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パブロ・カザルス(Pablo Casals)|バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041
(Vn)アイザック・スターン パブロ・カザルス指揮 プラド祝祭管弦楽団 1950年6月16日録音
Bach:Violin Concerto in A minor, BWV 1041 [1.[no tempo indication]]
Bach:Violin Concerto in A minor, BWV 1041 [2.Andante]
Bach:Violin Concerto in A minor, BWV 1041 [3.Allegro assai]
3曲しか残っていないのが本当に残念です。

バッハはヴァイオリンによる協奏曲を3曲しか残していませんが、残された作品ほどれも素晴らしいものばかりです。(「日曜の朝を、このヴァイオリン協奏曲集と濃いめのブラックコーヒーで過ごす事ほど、贅沢なものはない。」と語った人がいました)
勤勉で多作であったバッハのことを考えれば、一つのジャンルに3曲というのはいかにも少ない数ですがそれには理由があります。
バッハの世俗器楽作品はほとんどケーテン時代に集中しています。
ケーテン宮廷が属していたカルヴァン派は、教会音楽をほとんど重視していなかったことがその原因です。世俗カンタータや平均率クラヴィーア曲集第1巻に代表されるクラヴィーア作品、ヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品、ブランデンブルグ協奏曲など、めぼしい世俗作品はこの時期に集中しています。そして、このヴァイオリン協奏曲も例外でなく、3曲ともにケーテン時代の作品です。
ケーテン宮廷の主であるレオポルド侯爵は大変な音楽愛好家であり、自らも巧みにヴィオラ・ダ・ガンバを演奏したと言われています。また、プロイセンの宮廷楽団が政策の変更で解散されたときに、優秀な楽員をごっそりと引き抜いて自らの楽団のレベルを向上させたりもした人物です。
バッハはその様な恵まれた環境と優れた楽団をバックに、次々と意欲的で斬新な作品を書き続けました。
ところが、どういう理由によるのか、大量に作曲されたこれらの作品群はその相当数が失われてしまったのです。現存している作品群を見るとその損失にはため息が出ます。
ヴァイオリン協奏曲も実際はかなりの数が作曲されたようなですが、その大多数が失われてしまったようです。ですから、バッハはこのジャンルの作品を3曲しか書かなかったのではなく、3曲しか残らなかったというのが正確なところです。
もし、それらが失われることなく現在まで引き継がれていたなら、私たちの日曜日の朝はもっと幸福なものになったでしょうから、実に残念の限りです。
音楽とは不思議なもの
こういう古い録音による古い演奏を聴いていると、しみじみと「いいなぁー・・・。」と思わされることがよくあります。そして、この50年に録音されたスターンとハスキルの録音もまた、そう言う演奏の一つです。
- ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 BWV.1041:(Vn)アイザック・スターン パブロ・カザルス指揮 プラド祝祭管弦楽団 1950年6月16日録音
- チェンバロ協奏曲第5番へ短調 BWV.1056:(P)クララ・ハスキル パブロ・カザルス指揮 プラド祝祭管弦楽団 1950年6月6日録音
今さら繰り返すまでもなく、スペインのフランコ政権に抗議してフランスの片田舎プラドの街に隠棲してしまったカザルスのところに世界中の音楽家が集まって始まった音楽祭のライブ録音です。この音楽祭に集まったソリストは「(Vn)アイザック・スターン/ヨゼフ・シゲティ、(Cello)ポール・トルトゥリエ、(P)クララ・ハスキル/ミェチスワフ・ホルショフスキ/ルドルフ・ゼルキン」等々と絢爛たる豪華さなのですが、オーケストラのメンバーの大半は若手の音楽家でした。そして、その若手音楽家というのは、今の時代ならば全員がそれなりの腕利きとなるのですが、この時代のことですからかなり怪しい連中も交じっていたようです。
しかし、そう言う怪しい連中も含めて、カザルスはまさに「口移し」のようにして彼が信じるバッハの姿を伝えました。彼はここぞという場面ではわずか数小節に30分も1時間も時間をかけて、己が理想とする表現に到達するまで何度も練習を繰り返したと伝えられています。特に重視したフレージングやアクセントの付け方などに関しては実際にうたって見せて自分が理想とする姿を示して見せました。
その意味では、カザルスは指揮者としてはアマチュアなのかもしれません。
プロというのは限られた制約の中で最大限のパフォーマンスを実現することが求められますから、カザルスみたいに「口移し」で音楽を伝えていたのではすぐにお払い箱です。
しかし、カザルスにとっては音符を美しく演奏するよりは、その音符が意味するものを表出する事こそが大切でした。そう言う肝心な部分をそれなりに押さえて全体を小綺麗に整えるなどと言うのは、彼の目指す音楽の姿とは違っていたのです。それに、何よりも、そう言う器用なことができるほどの指揮能力がなかったことも事実です。
しかし、ある種の恵まれた環境下では、そう言う愚直なまでのスタイルがプロのトップオケでは到達できない世界を実現してしまうことも事実なのです。もちろん、だからといって、これを持って至高の演奏などともちあげる気持ちは全くありません。技術面に限れば、これよりも上手い演奏を探すのはきわめて容易ですし、逆にこれより問題の多い演奏を探す方が難しいでしょう。
しかし、そう言うすぐれた演奏というものは、何故か聴き終わった後に感心をさせられることはあっても、このカザルスの演奏のようにしみじみと「いいなぁー・・・。」と思わされる演奏は滅多に出会いません。
ただし、その「いいなぁー・・・。」の部分はカザルスにだけ依拠しているわけでなく、スターンとハスキルが寄与している部分が大きいことも付け加えておく必要はあるでしょう。
とは言え、音楽とは不思議なものです。
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