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チャールズ・ローゼン(Charles Rosen) |ベートーベン:ピアノソナタ第29番 変ロ長調 作品106 「ハンマークラヴィーア」
ベートーベン:ピアノソナタ第29番 変ロ長調 作品106 「ハンマークラヴィーア」
(P)チャールズ・ローゼン 1964年10月12日~13日録音 Beethoven:Piano Sonata No.29 in B-flat major, Op.106 "Hammerklavier" [1.Allegro]
Beethoven:Piano Sonata No.29 in B-flat major, Op.106 "Hammerklavier" [2.Scherzo: Assai vivace]
Beethoven:Piano Sonata No.29 in B-flat major, Op.106 "Hammerklavier" [3.Adagio sostenuto]
Beethoven:Piano Sonata No.29 in B-flat major, Op.106 "Hammerklavier" [4.Introduzione: Largo - Fuga: Allegro risoluto]
後期の頂点へと駆け上がっていく作品
後にも先にも、これほども巨大なソナタを書くことはありませんでした。その意味では、ピアノソナタの最高傑作と言うよりは「異形の作品」というイメージの方が強いようです。
特に、作品57の熱情ソナタ以降は、どちらかと言えばこぢんまりとしたソナタを書いてきただけに、突然に表れたこの作品の異形ぶりは際だちます。
そして驚くべきは、この作品は生活面において大変な困難を抱えている時期に作曲されたと言うことです。
当時のベートーベンは、思うように作曲の筆が進まずに売るべき新作もなく、またナポレオン戦争とその後の混乱の中でパトロンからの支援も途絶えていました。
そのために、新作ができるたびにあちこちにそれを売り込んでいます。
この異形のソナタもそのようにして売り込まれた一つでした。
ベートーベンは手紙の中で次のように述べています。
「もし、このソナタがロンドンに向かないとしたら、別のをお送り出来るとよいのですが、或いは終楽章でラルゴは外して、フーガのところから直ぐ始めてもよろしい。
または、第一楽章、次がアダジオ、その後に第三楽章としてスケルツォ、そして第四楽章のラルゴとアレグロ・リゾルート(フーガ)を含めて全体的にカットしてしまう、というのでも良いのです。それとも、まず第一楽章で、その次にスケルツォが来る、というだけで良い。2楽章で全ソナタを形付けるのです。
このソナタは押しつめられた状況下で書かれました。」
ベートーベンは生活のためにこの偉大なソナタの切り売りさえ辞さなかったのです。
しかし、このソナタを生み出すことによって彼は一つの壁をうち破ったことは事実です。そして、堰を切ったように後期の傑作群をこれに続くように生み出されていきます。
まさに、後期の頂点へと駆け上がっていくきっかけとなった作品であることは間違いありません。
ピアノソナタ第29番 変ロ長調 作品106 「ハンマークラヴィーア」
第1楽章: アレグロ 変ロ長調 2分の2拍子 ソナタ形式
第2楽章: アッサイ・ヴィヴァーチェ 変ロ長調 4分の3拍子 スケルツォ
第3楽章:アダージョ・ソステヌート 嬰ヘ単調 8分の6拍子 ソナタ形式(おそらくはピアノ音楽というジャンルにおいてもっとも人の心を打つ音楽の一つです。ウイルヘルム・フォン・レンツは、このアダージョについて、「全世界のすべての苦悩の霊廟」と評しました。)
第4楽章: ラルゴーアレグロ・リゾルート 変ロ長調 4分の4拍子ー4分の3拍子 フーガ
明晰さの極み
チャールズ・ローゼンというピアニストを記憶にとどめている人は殆どいないのではないでしょうか?
しかし、この名前は一部では非常に有名です。それは、「ピアノ・ノート 演奏家と聴き手のために」や「音楽と感情」、「ベートーヴェンを“読む” 32のピアノソナタ」の著者として知られているからです。
ただし、音楽学者というわけではありません。
それらの著作は、そう言う学者の文章とは雰囲気が随分と異なります。取り上げている内容は幅広く、その幅広い内容を様々なエピソードを交えながら楽しく読ませてくれるものだからです。
この背景には、ローゼンの特異なキャリアが影響を与えています。
ローゼンはジュリアード音楽院で学び始めるのですが、その道を途中で下りてしまいます。何があったのかは分かりませんが、少なくともピアニストとしての才能に見切りをつけて中退したわけでないことは確かです。
彼は何を思ったのか、ジュリアードには見切りをつけてモーリツ・ローゼンタールのもとでピアノを学び始め、同時にフランス文学も学び始めるのです。ただし、その「学ぶ」というのは半端なレベルではなく、1951年には(彼が24歳の時)プリンストン大学でフランス文学の博士号を取得してしまうのです。
そして、その後はこちらが本業となって、オクスフォード大学やハーバード大学、マサチューセッツ工科大学などの名門大学でフランス語を教え、その傍らにピアニストとしての活動も続けるようになったのです。
つまりは、ピアニストが片手間に文筆稼業に取り組んだのではなくて、本職の文筆家がピアニストも行っていたのです。
嘘か本当かは分かりませんが、ある編集者とランチをともにしたときに、その会話の面白さと内容の豊富さにその編集者は「君の書いたものなら何でも出版する」と約束したそうです。さもありなんです。
ただし、今回彼の録音を取り上げたのは、そう言う文筆業者のピアノがどれほどのものか聞いてやろうという、いささか底意地の悪い興味からでした。「ベートーヴェンを“読む” 32のピアノソナタ」の著者がどんなベートーベンを演奏しているか聞いてみてやろうというわけです。
調べてみると、60年代の初めに2曲録音しています。
もう一つ、68年から70年にかけて、「The Late Beethoven Piano Sonata」と題して、後期の6曲をまとめて録音しています。
正直言って、64年に録音した2つのソナタに関しては驚かされました。それはホールの響きなどは一切取り込んでいないような、まるでピアノの中にマイクを突っ込んで録音したのではないかと思うほどの音作りなのです。
これは、考えようによっては非常に恐い録音の仕方です。なぜならば、そこでは一切の誤魔化しが許されないからです。
しかし、ローゼンのピアノはそう言う恐い状況などは一切気にすることなく、実に見事に弾ききっているのです。それは、後に「ベートーヴェンを“読む” 32のピアノソナタ」を書いた人らしく、一音たりとも曖昧にすることのない、まさに明晰さの極みにある録音と演奏なのです。
この2週間ほど、この対極にあると思われるフランソワのピアノばかり聞いていたので、あらためて時代はフランソワを置き去りにしていったんだと言うことを痛感させられました。
しかし、残念なことに、僅か5年しか隔たっていないにもかかわらず、「The Late Beethoven Piano Sonata」の方は、明晰ではあっても、64年盤のような聞くものを驚かすほどの力は失っています。そこでは、ふんだんにホールの響きが取り込まれていて、確かに聞きやすいといえば聞きやすいのですが、細部の曖昧さがあっても、それはホールの間接音によって美しく覆われてしまっています。(・・・のように聞こえます。)
ローゼン先生に対して恐れ多い物言いになるのですが、疑いもなく、この5年ほどの間にローゼン先生のテクニックは劣化しています。
おそらく、この時、既に64年の時のようなやり方では演奏はできなかったのでしょう。と言うか、殆どのピアニストは、そんな事はできないのですが・・・。
それが原因かどうかは分かりませんが、70年代以降もピアニストとしての活動は続けながらも、録音は殆ど残していません。
彼の録音は、59年のラヴェルから始まって、この70年の「The Late Beethoven Piano Sonata」辺りで幕をとしています。そして、その後はコンサート活動は続けながらも、教育活動や文筆業に重点を置くようになっていったようです。
つまりは、才能豊かな人らしく、自己批判の能力も高かったのでしょう。
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