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ベートーベン:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op27-1

(P)ギーゼキング:1949年5月25日録音



Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op27-1 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op27-1 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op27-1 「第3楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op27-1 「第4楽章」




おそらくはもっとも有名なピアノ曲の一つでしょうね。

幻想曲風ソナタと題したのはベートーベン自身であり、そこからはっきりと彼がこの作品にあたえようとした音楽的な方向性を見て取ることができます。
当時のベートーベンはこのピアノソナタという形式を使って様々なチャレンジを繰り返していましたが、これもまたそのようなチャレンジの一つであることは明らかです。

とりわけ作品1の方はソナタと言いながら一つもソナタ楽章を持たない作品で、どちらかと言えば即興曲のような雰囲気を持っています。待たすコアを見てみると終結の縦線がないことから全曲が通して演奏されることを想定していたとも言えます。
その意味でも、この二つの作品が「二つの幻想ソナタ」ではなくて「幻想風ソナタ」となっていることも納得がいきます。

なお、あまりにも有名な月光ソナタですが、このネーミングはベートーベンが与えた物ではありません。後世ににとある詩人がこの作品の第1楽章を評して「ルツェルン湖の月光の波にゆらぐ小舟のようだ」と語ったことに由来します。

第1楽章
 アンダンテーアレグローアンダンテ 変ホ長調 2分の2拍子(アンダンテ) 8分の6拍子(アレグロ) 三部形式 
第2楽章
 アレグロ・モルト・エ・ヴィナーチェ ハ短調 4分の3拍子 スケルツォ(?)
第3楽章
 アダージョ・コン・エスプレッシオーネーアレグロ・ヴィヴァーチェ 変イ長調 4分の3拍子
前半のアダージョの部分を一つの楽章と見なす人もいます。と言うのも、その部分だけで完結した三部形式と見なすことができおるからで、まさに一遍の叙情詩とも言うべき音楽です

「かろみ」の世界


49年から50年にかけてベートーベンのピアノソナタをまとめて録音しながら、4・5・7番と20・22番の5曲だけは録音されずに残されてしまいました。この少し後にモーツァルトのピアノソナタは全曲録音して全集として完成させているわけですから、このベートーベンに関しても「全集」として完成させることへの意欲はなかったとは思えません。20番と22番に関しては演奏する気になれなかったというのなら理解できないことはないのですが、4・5・7番に関してはベートーベンの初期を代表する重要な作品ですから、この欠落の仕方は実に不思議です。
全くの想像ですが、おそらくは芸術上の問題ではなくてビジネス上の問題として打ち切られた可能性が高いように思われます。(あくまでも、私の想像ですが・・・)

その結果として、モーツァルトのピアノソナタ全集は20世紀におけるモーツァルト演奏の一つのスタンダードとして今もって現役盤としてカタログを飾り続けていますが、ベートーベンのこれら一連の録音は長く忘却の彼方に追いやられていました。おかげで、マスターテープの保存状態もあまりよろしくなかったようで、音質的にもいまいち冴えません。ギーゼキングにわずかに遅れて(50〜54年)、バックハウスがベートーベンのピアノソナタを全曲録音しているのですが、それと比べてみれば音質の違いは歴然としています。
バックハウスの録音は全集として完成し、さらに音質的にもモノラルの極上とは言えないまでも十分に音楽として楽しめるクオリティをもっていたのに対して、ギーゼキングの方は中途半端な形で放置されたままに、音質的にもパッとしません。結果として、スタンダードとしての地位を獲得したのがバックハウスであったことは仕方のないことです。

しかし、今ひとつさえない録音であるにも関わらず、ギーゼキング特有のクリアな音色は感じ取ることができます。一度魅了されれば麻薬のように人を虜にするあの魅力の香りはスポイルされていません。
さらに、バックハウスなどとは全く違う作品の作り方は実に魅力的です。

実はこういう言い方はあまりにも曖昧で注意しなければいけないのですが、いわゆるバックハウスなどに代表される「ドイツ精神主義」的な演奏とは全く異なったポジションからアプローチされた演奏です。その結果として、彼の演奏からは「重さ」ではなくて「軽さ」を感じます。イヤ。「軽さ」などと表現すれば「チープ」もしくは「プア」と混同されかねませんから、和語の「かろみ」と言い換えた方がいいかもしれません。
彼の演奏でベートーベンを聞くと、ベートーベンという偶像にまとわりついていた一切のしがらみから切り離されて、ふわりと空中に浮遊するような自由な感覚を楽しむことができます。それでいながら、作品のエッジは常に明瞭で一切の曖昧さとは無縁ですし、内部の見通しも極上の透明感を保持しています。

ギーゼキングは「ノイエ ザハリヒカイト(新即物主義)」の旗手といわれてきました。本人はこの「ノイエ ザハリヒカイト」といういわれ方はあまりお好きではなかったようですが、この一連のベートーベン演奏を聴くと「ノイエ ザハリヒカイト」の本当に正しい姿が提示されているように思えてなりません。
それは、ただ楽譜に忠実にばりばり弾きまくることではなくて、「楽譜に忠実に、そして作曲者の御心にそうように(^^;、己の想像力を最大限に活用して作品をもう一度クリアに再構築」することであったはずです。昨今の楽譜に忠実なだけの演奏がつまらないのは、作品を再構築する演奏者の「想像力」が欠落しているからです。
その様にとらえれば、バックハウスとギーゼキングの違いは両者のベートーベンに対する「想像力」の違いだということになります。そして、その様な様々な想像力を許容するところに作品の偉大さがあるのだということにも気づかされます。

ベートーベンのスタンダードとしてのバックハウスもいいのですが、時にはギーゼキングの「かろみ」の世界に遊んでみるものいいのではないでしょうか。
<追記>
8番「悲愴」・14番「月光」という有名どころがとりわけ音質が冴えないようです。ちょっと残念です。


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