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ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」

セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1955年11月26日録音



Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 「第4楽章」


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極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803〜4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。


セルと運命

私の知る限りではセルはこの交響曲を3回録音しています。
・クリーブランド管弦楽団 1955年11月26日(モノラル録音)
・クリーブランド管弦楽団 1964年10月11&25日(ステレオ録音)
・アムステルダム・コンセルトヘボウ管 1966年11月30日〜12月2日録音(ステレオ録音)

コンサートのライブ録音としてはザルツブルグ音楽祭における演奏が2種類が残されています。
・ウィーンフィル 69年8月24日録音(ステレオ録音)
・シュターツカペレ・ドレスデン 1961年8月6日録音(ステレオ録音)
これ以外では
・クリーブランド管弦楽団 1966年9月22日(ステレオ録音)・・・ILLUMINATIONという怪しげなレーベルから出た海賊盤。
・シカゴ交響楽団 1961年12月17日(モノラル録音)・・・CDでも出ているようですが、初出はビデオでした。リハーサルの場面も収録されていて、リズムに関してくどいほど指示を出すセルの姿が印象的です。
また、「ひとりの男の勝利」と題するDVDには当時クリーブランドのオケでアシスタントを務めていた若きジェイムズ・レヴァインにコーチをしているシーンが収録されています。これは1966年の録音と言うことなので、ILLUMINATIONがリリースした定期演奏会に向けたリハーサルと思われます。

さて、こうしてセルと運命との関わりを概観してみると、ここで紹介している55年のモノラル録音がスタート地点であることが分かります。そして、これらの録音を聞き通してみて分かることは驚くほどのぶれの少なさです。
例えばカラヤンなんかは50年代の巨匠風のスタイルから60年代の速いテンポによるスタイリッシュな演奏、そして70年代のレガート、レガートのカラヤン美学に立脚した演奏へと10年ごとにその演奏スタイルを大きく変えています。
もちろん、どちらがいいという話ではないのですが、このぶれのない首尾一貫性こそがセルの最大の特徴だと言えます。そして、それ故に、この55年のモノラル録音にはセルの手になる運命の全てのエッセンスが詰め込まれています。

私はかつて、「セルのライブ録音は出来損ないのスタジオ録音だ」と書きました。その考えは、彼のライブ録音が多数リリースされるようになった現在も基本的には変わることはありません。
巷では、ザルツブルク音楽祭における白熱の演奏が評価されているようですが、アンサンブルの精緻さという点では当然のことながらクリーブランド管弦楽団の足元にも及びません。そして、セルはあのような大雑把な演奏は決して良しとはしなかった人でした。
アンサンブル!アンサンブル!!
そう言う理想を目指してオケを鍛え上げていた50年代のこの録音こそが、セルの芸術がもっとも明確に刻印された演奏だと言えます。もっとも、こんなベートーベンはご免だという人はいるでしょうし、それは決して間違ってはいません。ただ、万人に愛される芸術などというモノはこの世には存在しないのです。
最も優れた芸術的営為にはもっとも手強い批判者が存在するモノです。

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