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クルト・レーデル(Kurt Redel) |J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068(J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068)
J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068(J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068)
クルト・レーデル指揮:(Fl)クルト・レーデル ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:(Fl)Kurt Redel The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962) J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068 [1.Ouverture]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068 [2.Air]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068 [3.Gavotte]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068 [4.Bourree]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.3 in D major, BWV 1068 [5.Gigue]
ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品
ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。
そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。
同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。
ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。
ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。
それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。
疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。
管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。
管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。
管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。
管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。
管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
第1曲:序曲 (Ouverture)
フランス風序曲の様式に則った、全曲の中で最も規模が大きく、堂々とした楽曲です。大きく分けて「3つの部分(緩ー急ー緩)」で構成されています。
導入部(緩・グラーヴェ):「タッカ、タッカ」という付点リズムが特徴です。トランペットのファンファーレとティンパニの強烈な打撃が鳴り響き、当時の王侯貴族の入場を思わせる圧倒的な威厳と華やかさを持っています。
主部(急・ヴィヴァーチェ):テンポが速くなり、4分の4拍子の軽快なフーガ(1つのメロディを各楽器が追いかける形式)へと突入します。第1ヴァイオリンが提示した活動的なテーマを、他の楽器が次々と模倣していきます。
途中でトランペットが加わることで、ポリフォニー(多声音楽)のテクスチャーがさらに色彩豊かに彩られます。
終結部(緩):フーガが興奮のうちに締めくくられると、再び冒頭の荘厳な付点リズムのテンポに戻り、重厚にこの楽章を閉じます。
第2曲:エール (Air)
この曲だけトランペット、ティンパニ、オーボエが完全に休みとなり、弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ)と通奏低音(チェロやチェンバロ)だけで演奏されます。
通奏低音が「オクターブ下降するステップ」を刻み続ける中、第1ヴァイオリンが息の長い、天に昇るような美しいメロディを歌い上げます。
後世にヴィルヘルミが「ヴァイオリンのG線(最低音の弦)だけで弾ける」ようにハ長調に移調・編曲したため「G線上のアリア」として有名になりましたが、原曲(ニ長調)では高音域の透明感ある響きが魅力です。
第3曲:ガヴォット I / II (Gavotte)
フランス起源の2拍子の軽快な舞曲です。一般的にガヴォットは小節の真ん中(3拍目)から始まりますが、バッハのこの曲もその特徴を持っています。
トランペット、ティンパニを含む全楽器が総動員され、「タタ・ターン、タタ・ターン」という非常に明快で力強いリズムが刻まれます。親しみやすく、一度聴いたら耳から離れないキャッチーなメロディです。
中間部(トリオ)にあたる部分では楽器編成が少し薄くなり、弦楽器を中心としたやや落ち着いた、しかしステップを踏むようなお洒落な音楽へと変化します。
第4曲:ブーレ (Bourree)
フランスのオーヴェルニュ地方に起源を持つ、4分の2拍子の非常に急速な舞曲です。弱起(アウフタクト)と呼ばれる、小節の最後の拍(アップビート)から始まるのが特徴です。
わずか数分で駆け抜ける短い楽章ですが、推進力に満ちています。第1ヴァイオリンとオーボエがユニゾン(同じメロディ)で、飛び跳ねるようなスタッカート混じりのテーマを演奏します。
それに呼応するように、トランペットが鋭いアクセントを打ち込み、祝祭的な興奮をさらに高めます。
第5曲:ジーグ (Gigue)
組曲全体のフィナーレを飾る、イギリス・アイルランド起源の8分の6拍子の急速な舞曲です。タタタ・タタタという3拍子系のリズミカルな波動が地を這うように進みます。
バッハのジーグとしては珍しく、複雑なフーガ形式ではなく、ホモフォニー(明快なメロディと伴奏の関係)に近い分かりやすい構造をしています。
トランペットとティンパニが三度、最高潮に鳴り響き、オーケストラ全体が一体となって圧倒的な歓喜とエネルギーの中で全曲を締めくくります。
一つの救いのように聞こえる
40年代の終わり頃から50年代の初め頃に、何人もの若手音楽家が中心となって自主的にオーケストラを組織して、バッハ以前の音楽の復興を志しました。
リヒター、ミュンヒンガー、パウムガルトナー、そしてレーデル等です。もちろん、数え上げればきりがありません。
しかし、そのような古楽復興は戦後になって始まったものではなく、ランドフスカなどに代表されるようにその萌芽はすでに戦争前から始まっていました。そして、そのようなムーブメントは世界中を巻き込む戦争によって中断を余儀なくされました。しかし、そのような萌芽は戦争によって消え去ったわけではないので、戦争が終わると、その傷手が未だ癒えない時期から再びその芽は伸びはじめることになったのです。
そして、そう言うメンバーの中でもっとも成功したのは疑いもなくカール・リヒターでしょう。彼の描き出した峻厳なるバッハ像は、それまでのバッハ演奏の常識を覆すものでした。そして、彼のそのような峻厳なるバッハ像はリヒター一人による成果ではなくて、その音楽の根っこは彼の師でであったギュンター・ラミンから受け継いだものであったことも忘れてはいけません。
芸術における創造的活動というのは確かに一人の天才の出現を求めますが、その天才もまた多くの前人の肩の上にのってこそ成し遂げられるものです。
そして、そう言うリヒターなどと較べると、このレーデルは今となってはもっとも影の薄い存在なのかもしれません。
彼の経歴を見てみると、1952年にミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を組織して指揮活動を積極的に行うようになります。しかし、彼はそれ以前に、基本的にはフルート奏者であり、そしてフルート演奏の教育者でした。おそらく、そう言う経歴の故か、彼のバッハ演奏はリヒターのような強烈な個性を発揮する演奏とは大きく異なった、ある意味では時代の常識に少しばかりのスパイスを混ぜたくらいのものでした。
それ故に、時を経るにつれてその名前も忘れ去られていったのでしょう。
さらに言えば、彼らの後に続いたピリオド演奏のムーブメントが始まると、リヒターでさえも、そのモダン楽器を使った演奏スタイルは時代遅れのものとされていったのですから、レーデルのスタイルの演奏ならばさらにその忘却は加速されました。
しかし、あらためて、レーデルの音楽を今という時代に聞き直してみれば、ある意味では穏やかで常識的な演奏はそれはそれで悪くはないなと言う気にさせられます。とりわけ、低声部を厚めにならしたふくよかな響きは聞くものの心を穏やかにしてくれます。
厳しいばかりがバッハではありません。
おそらく、このような柔和な表情もまたもう一つのバッハの素顔であり、それを否定するのは狭量に過ぎるでしょう。
もちろん、モダン楽器を使用した演奏などは全て「間違い」だと糾弾した一部の原理主義者たちも幸いなことに最近は姿を消したようです。
そうしてみれば、歴史は一つの「環」のようにまた再びもとあったような場所に舞い戻ってきたりするものです。
こうして、レーデルが見せてくれる世界は厳しいコロナ禍に喘ぐ閉塞社会では一つの救いのように聞こえる…と、かつては書いたものです。
しかしながら、たえざる戦争と災害、貧困と分断という息苦しいまでの日常の中に身を置いてみれば、レーデルのバッハは疑いもなく一つの救いであるかのように思えてきます。
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