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ヨーゼフ・マルクス:ヴァイオリンソナタ「春のソナタ」(Joseph Marx:Sonata for Violin and Piano in A major "Spring")

(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)オットー・アルフォンス・グレーフ 1954年録音(Vasa Prihoda:(P)Otto Alphonse Greif Recorded on 1954)

Joseph Marx:Sonata for Violin and Piano in A major "Spring" [1.Allegro espressivo]

Joseph Marx:Sonata for Violin and Piano in A major "Spring" [2.Allegretto(im Serenadenton)]

Joseph Marx:Sonata for Violin and Piano in A major "Spring" [3.Moderato]


豊潤なメロディと色彩豊かな和声

同時代の新ウィーン楽派のような無調音楽とは一線を画し、豊潤なメロディと色彩豊かな和声が特徴です。
「春」の名にふさわしく、明るく生命感に満ちた旋律が全体を支配しています。マルクス独自の厚みのある和声感覚、イタリア的な明るさとウィーン的な伝統の融合が、ヴァイオリンとピアノの両パートに存分に活かされています。
全体を通して、春の息吹、光の乱反射、そして生命の躍動を感じさせる、極めて色彩豊かな作品です。


  1. 第1楽章:Allegro con spirito「春の予感と生命の目覚め」
    冒頭のピアノのきらびやかなアルペジオに乗って、ヴァイオリンが伸びやかな第1主題を奏でます。冬を抜けた直後のような、瑞々しく輝かしい光に満ちた楽章です。
    マルクスらしい「印象派風のロマン主義」が全開です。調性はニ長調を基本としていますが、転調が非常に頻繁で、色彩が刻一刻と変化します。ピアノパートは非常に厚みがあり、まるでオーケストラのような響きを伴ってヴァイオリンを包み込みます。

  2. 第2楽章:Adagio白昼夢のような静謐と情熱」
    非常に抒情的で、深みのある緩急が特徴です。春の午後のまどろみや、時折よぎるメランコリックな感情が表現されています。
    歌曲王としても知られるマルクスの「歌」の才能が最も発揮されている楽章です。ヴァイオリンの長い旋律線がピアノの複雑な和声の上を漂います。中間部ではドラマチックな高揚を見せ、単なる穏やかな楽章に留まらないエモーショナルな強さを持っています。

  3. 第3楽章:Molto allegro「祝祭的な喜びと舞踏」
    非常に快活で、エネルギッシュなフィナーレです。春が満開となり、万物が躍動する喜びを爆発させたような雰囲気を持っています。
    舞曲的なリズムが多用され、ヴァイオリンには極めて高い技巧(重音や速いパッセージ)が要求されます。ピアノとヴァイオリンが激しく火花を散らすような対話を経て、最後は圧倒的な光彩を放ちながら、輝かしく全曲を閉じます。




衰えたと切って捨てたくはない

プシホダは50年代にはいると急激に衰えたと言われています。しかし、晩年の録音をあれこれ聞いてみると、事はそれほど単純ではないように思います。
50年代における変化というのは技術的な衰えが大きな原因ではなくて、演奏家としての方向性という根本的なところに変化があったように思えるのです。

若いころのプシホダは難曲のパガニーニを得意として、きわめてクリアなアーティキュレーションと卓越した左手の技術でバリバリと演奏していました。
その凄さは、あのトスカニーニをして「パガニーニでさえこれほど完璧には弾けなかっただろう」と評したほどです。(伝聞らしいですが…。)
それと比べれば晩年の演奏は確かに衰えたと言えるでしょう。
あれほど得意としたパガニーニを演奏することもほとんどなくなっていきました。

その変化のきっかけとなったのは、ナチス協力者としてチェコから追放されたことが大きな要因だったと思われます。

1945年、プシホダはナチス占領下での演奏活動を理由に国内での演奏活動を禁止されました。祖国での居場所を失った彼は、1946年に家族とともにチェコスロバキアを離れます。
その後、イタリアのラパッロやトルコなどを転々とする亡命生活を送り、1948年にトルコ国籍を得てウィーンを拠点に演奏活動をはじめます。

そして、そういう苦難の中で1950年にウィーン国立音楽大学の教授職に就いたことが彼の演奏スタイルを変える次の要因になったものと思われます。
プシホダはその教授就任によって演奏活動よりも後進の指導に多くの時間を割くようになりました。その中で音楽の構造に対する理解や、一音に込めるニュアンスの豊かさに重点を置くようになっていきました。
そして、そういう姿勢が晩年の演奏スタイルの変化につながったような気がします。

プシホダは音楽を「語り」や「歌」として捉えてくようになりました。楽譜の背後にある物語や感情を深く読み解き、それを聴衆に伝えることに重点を置くようになっていったのでした。
彼のボウイングは、楽譜通りの正確さを超えて、「旋律をいかに妖艶に、かつ情緒的に響かせるか」に特化していました。
この「語るような弓使い」こそが、聴衆に「プシホダ節」と言わしめる中毒性の高い音楽へとつながっていったのです。

確かに、彼の晩年を(と言っても50代でしたが)「事大主義的なアカデミズムの権威がどうしても欲しい。その結果遊芸人としての自分の気質から離れたレパートリーに情熱を打ち込んだことが、恐らくプシホダをしぼませてしまったのかも知れない」という人も言います。
しかし、、晩年の演奏その様に切って捨てるのには、安易に賛同しかねるのです。

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