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エーリッヒ・クライバー(Erich Kleiber)|リヒャルト.シュトラウス:歌劇「薔薇の騎士」より「ワルツ」(Richard Strauss:Waltzes (from Der Rosenkavalie))
リヒャルト.シュトラウス:歌劇「薔薇の騎士」より「ワルツ」(Richard Strauss:Waltzes (from Der Rosenkavalie))
エーリヒ・クライバー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1934年5月録音(Erich Kleiber:Berlin Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1934)
Richard Strauss:Waltzes (from Der Rosenkavalie)
オーケストラの美味しい部分を抜き出して管弦楽曲
「薔薇の騎士」はシュトラウスの作品の中でも最高の傑作と評されているのですが(^^;、これを最初から最後まで聞き通すのはかなりの困難を強いられます。何故ならば、普通のペラというのはレチタティーヴォとアリアが適当に混ざり合っているので、レチタティーヴォの部分で何を言っているのか分からなくても、アリアの部分にくれば楽しく聞くことが出来るものです。
つまりは、何を言っているのか皆目分からなくても、少し我慢していれば楽しいアリアの時間がやってくるので、それなりに楽しく最後まで聞き通すことが出来る仕掛けになっているのです。
ところが、この「薔薇の騎士」にはアリアと言えるような部分は1曲しかありません。逆に会話のような部分が延々と続き、その部分の音楽もまた耳に印象深く残るような部分は少ないのです。
とは言え、そこでシュトラウスは己の管弦楽法の能力をフルに発揮して、オーケストラが歌以上に雄弁に物語っていくのです。
ならば、そう言うオーケストラの美味しい部分を抜き出して管弦楽曲にした方が楽しいだろうというのは、当然の発想として出てくるのです。
そこで、オペラの中で人気の高かったワルツを適当に組み合わせた作品が作られたのですが、このエーリッヒのワルツ集もそのような作品の一つだったようです。
そして、後にロジンスキーによってオペラの展開に従って聞かせどころを上手くつなぎ合わせた編集版が作られました。この編集版はシュトラウスの音楽を上手く切り貼りしたものでオーケストレーションの部分に関してもほとんど変更を加えていません。なので、その編集作業は作曲家本人には全くあずかり知らないところで行われました。
ただし、この編集作業は実に巧妙に行われていて、さらには組曲と言いながら全曲は切れ目なく演奏されるので、雰囲気としては交響詩「薔薇の騎士」みたいに聞こえます。
今日では、組曲「薔薇の騎士」と言えばシュトラウスの手になるワルツ版ではなくこちらの編集版を指すのが一般的です。。
目一杯に曲線を多用した音楽
1934年と言えば、まさに「ヒンデミット事件」の渦中に録音されたと言うことになります。
そして、そう言う時代背景があったからでしょう、直線的な音楽作りにスタイルを変えつつあったエーリヒがここでは目一杯に曲線を多用して音楽作りをしています。
「ヒンデミットが退廃的だというならば、どうだ!!
この薔薇の騎士の方がもっと退廃的だろう!!」
と言わんばかりです。
そして、この退廃的なまでにアンニュイな雰囲気の何という素晴らしさ!!
ヒンデミット事件とは、ユダヤ人との関係が深かったヒンデミットの新作オペラ「画家マチス」の上演をめぐって引き起こされた一連の事件のことを言います。
ヒンデミットは当時のドイツを代表する新進の作曲家であり、帝国音楽院の顧問という地位にも就いていました。しかし、その様な立場にありながら、平気でユダヤ人音楽家と弦楽三重奏を組んでレコーディングなどを行っていました。
政権の座についたばかりのヒトラーにとっては、ヒンデミットのその様な振る舞いは苦々しさの限りだったのでしょう。
そして、そう言うことを背景として、「画家マチス」の上演をめぐって事件は引き起こされます。
この「画家マチス」は、まずはこのオペラをもとに構成された交響曲「画家マチス」としてフルトヴェングラー&ベルリンフィルによって初演が為されました。そして、フルトヴェングラーはその初演の成功に力を得て、続けてオペラの初演に取り組みはじめます。
そこに割り込んできたのが政権の座についたばかりのナチスであり、ヒンデミットの音楽が退廃的であるとして上演禁止を通達してきます。
驚いたのはフルトヴェングラーであり、ナチスによるヒンデミットの排斥は根拠のない言いがかりであり、いかなる理由であれヒンデミットのような才能ある作曲家をドイツから閉め出すことはゆるされないという内容の文章を新聞に発表します。その文章のタイトルが「ヒンデミット事件」とされていたので、この一連の出来事もまた「ヒンデミット事件」と呼ばれるようになるのです。
この事件は結果的にはヒンデミットのトルコへの亡命という形で決着します。
さらには全ての公職から追放されたフルトヴェングラーもまたその翌年にはナチスと和解して再びベルリンフィルの指揮台に復帰します。
このフルトヴェングラーとナチスの和解の価値判断は難しいのですが、当時の人々はフルトヴェングラーがナチスに屈服したと思ったことは事実です。もちろん、そこには様々な思惑は交錯していて、事はそれほど単純でなかったことは事実なのでしょうが、ナチスにしてみれば世間の多くがフルトヴェングラーが「屈服した」と思ってもらえたならば、政治的にはそれだけで大成功だったことでしょう。
何故ならば、その時にヒンデミットとともにドイツを去った人物がいたからでした。それが、ベルリン国立歌劇場のシェフだったエーリヒ・クライバーでした。
歴史に「if」はないのですが、その時にフルトヴェングラーも同様にドイツを去っていればナチスの文化政策にとっては大打撃となっていたことは間違いありません。
そして、ナチス政権下におけるドイツの文化的相貌も、さらには戦後の文化的相貌も大きく異なったはずなのです。
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