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ラヴェル:クープランの墓

(P)マルセル・メイエル 1954年3月5日〜8日録音



Ravel:クープランの墓「プレリュード」

Ravel:クープランの墓「フーガ」

Ravel:クープランの墓「フォルラーヌ」

Ravel:クープランの墓「リゴードン」

Ravel:クープランの墓「メヌエット」

Ravel:クープランの墓「トッカータ」


戦死した友人たちへのレクイエム

またまたしつこくドビュッシーとラヴェルとの違いについての話。
ラヴェルは作曲家としてデビューしたときはドビュッシーを尊敬し、その影響を強く受けたことを認めています。しかし、その後ラヴェルが歩んだ道はドビュッシーが切り開いた印象派の音楽とはずいぶん異なるもののように思えます。特に、よく指摘されることですが、時を経るにつれてラヴェルは古典的な明晰さを前面に打ち出すようになっていきます。ドビュッシーの輪郭線のぼやけた茫洋たる世界とは対照的な、はっきりくっきりした世界を構築していきます。さらに音楽の形式もどんどん簡潔なものに変化しています。
そして、ラヴェルのもう一つの特質は、コンサートグランドの性能を極限まで使い切る事への強い関心です。その関心はこの「クープランの墓」にも反映していて、第6曲の「トッカータ」は古今のピアノ曲の中でも指折りの難曲として有名ですし、その演奏効果は絶大なものがあります。
こういうラヴェルという作曲家をどうしてドビュッシーが切り開いた「印象派」という世界に閉じこめようとするのでしょうか?ホントに不思議です。

さて、この「クープランの墓」ですが、彼の音楽がより明晰で簡潔なものへと変化していく中で深く傾倒していったフランス古典音楽の大家たちへのオマージュとして構想されました。しかし、1914年に着手されたこの作品は第1次世界大戦の勃発によって作曲が一時中断されます。
そして、ラヴェル自身も兵士として参戦し、戦いの中で多くの友人を失います。ラヴェル自身は病気によって1916年に除隊するのですが、この戦争体験は彼に深い悲しみを与え、ノルマンディーの片田舎に引きこもってこの作品の完成に没頭します。そして、1917年にようやく完成した時には、当初の18世紀古典音楽へのオマージュという形式を乗り越えて、第1次大戦で亡くなった友人たちへのレクイエムという性質を持つようになります。
ラヴェル自身は6つの小品それぞれを亡くなった友人たちに捧げています。これは、亡くなった音楽を追悼するために一つの作品を捧げるという18世紀のスタイルを踏襲したものなのですが、そう言う意味で、この作品は「オマージュ」と「レクイエム」の二重構造をもつ作品になったわけです。

第1曲:プレリュード(前奏曲、Prélude)
ジャック・シャルロー中尉に捧げられている。抑揚のない音楽で装飾音が多用されているので、まるでチェンバロ曲のような風情。

第2曲:フーガ (Fugue)
ジャン・クルッピ少尉に捧げられている。フーガですから、何本もの旋律をきちんと浮かび上がらせるポリフォニックなテクニックが求められて、意外とムズイ・・・と言う話もあり。

第3曲:フォルラーヌ (Forlane)
ガブリエル・ドゥリュック中尉に捧げられている。フォルラーヌとは北イタリアを起源とする古典的舞曲のこと。

第4曲:リゴードン (Rigaudon)
ピエール&パスカルのゴーダン兄弟に捧げられている。リゴードンは、南仏プロヴァンス地方の力強く野性的な古典的舞曲のこと。ゴチャゴチャした和音の中から主たる旋律を浮かび上がらせるのがけっこうムズイ・・・と言う話もあり。

第5曲:メヌエット (Menuet)
ジャン・ドレフュスに捧げられている。落ち着いたメヌエットで、ホッと一息。

第6曲:トッカータ(Toccata)
ジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴ大尉に捧げられている。彼の奥さんはあの有名なマルグリット・ロンです。
ラヴェルのピアノ作品の中ではオンディーヌやスカルボ(夜のガスパール)と並んで、難曲中の難曲として有名です。ピアニスティックで壮大な盛り上がりを見せて曲が結ばれるので演奏効果も絶大です。ただし、途切れることの無い高速の連打はかなりムズイ・・・とは誰もが認めるところです。

ちなみに、この作品は未亡人となったマルグリット・ロンによって初演されました。


6人組の女神・・・?

Meyerは「メイエル」と読むそうです。私はすっかり「マイヤー」だと思って、いくらGoogleで検索をかけても出てこないので、かつて掲示板で「ほとんど忘れ去られたピアニストと言えます。」なんて書いてしまいました。(^^;汗汗・・・
しかし、よく調べてみると一部では熱烈なファンが存在するようで、例えば「クラシック名盤 この一枚」なんて本の中では何人かの人たちが熱いオマージュを送っています。

さらに調べてみると彼女には「6人組の女神」というニックネームがあったそうなのです。この「6人組」というのはルイ・デュレ、アルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェール、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリックの事で、フランス音楽の新しい夜明けを告げたグループとして「ロシア5人組」になぞらえて付けられたものです。
メイエルはこの6人組と深い親交があり、彼らの作品を積極的に取り上げました。もちろん、それ以外にもラヴェルやドビュッシーというフランス近代の作品が彼女の得意分野であり、それ以外にはラモーやクープランというフランスの古典作品を好んでいました。要するに、かなりの「ご当地主義」といえるレパートリーです。そして、クラシック音楽の王道(?)とも言うべきドイツ・オーストリア系の音楽は本当にごくわずかしか取り上げないという、この業界ではかなりの異色な存在だったようです。

ここで紹介しているラヴェルの録音は1954年の3月に一気にまとめて録音したもので、どの録音を聞いてもコンサートグランドの能力をフルに発揮したラヴェル作品に相応しい豪快な演奏です。
1897年生まれですからこの時メイエル57歳です。テクニック的には微塵の破綻もなく若々しい精神に満ちあふれています。ところが、この3年後に彼女は亡くなっています。原因は分かりませんが、録音がモノラルからステレオに切り替わるこの時期に亡くなったことが、そしてかなり偏ったレパートリーだったことが、後の彼女の忘却に結びついたことは間違いないでしょう。
もしも、あと数年長生きして(それでも70歳にもなりません!)、ある程度まとまった数のステレオ録音を残していれば、そしてモーツァルト演奏でも素晴らしい演奏を聴かせてくれたことを思えば、そのステレオ録音の中に独墺系の作品がいくつか混じっていれば、疑いもなく彼女の名前はハスキルなどと並んで評価されたはずです。何よりも、彼女にはハスキルがもっていなかったパワフルさがあふれています。
しかし、それはあまりにも贅沢な無い物ねだりなのでしょう。彼女の本質はどこまで行ってもフランス人です。そして、モノラル録音の時代とともにこの世を去ったのです。そんな彼女の業績が50年の時を経てパブリックドメインとなることで復活し、再びこの女性ピアニストに光が当たるようになったことを感謝すべきなのでしょう。

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