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ルジェーロ・リッチ(Ruggiero Ricci) |ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
(Vn)ルッジェーロ・リッチ ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1957年1月録音
Bruch:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 「第1楽章」
Bruch:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 「第2楽章」
Bruch:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 「第3楽章」
ブルッフについて
今日ではヴァイオリン協奏曲とスコットランド幻想曲、そしてコル・ニドライぐらいしか演奏される機会のない人です。ただし、ヴァイオリニストにとってはこの協奏曲はある種の思い入れのある作品のようです。
と言うのは、ヴァイオリンのレッスンをはじめると必ずと言っていいほど取り上げるのがこの協奏曲であり、発表会などでは一度は演奏した経験を持っているからだそうです。ただし、プロのコンサートで演奏される機会は決して多くはありません。
しかし、ロマン派の協奏曲らしくメランコリックでありながら結構ゴージャスな雰囲気もただよい、メンデルスゾーンの協奏曲と比べてもそれほど遜色はないように思います。
第1楽章
序奏に続いて独奏ヴァイオリンの自由なカデンツァが始まるのですが、最低音Gから一気に駆け上がっていくので聴き応え満点、けれん味たっぷりのオープニングです。力強い第一主題と優美な第二主題が展開されながら音楽は進んでいき、いわゆる再現部にはいるところでそれは省略して経過的なフレーズで静かに第2楽章に入っていくという構成になっています。(・・・と、思います^^;)
第2楽章
ここが一番魅力的な楽章でしょう。主に3つの美しいメロディが組み合わされて音楽は展開していきます。息の長い優美なフレーズにいつまでも浸っていたいと思わせるような音楽です。
第3楽章
序奏に続いて,独奏ヴァイオリンが勇壮なメロディを聞かせてくれてこの楽章はスタートします。。前の楽章の対照的な出だしを持ってくるのは定番、そして、展開部・再現部と続いてプレストのコーダで壮麗に終わるというおきまりのエンディングですが良くできています。
リッチの不幸
ルジョーロ・リッチのステレオ録音初期の演奏をいくつかまとめて聴いてみました。その頃のリッチの録音に関してはサラサーテとかサン=サーンスの小品はアップしてあるので、今回はコンチェルトの大物をまとめて聴いてみた次第です。
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1957年1月録音
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 フィエルスタート指揮 ロンドン交響楽団 1958年2月録音
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53 サージェント指揮 ロンドン交響楽団 1961年1月録音
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 サージェント指揮 ロンドン交響楽団 1961年1月録音
リッチと言えば神童としてもてはやされ(1928年にわずか10歳でデビュー)、その後は難曲として有名なパガニーニの「24のカプリース(奇想曲)」を初録音して、パガニーニのスペシャリストとして名を馳せました。そして、驚くべき事に今も存命中と言うことなのですから、まさに生ける「音楽史」とも言うべき存在です。
何しろ、世界大恐慌の前年に演奏家としてのデビューを果たし、その後世界大戦と朝鮮・ベトナムの両戦争のみならず、湾岸戦争からリーマン・ショックまで経験をしたというのですから、凄いものです。ウィキペディアによると、その間に「65カ国において6000回以上の演奏会と、さまざまなレーベルから500点以上の録音を制作してきた」らしいです。
しかし、リッチの不幸は、そんな彼の少し前をハイフェッツという巨人が歩いていたことでしょう。
ハイフェッツは「7歳でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏し、デビューを果たした」というリッチ以上に早熟の天才であり、わずか16歳の年(1917年)にアメリカデビューを果たし、さらにはロシア革命に伴って1925年にはアメリカの市民権を得て活動の本拠地とします。
リッチは、まさにそんなハイフェッツの背中を見ながら音楽活動を展開しなければならなかったのです。
確かにリッチは、パガニーニのスペシャリストとして評価されました。
しかし、例えば、同時代に録音されたブルッフの第1番の協奏曲などを聞き比べてみれば、残念ながらリッチにはハイフェッツの凄味はありません。リッチが得意としたサラサーテやサン=サーンスの小品でも、その他大勢のヴァイオリニストと比べれば素晴らしい技巧の冴えを感じさせてくれますが、悲しいことに、その土俵こそはハイフェッツの独擅場でした。
そこで、おそらく、この頃からリッチは己の方向性を変え始めたのではないかと思います。
ハイフェッツのような技巧の冴えを前面に押し出し、強い緊張感をもって作品を構築していくのではなくて、独特の歌い回しで深い情感を描き出していく方向への転換です。そして、その事は成功していると思います。
ハイフェッツのヴァイオリンでこういう協奏曲の大曲を聴くと、立派ではあるけれども、そしてその作品構築の見事さにも驚かされるのですが、どこか心の一番深いところにまで届いてこないもどかしさみたいなものを感じてしまいます。ですから、そんなハイフェッツの録音を聞いた後にリッチのヴァイオリンで聴き直すと、そう言う人肌に触れる情感が非常に好ましく心に届いてきます。
しかしながら、この時から50年が経過してみると、リッチは多くの人の記憶から消え去っていき、ハイフェッツは未だに巨人としての姿を誇示しています。
何故か?
それは、今回まとめて聴いてみて、はっきりと分かりました。
確かにリッチの演奏は好ましく思えます。確かなテクニックに裏打ちされた上で深くて豊かな情感にあふれたヴァイオリンの響きは非常に魅力的です。しかし、私たちは、その後の50年において、これに変わる多くのヴァイオリニストと出会うことができました。
しかし、ハイフェッツは未だに孤高の存在です。
音楽教育が高度に発展し、幼少期からのエリート教育が充実して演奏家のテクニックは飛躍的に向上しました、しかし、それでもなお、ハイフェッツは特別な存在です。月並みな言葉ですが、ハイフェッツの前にハイフェッツ無く、ハイフェッツの後にもハイフェッツは無いのです。
それ故に、パールマンが語ったように、この時代のヴァイオリニストはハイフェッツ病に罹ったのです。
ですから、ここで聴くことのできるリッチの録音は、そう言うハイフェッツの重圧を克服していったもう一人の不幸な天才の苦闘が垣間見られるような気がするのです。そして、この時代に、彼なりのやり方でハイフェッツをやり過ごしたことで、「生ける音楽史」と言えるほどの長い活動ができたのではないかと思います。
そう言う意味では、いろいろと興味深い演奏であり、録音です。
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