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ブラームス:交響曲第1番


フルトヴェングラー指揮 北西ドイツ放送響 1951年10月27日録音


ベートーヴェンの影を乗り越えて

 ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。

意外なほどに暖かくて穏やかなブラームス


ある方からブラームスの一番ならこの一枚!との推薦を受けました。
「うん?確かその音源ならどこかにあったような?」ということで、あちこちゴソゴソと探していて出てきたのがこの一枚というわけです。
さらに、世間ではどういう風にこの演奏を見ているのかと思って、またまたゴソゴソと探してみると、例えばある評論家などはこういう風に書いているのを発見しました。
曰く、「凄絶な劇性と緊張感ににあふれ、この指揮者の数あるディスクの中でも屈指の名演が展開」されているそうなのです。そこでさらに「ふーん!」と思いつつ久しぶりにプレーヤーにセットして聞いてみました。

でも、流れてくる音楽は「凄絶」でもなければ「劇性と緊張感」にもあふれていません。それどころか、非常にウォームで穏やかささえたたえた演奏なのです。大戦中の演奏のように切羽詰まった思いが結果として造形を大きく崩してしまうようなこともなく、実にキッチリとした演奏です。そのキッチリ度は間違いなくEMIに残したスタジオ録音よりも上です。

フルトヴェングラーの演奏で「凄絶」というのは、例えばブラームスならば、1943年12月に録音された4番や、極めつけは45年1月の2番のような演奏のことを言うのであって、こんなのはその足元にも及びません。
もっとも、昨今の無味無臭の演奏ばかり聞いている耳にはこれでも十分に「凄絶」なのかもしれません。(そんな耳で大戦中の録音を聞けば、「凄絶」を通り越して「狂った」音楽だと思われるかもしれませんね。)

では、この演奏はつまらないのか?時聞かれれば答えは「NO!」です。
実はこれこそが戦後のフルトヴェングラーの最も正統的なスタイルなんだと思います。
とくにオケが手兵のベルリンではなくて北西ドイツ放送響という他人様であるためか実に丁寧にキッチリと演奏しているように思われます。そしてオケの方は、この偉大な指揮者を迎えて、それこそ「命がけ」という雰囲気で全力を尽くしています。
いつもは先に熱くなってしまうフルトヴェングラーなのですが(^^;、ここではオケが最初からあまりにも鼻息が荒いために、終始冷静さを保持して作品のフォルムに歪みというものが全く生じていません。この抑えが効いているために、最後のフィナーレが実に上手くツボにはまっています。
また、音質的にもすぐれているために、EMIのスタジオ録音に対してもそれなりの存在価値は主張できる演奏だと思います。

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