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ショパン:ピアノソナタ第3番 ロ短調 作品58

P:カペル 1951年5月19,21日&1952年6月23日録音

Chopin:Piano Sonata No.3 in B minor Op.58 [1st movement]

Chopin:Piano Sonata No.3 in B minor Op.58 [2nd movement]

Chopin:Piano Sonata No.3 in B minor Op.58 [3rd movement]

Chopin:Piano Sonata No.3 in B minor Op.58 [4th movement]


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ショパンのピアノソナタ

ショパンのピアノソナタは3曲残されていますが、そのうちの第1番は10代後半の若書き作品です。
この若書きの作品はショパン自身が出版を希望したものの出版社からは無視されます。ところが、彼が名声を博するようになると今度は出版社がショパンに校正を依頼するのですが、今度はそれをショパンが拒否します。そんなこんなで、結局はショパンが亡くなってから「遺作」として出版され手、ようやくにして日の目を見ることになります。

この第1番のソナタには、ショパンらしい閃きよりは、彼が若い時代にいかに苦心惨憺してソナタ形式を身につけようとしたかという「努力」の後が刻み込まれています。それでも、第3楽章のラルゲットからは後のショパンのノクターンを思わせるような叙情性が姿を見せています。いかに習作といえども、やはりショパンはショパンなのです。

それに対して、残りの二つのソナタ、作品35の変ロ短調のソナタと作品58のロ短調ソナタは、疑いもなくショパンの全業績の中でも大きな輝きを放っています。
特に「葬送」というタイトルの付いた変ロ短調のソナタはショパンの作品の中でも最も広く人口に膾炙したものです。

この葬送ソナタは愛人サンドの故郷の館で作曲されたもので、ある意味ではこの二人の最も幸福な時代を反映した作品だともいえます。
この作品の中核をなすのは言うまでもなく、第3楽章の葬送行進曲です。この葬送行進曲は、このソナタが着想されるよりも前にできあがっていたもので、言葉をかえれば、変ロ短調のソナタはこの葬送行進曲を中核としてイメージをふくらませて完成されたといえます。そういう意味では、3つもしくは4つの楽章が緊密な関係性を保持して構築される一般的なソナタとはずいぶんと雰囲気の異なった作品になってしまっています。
そのあたりのことを、シューマンは「ショパンは彼の乱暴な息子たち4人を、ただ一緒にくくりつけた」と表現しています。
もちろん、シューマンはソナタの約束事に反していることを批判しているのではなくて、そういう古い約束事を打ち破って独創性に富んだ作品を生み出したショパンを評価しているのです。それは、有機的な統一感に欠けるという、この作品に寄せられた批判に対するシューマンらしい弁護の論だったのです。

それにしても、二人の最も幸福な時代に葬送行進曲を中核としたソナタを書くというのは何とも不思議な話です。しかし、ここでの「葬送」の対象は個人的なものではなく「祖国ポーランド」であることは明らかです。そう思えば、そういう大きなテーマに取り組むには「幸福」が必要だったと考えれば、それもまた納得できる話です。

そして、その葬送行進曲から5年後に作品58のロ短調ソナタが書かれます。
ショパンにとって宿痾の病だった結核はますます悪化し、さらに父の死というニュースは彼にさらなる打撃を与えます。しかし、そんなショパンのもとを姉夫婦が訪れることで彼は元気を回復し再び創作活動に取り組みます。この作品は、そんなつかの間の木漏れ日ような時期に生み出されたのです。
この作品の大きな特徴は、変ロ短調ソナタとは異なってソナタらしい有機的な統一感を感じ取ることができることです。しかし、音楽の規模はより大きく雄大なものになるのですが、しかしながら決してゴツゴツすることなく、その中にショパンらしい「美しさ」と「叙情性」がちりばめられています。
しかし、世間とは難しいもので、そのような伝統的なソナタ形式への接近ゆえに、リストなどは「霊感よりも努力の方が多く感ぜられる」と批判しています。

変ロ短調ソナタでは伝統からはずれることで有機的な統一性がないことを批判され、逆にロ短調ソナタでは有機的統一への接近故に霊感の欠如と批判されます。
やはり、ダンテが言うように「汝の道を歩め そして人々をして その語るに任せよ」ですね。


心の内を繊細に描き出す

若くして亡くなり、そしてその若い時代においてすでに才能のきらめきを見せた人というのは実像以上に美しく語られることが多いものです。それだけに、カペルのようなピアニストを取り上げるときは注意が必要なのですが、それでも彼にとっては不本意にも「最晩年」となってしまった時代に録音された一連のショパン録音はすばらしいと言わざるを得ません。

20代のカペルは「ホロヴィッツの再来」と言われ、その甘いマスクも相まって絶大な人気を誇りました。ひたすらピアノを強靱に鳴り響かせるパフォーマンスは大衆受けするには十分でした。そして、もしもそのまま「ホロヴィッツの再来」のままに飛行機事故にあってこの世を去っていれば、おそらく彼の名前は疾うの昔に忘れ去られていたでしょう。
今更言うまでもないことですが、ホロヴィッツが再来することなどはあり得ないのです。一見、ホロヴィッツのような「強靱な打鍵」ができたからと言って、それでホロヴィッツと肩を並べられるとか、ホロヴィッツをしのぐことができるなどと思うことは、あまりにもホロヴィッツという存在をなめています。
当時の若いピアニストの多くはホロヴィッツに憧れ、そして自分もホロヴィッツのようになりたいと思って破滅していきました。しかし、ある意味で、最もホロヴィッツに近づいた一人であるカペルは、近づきながらも絶対にホロヴィッツにはなれないことを賢明にも理解していたように思います。
聞けばすぐにわかることですが、彼のピアノはホロヴィッツと比べればあまりにも健康的にすぎます。そういう意味では、カペルは第二次大戦後の黄金のアメリカの時代を体現したピアニストだったのです。
そんなカペルがホロヴィッツ張りの演奏スタイルから自分らしい音楽を紡ぎ出す方向に舵を切った典型がこのショパンの録音だったのではないでしょうか。ピアノソナタの第3番では、明らかに自分の心の内を繊細に描き出そうとするカペルの姿が伺えます。そして、最もすばらしいのが一連のマズルカの録音です。

調べてみると、1951年から52年にかけてポツリポツリという感じで録音されています。

1951年6月23日:Op.67-4
1951年12月20日:Op.7-5,Op.17-2,Op.17-4,Op.33-3
1951年12月27日:Op.30-3,Op.50-2,Op.56-3,B-flat major
1952年2月20日:Op.33-4,Op.47-1,Op.41-2,Op.63-2,Op.67-3,Op.68-2,Op.68-3,Op.68-4,Norte temps
1951年12月27日&1952年2月26日:Op.17-3
1952年2月26日:Op.6-2,Op.7-2,Op.50-3,Op.59-1,Op.59-2,Op.63-3
1952年6月23日:Op.67-2
1952年6月24日:Op.33-1

この録音スケジュールを見てみると、カペルにはショパンのマズルカを全集として完成させる意図がなかったことは明らかです。
そうではなくて、ショパンのマズルカの中から、時々において自分の意に沿った作品をチョイスして、まるで独白のように演奏し録音したような雰囲気が伺えます。部分的には20代のカペルを思わせるような強靱な打鍵が姿を見せますが、基本は繊細な歌心が貫かれています。ある意味では聞き手という存在を忘れ去ってしまって、まるで自分のためだけにピアノを弾いているかのように聞こえます。

こういうのを聞かされると、もう少しカペルの録音を聞き込んでみないといけないな・・・と思わされます。

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