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チャイコフスキー:序曲 1812年, Op.49

ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1959年4月12日録音



Tchaikovsky:Ouverture Solennelle "1812", Op.49


下品さが素敵!!

その昔、「これからの私の人生にチャイコフスキーの音楽はもう不要だ」と言った、エラーい評論家が痛そうです。いや、(訂正)、いたそうです。(^^;
クラシック音楽が「強要」として、いや(訂正)、「教養」としてとらえられていた、古き良き(?)日本の時代を思い出させてくれるエピソードです。

なるほど、「教養」と書こうと思って、「きょうよう」と入力して変換すると「強要」になるとは、パソコンの変換機能はたんなる変換機能をこえて事の真実をさらけ出す能力まで身につけたようです。
確かに、「教養」というものは、どう聞いても面白くないようなものをじっと我慢して聞くことを「強要」されることで身につくのですから、最初の音が出た瞬間から耳が惹きつけられ、聞き進んでいくうちに血湧き肉躍るというような音楽では「教養」は身につかないのです。ですから、「教養」を身につけるためにクラシック音楽を聴いているエライ人にとってはチャイコフスキーの音楽などは害悪以外の何物でもないでしょう。

そして、おそらくは、そう言う人たちにとって、このチャイコフスキーの「序曲 1812年」こそは、そのような害悪の象徴、悪の権化のような音楽だったに違いありません。
まさに、下品!!
おそらく、音楽史上、最も下品な音楽の一つでしょう。いやもしかしたら「One of the most vulgar music」ではなくて「Most vulgar music」かもしれません。

しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉もありますが、芸の世界では、下品も極めれば一つの価値となります。その下品さこそが最高に素敵なのです。

この作品は今さら言うまでもなく、1812年のナポレオンによるロシア戦役を描いた音楽です。この戦役では、ロシアはナポレオン軍に首都モスクワを制圧されながらも、最終的には冬将軍の厳しい寒さにも助けられて「無敵ナポレオン」を打ち破ります。まさに、歴史に刻み込むべき「偉大なる祖国防衛のための戦い」でした。
ですから、この作品はその戦いをなぞった音楽になっています。


  1. 第1部:Largo
    ヴィオラとチェロのソロが奏でる正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」にもとづく静かな序奏で始まります。この後のハチャメチャが想像できないような美しい出始めです。

  2. 第2部:Andante
    打楽器の活躍がロシア軍の行進を暗示し、音楽は次第に盛り上がっていきます。

  3. 第3部:Allegro giusto
    「ボロジノの戦い」と説明されることもあります。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の旋律を響き渡り、ナポレオン群の進撃が始まります。
    最初の大砲もこの部分で5回「発射」され、この偉大なる(?)作品の真実が姿を現し始めます。

  4. 第4部:Largo
    冒頭の主題と同一の旋律ですが、今度は管楽器で堂々と演奏されロシア軍の反撃が始まります。

  5. 第5部:Allegro vivace
    ロシア帝国国歌が壮大に演奏されます。
    さらに鐘は鳴り響き、大砲もとどろく中でナポレオン軍は撃退されロシア軍の大勝利で音楽は終わります。



まさに、下品です(^^v
でも、素敵です!!


華麗で美しく、そして楽しく

吉田大明神が、オーマンディを文化の「保守者(キーパー)}と断じたの影響はこの国では大きいでしょう。オーマンディを高く評価する人はこの国では決して多くはありません。

しかし、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す音楽の平均点は決して低くはないと思います。
おまけに、このコンビのレパートリーは非常に広いので、たまには違う音楽を演奏しろよ!と言いたくなってしまった今は亡きクライバーさんなんかとは真逆の存在です。
これほどの多様性に満ちた音楽をこれほどのクオリティで、はずれ無しに演奏できるというのは凄いことです。

しかし、時の流れの中で振り返ってみれば、どうしてもこのコンビでなければ!とか、是非ともこのコンビでの録音で聞いてみたい!と言えるような録音はほとんど見あたらない様に思っていました。そういう風に書いたことも記憶にあります。
しかし、昨今の精緻で透明感に溢れてはいるものの、どこか蒸留水のように無色無臭な音楽が増えてくると、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す響きは非常に貴重な存在ではないかと思うようになってきました。

例えば、今ここで聞いてもらっている一連のチャイコフスキー作品のように、どれを聞いても華麗で美しく、そして楽しさに溢れた音楽作りは十分に魅力的なのです。
さらに言えば、その造形はきわめて真っ当でありスタンダードであって、どこにも奇をてらったところはないのですなのです。(序曲19812年での大砲の乱れうちはやり過ぎかもしれませんが・・・^^;)
当然の事ながら、スタンダードに徹してここまで聞かせるというのは、例えばアバドなんかもそう言う側面があったのですが、結構大変なことなのです。(何もしていないように見えて、聞き進んでいくうちに胸が熱くなってくる。)

吉田大明神は、同じように独裁政治体制を敷いてオケに君臨したオーマンディとセルを較べて「創造者(クリエーター)」と「保守者(キーパー)」の違いを指摘したのですが、そこからさらに時を経てみれば、オーマンディがつくり出したフィラデルフィアサウンドは、十分に「創造者(クリエーター)」たる資格があるように思われてくるのです。

確かに、セルとオーマンディでは方向性が全く違っていましたから、セルの側に肩入れをすれば吉田秀和の言葉は見事なまでに正鵠を得ていたのかもしれません。
しかし、音楽が持っている多様性を幅広く受容する気になれば、もっと有り体に言えば、あれこれ難しいことは考えないでただ美しく華やかな音楽を楽しみたいだけなんだと開き直ってみれば、それはまたオーマンディにはあってセルにはなかった貴重な資質だったことに気づくのです。
とりわけ、こういう華やかさを追求したチャイコフスキーの管弦楽作品ならば、オーマンディの魅力が十分に堪能できるのではないでしょうか。

この演奏を評価してください。

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