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ワーグナー:さまよえるオランダ人

ライナー指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団 (Br)ホッター (S)ヴァルナイ 1950年録音 



Wagner:さまよえるオランダ人「序曲」

Wagner:さまよえるオランダ人「第1幕」

Wagner:さまよえるオランダ人「第2幕」

Wagner:さまよえるオランダ人「第3幕」


ワーグナーの終生のテーマである「女性の愛による救済」の原型

ワーグナーはこれ以前にもいくつかのオペラを作曲していますが、ワーグナーの個性が初めて輝きだしたのはこの「さまよえるオランダ人」からです。そして、ワーグナーの終生のテーマであった「女性の愛による救済」がはっきりと明示されたのはこの作品からです。
「女性の愛による救済」というのは、何らかの理由で苦悩や宿命を背負った男(時には世界)が、女性の自己犠牲的な純愛によって救済されるというモチーフです。ワーグナーがこのモチーフがよほど好きだったようで、その後タンホイザーやトリスタン、リングなどで何度も何度もこのモチーフを持ち出しています。考えようによっては、エゴイストの権化であったワーグナーにはピッタリの好都合なモチーフだったのかもしれません。

この作品は古くからヨーロッパに伝わる「さまよえるオランダ人」の伝説、さらにはハイネによる寓話「フォン・シュナーベレヴォブスキー氏の回想記」をヒントとしていますが、それに加えてワーグナー自身の嵐での航海体験も反映していると言われています。
ここにはその後のワーグナー作品の全てがはっきりと姿を著していますし、逆に古いイタリアオペラの脳天気な響きも至る所に顔だすという不思議な雰囲気が満ちています。そういう意味では過渡期の作品といえるのかもしれませんが、後のワーグナー作品と比べるとコンパクトにまとまっていて話の展開もそれほど複雑ではないので、初めてワーグナーにふれるには取っつきやすい作品といえるかもしれません。

序曲
冒頭のホルンの不気味な響き「オランダ人の動機」が一気に観客を荒れ狂う北の海へと誘います。そして、それが一段落すると木管楽器が穏やかに「救済の動機」を歌い始めます。
この二つの動機は作品全体を通して核となるものなのですが、これを序曲のなかで見事なまでに対比させて物語り全体のテーマを暗示させる技術は実に見事なものです。

第一幕
<第1場>
「ホヨエ!ハロヨ!」
激しい嵐を避けて一艘のノルウェー船が入り江に錨を降ろす。船乗りたちはふるさとの恋人たちのことを思いながら望郷の歌を歌っているが、やがて眠気に負けて眠り込んでしまう。
すると、不気味な弦のトレモロの後にあとに「オランダ人の動機」が響き渡って黒いマストに赤い帆をつけた不気味な幽霊船が現れる。<第2場>
「期限は切れた」
嵐の海で神を冒涜したために永遠に七つの海をさまよわねばならない己の身の上をモノローグでオランダ人が語り始める。オランダ人は七年に一度だけ上陸を許され、その時に永遠の愛を誓う女性が現れれば呪われた運命から救済されるが、さもなければ永遠に七つの海をさまよう運命にあるという。
<第3場>
「遠くから私はきたのだ」
ノルウェー船の船長であるダーラントはオランダ人船長を見つけると自分も上陸し彼に話し掛ける。
オランダ人は莫大な財宝をダーラントに見せて、それと引きかえに一夜の宿の提供を求める。さらに、ダーラントに娘がいることを知ると、その娘を妻にもらえるならば全ての財宝を進呈しようと言う。
財宝に目がくらんだダーラントは喜んでこの申し出を受け入れ、二艘の船はダーラントの故郷目指して出港する。

第二幕
<第1場>
「糸紡ぎの合唱」
娘達が楽しげに歌いながら糸車をまわしている。そんななかでダーラントの娘であるゼンタだけは壁にかかった「さまよえるオランダ人」の肖像画を放心状態になって見つめている。
「ゼンタのバラード」
そして、例の「オランダ人の動機」が鳴り響くと、ゼンタは「さまよえるオランダ人」の物語を皆に語り始める。この場面はオペラ全体の核となる部分であり、言葉をかえればオペラ全体の縮小版といえる部分です。
<第2場>
「高い岩の上で夢見心地で」
そこにゼンタに好意を寄せる狩人のエリックが入って来て、ダーラントの船が帰ってきた事を告げる。そして、エリックは壁の絵とそっくりな男をダーラントが連れて来て、貴女はその男と接吻をしてから二人で海の上を遠くに消え去った夢を見たと話す。
<第3場>
「遠く過ぎ去った過去のなかから」
そこにオランダ人を連れたダーラントが入ってくる。叫び声を上げるゼンタ、無言で見つめるオランダ人。その後のワーグナーが多用した長い沈黙がここでも効果的に活用されています。
ダーラントはオランダ人を紹介し、もし気に入るならばお前の夫になる人だと言い残して座を外す。
やがてオランダ人は己の運命を語りはじめ、ゼンタも夢のなかの言葉を語り始める。この二重唱は二人が言い交わす言葉ではなく、二つの内なる独白が音楽化されたものだといえます。そして、ゼンタは彼の救済のために「永遠の愛」「死に至るまでの貞節」を誓います。
第三幕
<第1場>
「舵取りよ、見張りをやめよ!」
苦しい航海を乗り切ったノルウェー船では水夫達が酒を飲みながら陽気に歌い始めます。やがて、船にやって来た娘達もそれに声を合わせて騒ぎ始めます。
「ヨホホエ! ヨホホホエ!」
すると、不気味な沈黙を守っていたオランダ船の乗組員達が気味の悪い歌を歌いだします。ノルウェー船の船員もそれに負けじと歌い返して迫力のある合唱が展開されるのですが、ついにはオランダ船の合唱が圧倒して耳をつんざくような哄笑が響きます。
<第2場>
「もはや終わりだ!」
オランダ船に向かうゼンタをエリックは彼女が愛してくれた日のことを語って必死でひきとめようとします。そんな二人のやりとりを物影で聞いていたオランダ人はこれで救済は永久に失われたと悲痛な声で叫びゼンタに別れを告げる。そして、ゼンタの裏切りを激しく非難しながらも、自分の犠牲になるよりもこの地に留まるように言い残して出港の準備を命じます。
「命を捨てても、あなたに真心を捧げます!」
しかし、ゼンタはダーラントやエリック達の制止を振り切ってオランダ人への永遠の愛を誓い海に身を投げます。するとオランダ船は海中に沈み、「救済の動機」が流れるなかゼンタとオランダ人は浄化されて天に昇っていきます。


ホッターがオランダ人を歌った貴重な記録

ホッターは紛れもなく20世紀を代表する偉大なワーグナー歌手です。ところが、意外なことに、彼にとってはピッタリだと思えるこのオランダ人を歌った録音はほとんど残されていないのです。さらには、指揮をライナーが引き受けることで、実に作品全体がシャープで引き締まったものに仕上がっていると言うことも考え合わせると、これは実に貴重な録音だと言わざるを得ません。

じつは、この演し物はホッターが戦後初めてメトにデビューを果たしたときのものです。当時のメトは戦時中のナチスの迫害を逃れてアメリカに亡命をしてきたユダヤ人が多くいた頃です。そういう環境のなかでドイツ人であるホッターが歌うというのは、実に緊張感をともなく出来事だったようで、ホッター自身もその時の危惧を自伝のなかでも述べています。
ただし公演の方は幸いにドイツ人であると言うことで無用な混乱はおこらなかったのですが、演奏そのものには賛否両論が渦巻いたそうです。一説による、初日のライナーの指揮があまり上手くいかなかったのがその原因だと言われているのですが、それも録音として残っていない以上何とも判断しかねます。やはり幾分はドイツ人であるホッターに対する反感もあったのではないでしょうか。
しかし、その初日公演から一ヶ月半後に録音されてこの演奏は実に立派なものです。
特に、ホッターの深々とした声はデモーニッシュな魅力に満ちあふれていて、このオランダ人役に最も相応しい歌いっぷりだと感心させられます。

この演奏を評価してください。

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  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
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  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



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