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Home|カール・シューリヒト(Carl Schuricht)|ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」

シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年9月25~27、29日録音



Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 「第4楽章」


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803?4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。


ステンドグラスのようなベートーヴェン

Google先生にこのシューリヒトのベートーベンの評判を聞いてみると、意外なほどに好意的なので驚きました。
「演奏のきびきびとした活きの良さ、音と音の絡み合いの妙、とにかく聴いていて音楽の素晴らしさに感動した。」とか、「透明感のある響き、まるでステンドグラスのようなベートーヴェンだと思います。」等々、なかなかに好意的です。

ただ、問題は「録音」です。
正直言ってこれは「犯罪的」と言っていいでしょう。
EMIがステレオ録音に懐疑的だったのは分かりますので、50年代後半であるにもかかわらずモノラルで録音されたことは目を瞑りましょう。実際、当時のモノラル録音は技術的には完成の域に達していて、「モノラル録音=音質が悪い」という公式は成り立ちません。それどころか、実験段階にあった当時のステレオ録音と比較すると、完成の域に達したモノラル録音の方が音質的には好ましく思えるものも少なくなかったのです。
たとえば、55?56年にモノラルで録音されたカラヤン&フィルハーモニアの演奏などは、下手なステレオ録音などは足元にも及ばないような見事さです。
しかし、このシューリヒトの録音に関しては、何かの間違いではないかと思えるほどに録音のクオリティが低いのです。それは、「モノラルで録音されたから音が悪い」のではなくて、「完成の域に達していたモノラルで録音したにもかかわらずこの体たらく」であることに「犯罪」のにおいを感じるのです。

おそらく、EMIはやる気がなかったのでしょう。そうでなければ、こんなひどい録音でリリースされることなど考えられません。
「隣の部屋でならしてる音楽を壁に耳あてて聴くような音質」とまでは酷評しませんが、この時期のモノラル録音の完成度を知るものならば、大いに「怒り」を感じるクオリティであることは事実です。

しかし、そんな録音のマイナスは割り引いても、演奏の面白さは一級品です。
これは、フルトヴェングラーやクナのベートーベン演奏からは対極にある演奏であることはすぐに分かりますが、かといってトスカニーニやセルのベートーベンと同族かと言われるとそれも少し違います。
そこで気づいたのが、もしかしたらこれと一番対極にあるのは晩年のカラヤンかもしれないということです。そう、あの「カラヤン美学」から最も遠い位置にある演奏がこのシューリヒトではないかと思い至ったのです。

カラヤンの特長はめいっぱいに「音価」を長くとって、それを徹底的に磨き抜くことです。たとえば、晩年に録音したシベ2の第4楽章などは、別の音楽に聞こえるほどに音価を長くとって、まるでハリウッドの映画音楽みたいになっています。
それに対して、ここでのシューリヒトは限界までに音価を短く切り詰めています。たとえば、エロイカの冒頭などは切り詰めを通り越して切り上げてるようにすら聞こえます。結果として、聞こえてくる音楽はとても「軽く」なります。当然のことながら、人の官能に訴えかける魅力は非常に乏しくなります。
しかし、そう言う俗耳に入りやすい「分かりやすさ」を犠牲にしてシューリヒトが獲得しようとしたのは明晰でクリアなベートーベン像だったことは明らかです。ただし、そのベートーベンはトスカニーニやセルのような甲冑を身にまとったベートーベンではなくて、「透明感のある響き、まるでステンドグラスのようなベートーヴェン(・・・うーん、実に上手いこというものです!!」です。

とは言え、さすがに「軽すぎるだろう・・・(^^;・・・は思わざるを得ないものもありました。もちろん、そのあたりの感覚は人それぞれでしょうから、他の人にそのような感覚を押しつけるつもりはありませんが・・・。
ただし、「田園」「合唱付き」は文句なしに素晴らしいと思います。
特に第九は「犯罪的」とも言える録音の中では一番被害が少ないように思いますし、これだけがステレオで録音された音源が存在するようで、別のレーベルからそのステレオ録音によるCDも発売されているようです。

この演奏を評価してください。

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