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ブラームス:4つのピアノ小品 作品119

(P)ジュリアス・カッチェン 1962年6月13日~14日&28日~29日録音

Brahms:Four Piano Pieces, Op119 [1.Intermezzo. Adagio (B minor)]

Brahms:Four Piano Pieces, Op119 [2.Intermezzo. Andantino un poco agitato (E minor)]

Brahms:Four Piano Pieces, Op119 [3.Intermezzo. Grazioso e giocoso (C major)]

Brahms:Four Piano Pieces, Op119 [4.Rhapsody. Allegro risoluto (E-flat major)]


単純でありながら深みのある作品です

作品118の項でも述べたように、この118と119作品は2つに分けられてはいるのですが、それは出版に伴う便宜上の問題であって、本質的には同一の作品とみるのが妥当なようです。さらに言えば、晩年の小品として一つのグループを形成する作品116から作品119に至る20の小品は、出版される過程でいくつかの作品に分けられているものの、そのどれもが晩年のブラームスの孤独な心情を色濃く反映した共通の土台の上に成り立った作品だと言えます。

第1曲 間奏曲 ロ短調

クララはこの作品に対して「灰色の真珠」と言う言葉を呈しています。しかし、それに続けて「曇っているが非常に貴重である」と付け加えています。
ブラームスの作品としては珍しく響きがくぐもっていて、それが晩年のブラームスのの心境を映し出すものとなっています。さらに、ブラームスはこの作品を演奏するときの注意として「きわめてゆっくりという指示も十分ではなく」「あたかもリタルダンドのように」演奏をして孤独感を引き出せと述べています。
まさに、クララが述べたようにこの作品は孤独な灰色に包まれた真珠なのです。

第2曲 間奏曲 ホ短調

冒頭の動機を徹底的に活用した作品であり、技巧派ブラームスの腕の冴えが光る作品です。動機の徹底的活用には変奏曲の技巧が生かされています。

第3曲 間奏曲 ハ長調

ここで音楽の雰囲気はガラリと変わり、明るさとともにユーモアさえ感じられるものとなっています。

第4曲 ラプソディ 変ホ長調

曲のタイトルからも分かるように作品79の「2つのラプソディ」と共通する情熱的な性格を持っているのですが、その情熱はどこかほの暗いものとなっています。


去りゆく景色

先頭に立って進路を切り開くというのは立派なことです。
その人の目に映る景色は次々と後景へと流れていくことでしょう。しかし、彼が見すえているのはその様にしてめまぐるしく移り変わる眼前の景色ではなく、その彼方にある目指すべき目的地です。

そう言えば、子供は運転席の後にしがみついて、流れいく景色を食い入るように眺めるのが大好きです。
精神に活力が溢れ、その目が常に未来を見すえている人にとっては、それこそが心躍る光景のはずです。

しかし、年を重ねてくると、そう言う景色と対峙し続けるのはしんどくなってきて、それとは真逆の景色が好ましく思えてきます。
それは、最後尾の車両の一番後から眺める去りゆく景色です。

めまぐるしく移り変わっていく先頭からの景色とは違って、最後尾か見えるのは過ぎ去っていく景色であり、その景色は何時までも姿をとどめます。そして、その景色は次第に姿を小さくしながら、やがてはるか彼方へと姿を消していきます。
未来は常に不定であり、現在は常に変化し続けます。しかし、過去は常に明らかであり、それは時の流れの中で次第に己を小さくしながら無限の彼方へと没していきます。
いや、そんな小難しいことを考えなくても、過ぎ去ってゆく景色を眺め続けていると、そこに人生を感ぜざるを得ないのです。

ブラームスが、繰り言のように書いた最後のピアノ作品は、まさに過ぎ去っていく景色を眺めるような思いにさせられます。それは声高に何かを主張するようなことはなく、ただただ静かに過去へと沈潜していきます。


  1. 「幻想曲集」作品116

  2. 「3つの間奏曲」作品117

  3. 「6つのピアノ小品」作品118

  4. 「4つのピアノ小品」作品119



カッチェンのピアノもまた、一つ一つの音を知的に積み上げながら、その知性の枠からはみ出して情に流れることがありません。
確かにゆったりとしたテンポで音楽は微妙に伸び縮みしているようですが、それがべたついた感傷に堕することはありません。そこがカッチェンのカッチェンたる所以なのでしょう。
ブラームスの音楽が本質的に持っている構築生を崩すことなく、それでいながらその中に散りばめられた情感を浮かび上がらせてくれます。

「知的なブルドーザー」と称されることもあるカッチェンなのですが、ブラームスの去りゆく景色をこれほど見事に描いてくれるというのは不思議な感じがします。

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