHK交響楽団が務めました。「ボリス・ゴドゥノフ」や「イーゴリ公」等というオペラを生で初めて聞くことができた感動だけでなく、その音楽の巨大さと凄まじい熱気が聴衆だけでなく、NHK交響楽団のメンバーの心をもとらえてしまったのです。
そして、これが切っ掛けとなって翌年からマタチッチはたびたび来日してはNHK交響楽団を指揮することになっていくのです。

しかし、これはマタチッチにとっても幸運なことでした。

何故ならば、そのあまり器用とは言えない指揮スタイルゆえにヨーロッパのオケからは次第にオファーが来なくなっていたからです。
そして、今回紹介した1958年9月のフィルハーモニア管との録音を聞いても分かるように、分厚い低声部を土台とした大柄な音楽作りはいささか時代遅れのものになっていくことを予感させました。そしてその予感は、60年代半ば以降にアバドなどに代表される才能に溢れた若き指揮者達の颯爽とした音楽の登場によって現実の物になっていったのです。

しかしながら、まさにそう言う「時代遅れ」になって行きつつあるマタチッチの音楽を正当に評価した日本の聴衆は、その事を誇りとしていいでしょう。

確かに、このフィルハーモニア管との録音は、パッと聞いただけでは異常に分厚い低声部が音楽全体を鈍重なものにしているように聞こえます。そして、その様な「重さ」こそが時代遅れになっていった大きな要因と考えられるのです。
しかし、そこをもう一つ踏み込んで聞いてみると、分厚い低声部が特徴的であっても、その上にのっている各声部は意外なほどクリアで、そして一片の曖昧さもなくコントロールされていることに気づきます。つまりは、マタチッチの音楽は重厚でありながらクリアであり、時にはその響きは透明感すら感じる瞬間があるのです。
ですから、彼の音楽は決して雰囲気だけの大雑把な音楽とは全く異なるものなのです。

しかし、そう言うマタチッチの音楽を現実の物にするためには、意見すれば不器用としか思えないその指揮を真剣に受け取る「リスペクト」がオーケストラの側にあるかどうかが大きな分かれ目となります。
そして、そう言う「リスペクト」を最大限にもって彼の指揮棒に食らいついて行ったのがNHK交響楽団でした。
しかし、残念なことに、その不器用としか思えない指揮スタイルは、この上もなく分かりやすい指揮を持ち味とする優秀な若手たちが台頭してくると、それは次第に「嘲笑」の対象となっていきました。
そのあたりが、自らは一つの音を出すことも出来ない「指揮者」という稼業の辛いこところだとも言えます。

ちなみに、この1958年のフィルハーモニア管もそれなりの「リスペクト」を持ってマタチッチの思いを実現しています。そのあたりは、何よりも録音活動を本職とするオケとしての矜恃でしょうか。
「ダッタン人の行進」などはNHK交響楽団との録音も残っているのですが、記紀較べてみるとフォルハーモニア感はやはり上手いものです。ムソルグスキーの「禿山の一夜」にしても、リムスキー=コルサコフの「ロシアの復活祭」にしても、巨大で凄みがありながら一片の曖昧さもなく各声部がコントロールされているのはマタチッチだけでなくフィルハーモニア管の貢献も大きいと言わざるを得ません。

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