クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|リリー・クラウス(Lili Kraus)|モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第21番 ハ短調 K59(Anh.C23.05) (偽作)

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第21番 ハ短調 K59(Anh.C23.05) (偽作)

(P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー 1955年12月16,19~23,26,27日録音

Mozart:Sonata in C minor for Keyboard and Violin, K. 59 [1st movement]

Mozart:Sonata in C minor for Keyboard and Violin, K. 59 [2nd movement]

Mozart:Sonata in C minor for Keyboard and Violin, K. 59 [3rd movement]


6つのロマンティックソナタ(偽作)

ケッヘル番号では55番から60番という番号が与えられている6つのヴァイオリンソナタは、かつては「6つのロマンティックソナタ」と呼ばれていました。しかし、これらの作品はかなり古い時代から「偽作」と断定されていました。
これらの作品にケッヘル番号が付されたのは、モーツァルトの死後1799年にコンスタンツェがブライトコプ&ヘルテル社これらの作品を売り、「ロマンティック・ソナタ集」と名付けられて出版されたからです。しかし、様式的にもモーツァルトの作品とは異質であり、さらにはコンスタンツェ自身がモーツァルト自身の作品ではないことを告白したという話も伝わっていますので、現在では間違いなく「偽作」だとされています。

しかし、「偽作」とされながらも、それでも聞くに値する魅力は十分に持っています。何故ならば、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。

たとえば、アインシュタインはモーツァルトが「悪くない」と讃辞を捧げたシュスターの作品に触れた後に
「わたしはしばらくのあいだ、K.55~K.60」としてモーツァルトの作品に入っている「ロマン的ソナ」がそのソナタと同じものだと思いこんでいた」と述べています。

しかしながら、彼はそれに続けて、「これらの作品にはモーツァルトが悪くないと感じたピアノとヴァイオリンの交替の原理」が希薄なことを指摘して、はじめの思いこみを否定しています。

しかし、これらの作品がシュスターその人のソナタでないとしても、この時代のヴァイオリンソナタが一般的にどのようなものであったかを教えてくれるという意味では、それなりの興味をひく作品であることは事実です。

ヴァイオリンソナタ第21番 ハ短調 K59(Anh.C23.05) (偽作)


  1. 第1楽章:Andante

  2. 第2楽章:Menuetto

  3. 第3楽章:Allegro




忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音

リリー・クラウスによるモーツァルトと言えば、真っ先に思い浮かぶのはゴールドベルグとのコンビで録音されたSP盤の方です。あのパチパチノイズ満載の録音をいつまで聞いているの?と突っ込まれながら、それでも未だに捨てきれぬ愛着を感じている人は少なくありません。
それと比べると、この50年代の中葉にウィーンフィルのコンサートマスターとして名をはせていたボスコフスキーとのコンビで録音したソナタ集は話題になることが少ないように思われます。しかし、今では「偽作」と断定されている「k.17~k22」の6作品や子供時代の2作品も収録されているのは興味深いです。
特に、「k.17~k22」のような「偽作」と断定された作品を今さら録音する人はほとんどいないので、それを実際の音として聞ける価値は大きいと思います。
何故ならば、この偽作を通して、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。ただし、この偽作がもしかしたら、モーツァルトをして「悪くありません」と言わしめたシュスターの作品そのものではないか?と言う見方は否定されているようです。

しかし、演奏に関して言えば、これはある意味でモーツァルトの時代にふさわしいものになっています。

この時代のヴァイオリンソナタというのは従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるというのが慣例でした。そして、モーツァルトはシュスターの作品などにも影響を受けながらこの慣例を打ち破っていくのですが、ボスコフスキーのヴァイオリンはどこまで行ってもリリー・クラウスのピアノに付き従っていくのです。
音色的に自己主張の少ないふんわりとした雰囲気で、その面でも芯の強いクラウスのピアノをサポートしています。

つまりは、この二人の演奏はどこまで行ってもクラウスのピアノが「主」でありボスコフスキーのヴァイオリンは「従」なのです。初期作品ならばこれでいいのかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンがただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるようになってくると、いささか物足りなさを覚えるのは事実です。

しかし、聞きようによっては、クラウスの絶頂期のピアノが堪能できるという風にとらえることもできます。

昨今のピアニストはは右手と左手がほぼ均等に響きます。これは、ギーゼキング以来の「伝統」です。
しかし、リリーの演奏では左手は基本的に控えめで、ここぞと言うところになると深々と響かせて前に出てきます。そこには、彼女なりのモーツァルト解釈とそれにもとづく演奏設計があって、右手と左手が絶妙のバランスで鳴り響きます。その結果として、モーツァルトが音符を使って書いた「心のドラマ」、深い感情がリリーの演奏からはヒシヒシと伝わってきます。

そう言う意味では、これもまた忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音だと言えます。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2091 Rating: 5.1/10 (89 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)

[2024-10-29]

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108(Brahms:Violin Sonata No.3 in D minor, Op.108)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1956年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1956)

[2024-10-27]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第16番 変ホ長調 K.428(Mozart:String Quartet No.16 in E-flat major, K.428/421b)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-10-25]

フランク:交響曲 ニ短調(Franck:Symphony in D Minor)
ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1940年1月8日録音(Dimitris Mitropoulos:Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on January 8, 1940)

[2024-10-23]

グリーグ:バラード ト短調, Op.24(Grieg:Ballade in G minor, Op.24)
(P)アルド・チッコリーニ:1964年12月29日録音(Aldo Ciccolini:Recorded on December 29, 1964)

[2024-10-21]

ワーグナー:トリスタンとイゾルデ~前奏曲と愛の死(Wagner:Prelude to Act1 und Isolde's Liebestod from Tristan und Isolde)
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-10-19]

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, 作品73(Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-10-17]

ハイドン:交響曲第104番 ニ長調 Hob.I:104 「ロンドン」(Haydn:Symphony No.104 in D major "London")
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1950年4月5日&7日録音(Andre Cluytens:Paris Conservatory Concert Society Orchestra Recorded on April 5&7, 1950)

[2024-10-15]

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100(Brahms:Violin Sonata No.2 in A Major, Op.100)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1956年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1956)