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チェンバロの黄金時代(1)


(Harpsichord)ラファエル・プヤーナ 1962年4月~5月録音


チェンバロの黄金時代

「フォルテピアノ」が登場するまでの鍵盤楽器の王様は「チェンバロ」でした。
この二つの楽器は見た目は非常によく似ています。

しかし、この両者は音を出す仕組みが全く異なります。
音を出すための弦が張られているのは同じなのですが、「フォルテピアノ」はその弦をハンマーで叩くのに対して「チェンバロ」はその弦をはじいて音を出します。
つまりは、「フォルテピアノ」は基本的に「打楽器」であるの対して「チェンバロ」はギターなどと同じ「撥弦楽器」です。

「チェンバロ」はどんなに強く鍵盤を叩いても音量は変化しません。また、音も速やかに減衰していきます。
結果として、複数の声部が絡み合っていく音楽を演奏するには最適ですが、縦の和声を響かせるは至って不適です。
それに対して「フォルテピアノ」は縦の和声を豊かに響かせることが得意であり、その響かせ方によって様々な音色を作り出すことが出来ます。また、複数の声部が絡み合っていく音楽を演奏する事も、演奏家にそれに相応しい技術があれば不可能ではありません。

つまり、この「フォルテピアノ」の登場によって、音楽家は途轍もなく大きな可能性を手に入れたのです。

結果として、「チェンバロ」は次第に「フォルテピアノ」によってその地位を奪われていき、19世紀にはほぼ「滅びた楽器」になってしまいました。
ですから、チェンバロの黄金時代は「フォルテ・ピアノ」が発明された1700年を挟んだ前後の世紀、つまりは17世紀から18世紀ということになるでしょうか。

この録音に含まれている作品の中でもっとも古いのは作曲者不詳の「カーリー夫人のドンプ」で、概ね1500年頃の作品だと推測されています。ちなみに「ドンプ(Dompe)」とは「嘆き、メランコリックな愛の歌」を指す言葉のようです。
次いで、ジョン・ブル、マーティン・ピアソン、ウィリアム・バード、ピーター・フィリップス、ジャン=バティスト・ベサード、アントワーヌ・フランシスクが16世紀から17世紀にかけて活躍した作曲家です。
ちなみに、「ヴォルタ(Volta)」「パヴァーヌ(Pavane)」「ガリアルダ(Galiarda)」は舞曲の種類です。「トンボー(Tombeau)」はラヴェルの作品にも出てくる言葉(クープランの墓:Le Tombeau de Couperin)で「墓」のことですね。

L.クープランは17世紀に活躍し、バッハ、フレイサネット、アルベニスはそれ以降に活躍した人です。とりわけアルベニスは19世紀まで活動を続けています。

ですから、以下の収録順は概ね時代の流れに沿って並べられていますので、16世紀から18世紀に至る鍵盤楽器の王たるチェンバロ音楽の歴史を概観することができる仕組みになっています。


  1. 作曲者不詳:カーリー夫人のドンプ

  2. ブル:道化師

  3. ピアソン:さくら草

  4. バード:ラ・ヴォルタ

  5. ピアソン:落ち葉

  6. フィリップス:悲しみのパヴァーヌ

  7. フィリップス:悲しみのガリアルダ

  8. ブル:王の狩り

  9. ベザール:ブランル・グ

  10. L.クープラン:ブランロシェル氏のトンボー

  11. フランシスク:モンティランデのブランル

  12. バッハ:マルチェルロによる協奏曲 ニ短調 [1.Allegro]

  13. バッハ:マルチェルロによる協奏曲 ニ短調 [2.Andante]

  14. バッハ:マルチェルロによる協奏曲 ニ短調 [3.Presto]

  15. フレイサネット:ソナタ イ短調

  16. アルベニス:ソナタ ニ長調



ランドフスカ最後の弟子


「Rafael Puyana」は「ラファエル・プヤーナ」と読むようです。それほどまでに、今となっては忘れ去られている「チェンバリスト」ですが、これもまた「知る人ぞ知る」存在らしいです。
この「知る人ぞ知る」という慣用句は便利な言葉で、言外に「今は知名度は低いけれど凄い人なんだぞ」というニュアンスを上手く伝えてくれます。

しかし、情報が少ないことは事実で、「6歳でおばからピアノの手ほどきを受け、13歳でボゴタのコロン劇場でデビューを果たす。16歳で渡米し、ボストンのニューイングランド音楽院でピアノの研鑚を続ける。その後ベルリンに留学してチェンバロをワンダ・ランドフスカに、パリに留学して作曲をナディア・ブーランジェに師事」という「ウィキペディア」の情報くらいしかありません。
録音に関してもほとんどが廃盤で、「Mercury」レーベルに録音した3枚くらいしか入手は難しいようです。

しかし、もう少し調べてみると、「ベルリンに留学してチェンバロをワンダ・ランドフスカに師事」したと言うのは、どうやら彼がランドフスカ最後の弟子だったようなのです。そして、古楽復興の立役者でもあり、その門下からは「クリストファー・ホグウッド」などが育っているのです。
そうしてみると、19世紀末から始まったチェンバロ復興の流れを大きな流れに変えたのがランドフスカであり、そのランドフスカからの流れを現在のピリオド演奏へとつなげていった中継者という立ち位置にあったようなのです。

ただし、この「Mercury」に残された録音を聞いてみると、立ち位置はランドフスカそのものです。

まずは、使用している楽器は明らかに「ランドフスカ・モデル」という「モンスター・チェンバロ」を使っていたようです。鋼鉄の枠に強い張力で弦を張り、それを太いツメで引っ掻くのですから、いわゆるヒストリカルなチェンバロと較べると非常に金属的響きがします。プヤーナは音楽を終わるときに長く音を伸ばす癖があるようなのですが、チェンバロとは思えないほどに長く余韻が残るのがはっきり聞き取れます。ピアノでもここまで長く余韻は伸びないと思うほどの凄さです。

この「ランドフスカ。モデルの響き」は「風のようにふんわりと繊細なヒストリカルな響き」を聞きなれた耳にはかなり違和感を感じる思います。正直言って、私もかなり違和感を感じます。(^^v
さらには、その違和感のある響きが腕利きの録音エンジニアによって余すところなくすくい上げていますから(^^;その違和感はなおさら増幅されているような気がします。このモデルには5~6個のペダルがついていて、そのペダルを踏んで音色を切り替えるのですが、そのペダルを踏む音が実に生々しく収録されています。

また演奏スタイルに関しても、彼の師であったランドフスカのスタイルとよく似ています。
ランドフスカは「原典尊重」といいながらも結果としてはかなりロマンティックな音楽に仕上がってしまうのですが、それはプヤーナも同様のようです。悪くない演奏です。
ですから、この演奏を楽しめるかどうかは、この「ランドフスカ・モデル」のチェンバロの響きを受け入れられるかどうかにかかってくるのでしょう。

なお、「チェンバロの黄金時代」と題するアルバムにはプヤーナが1964年に録音した作品も収録されていますが、そちらの方は「Harold Lawrence」によって録音されたものなので分けてアップしています。

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