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ベートーベン:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22

(P)ナット 1955年9月20日録音



Beethoven:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22 「第3楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22 「第4楽章」




このソナタは素晴らしいものです


出版社に宛てた手紙にベートーベンはこのように書き記し、第1番の交響曲と同じだけの値段を要求しています。また出版に際しても「グランドソナタ」と名付けたようにベートーベン自身にとっては大変な自信作だったようです。

確かに第1楽章の伸びやかさ、第2楽章のロマンティックな音楽、そして最終楽章の整然としたロンド形式からはベートーベンの青春の歌が聞こえてきます。
ベートーベンの初期様式の最後を飾るのにふさわしい作品です。

第1楽章
 アレグロ・コン・ブリオ 変ロ長調 4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章
 アダージョ・コン・モルタ・エスプレッシオーネ 変ホ長調 8分の9拍子 ソナタ形式
ロマン派のノクターンを連想させるような叙情的な音楽です。美しい!!
第3楽章
 メヌエット 変ロ長調 4分の3拍子
第4楽章
 ロンド アレグレット 変ロ長調 4分の2拍子

昔はレコードは貴重品でした。


大卒の初任給が1万円ちょっとの時代でもレコードの価格は今とほとんど同じの2〜3000円はしたそうです。初任給の約6分の1程度ですから、今の感覚で言えば一枚数万円程度の値段だったのでしょう。ですから、ベートーベンのピアノソナタ全集なんてのは、そうおいそれと買えるものではありませんでした。
ですから、清水の舞台から飛び降りるつもりでその様な全集を購入しようとなれば、「誰の全集」を買うかというのは、結構深刻な課題となります。SP盤からLP盤に移行していった50年代の終わり頃は高度成長のハシリの頃であり、日本人の購買力も少しずつ上がり始めてきたこともあって、こういう「うれしくも深刻」な課題に直面する人も増えつつあったようです。その時代に、チョイスの対象となったのがこのナットとシュナーベルでした。
どこで読んだのかは忘れてしまいましたが、その様な「幸せな」悩みに遭遇した二人の盤友が、シュナーベルとナットの全集をそれぞれに購入した、という話を思い出します。
お互いに念願の全集を購入して幸せいっぱいなのですが、やがて相手のことが気になるのが人のサガで、そこで、お互いに聞き比べてみようと言うことになります。初めは、お互いにあれやこれやと和やかに批評をしあっているのですが、やがてシュナーベル君の表情が次第次第に曇ってきます。やがて、シュナーベル君の方がぽつりと「ミスったかな」と呟いてトボトボと家路についたという「それだけの話」です。
戦前におけるシュナーベルはそれこそベートーベン演奏のスタンダードでした。しかし、戦争で亡命したアメリカは純粋ヨーロッパ人の彼にとってはこの上もなく居心地の悪いところだったようで、目立った活動はほとんど出来ず、その名声にも少しばかり陰が差しました。それでもベートーベンの大家としての権威は戦後においても健在でした。
それに対してナットの方は、基本的には演奏家というよりは教育者でしたから、シュナーベルのような華々しいキャリアはありません。録音活動にもあまり熱心ではなかったようで、このベートーベンのピアノソナタ全集をのぞけばシューマンなんかにある程度まとまった録音がある程度です。ですから、この二人を聞き比べれば最初から勝負はついているようなものなのですが、シュナーベル君は建前に安住できる「愚かさ」は持っていなかったと言うことなのでしょう。

ユング君はナットの演奏をあらためて聴き直してみて、ティボール・ヴァルガを思い出してしまいました。ヴァルガもまた若くして華やかなキャリアをスタートさせながら、その虚飾の世界にうんざりしてその生涯を教育活動に捧げた人でした。そんな彼の演奏は多くは残っていないのですが、そのどれもが何もしていないようなのに、聞き進むうちに深い感情を呼び起こさずにはおられない性質のものでした。
「どうだ、おれのテクニック、凄いだろ!!」「こんな解釈、誰もやってないもんね!!」などというあざとさは全く無縁の演奏で、言葉の最も正しい意味で、作曲家の意思に忠実な演奏でした。それは、作曲家がその作品に託した思いを最大限にくみ取って、それをひたすら誠実に表出しようという演奏でした。そこでは、演奏という行為が現実世界のあらゆる利害関係から離れた地点で成り立っていました。
そして、ナットのベートーベン演奏もまた同じような場所において成り立っているように聞こえます。
荒っぽいまとめ方を許してもらえるならば、彼の演奏は全体として速めのテンポで淡々と弾ききっているようで、一聴すると何もしていないように聞こえるくらいにあっさりしています。ただし、一つ一つの音はクリアで曖昧さというものが全くありません。そのために、昨今の楽譜に忠実な演奏によく見られるように「本当に何もしていない」のではなくて、その淡々とした演奏の中に繊細で微妙な感情が交錯していく様が手に取るように浮かび上がってきます。
もちろん、こんな書き方をすると、同時代にソナタ全集を完成させたバックハウスやケンプは邪念の塊だったと言っているように聞こえるかもしれませんが、それは違います。ユング君はバックハウスやケンプの作品に対する誠実さには全く疑問は抱いていません。しかし、基本的にコンサートピアニストであった彼らにはナットのような心境になることは出来なかったのではないかと言うことです。
つまり、演奏という行為を生業としないことによって成り立つ演奏というスタイルがあると言うことです。それが録音という形で残ることは希であるが故に、その様な希な演奏に出会うと言うことはこの上もない喜びだと言うことです。
そして、これもまた何度も繰り返しますが、その様なすぐれた録音が著作権という檻から解き放たれてパブリックドメインの仲間入りをすることで多くの人が享受できるようになると言う矛盾はこれからも何度でも指摘し続けていきたいと思います。

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