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モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調「リンツ」 K.425

エーリッヒ・クライバー指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1954年11月録音



Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425 "Linz" [1.Adagio - Allegro spiritoso]

Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425 "Linz" [2.Andante con moto]

Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425 "Linz" [3.Menuetto]

Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425 "Linz" [4.Presto]


わずか4日で仕上げたシンフォニ

1783年の夏にモーツァルトは久しぶりにザルツブルグに帰っています。それはできる限り先延ばしにしていた妻コンスタンツェを紹介するためでした。
その訪問はモーツァルトにとっても父や姉にとってもあまり楽しい時間ではなかったようで、この訪問に関する記述は驚くほど僅かしか残されていません。

そして、この厄介な訪問を終えたモーツァルトは、その帰りにリンツに立ち寄り、トゥーン伯爵の邸宅に3週間ほど逗留することとなりました。
このリンツでの滞在に関しては、ザルツブルグへの帰郷の時とうって変わって、父親宛に詳しい手紙を書き送っています。そして、私たちはその手紙のおかげでこのリンツ滞在時の様子を詳しく知ることができるのです。

モーツァルトは到着してすぐに行われた演奏会では、ミヒャエル・ハイドンのシンフォニーに序奏を付け足した作品を演奏しました。実は、すぐに演奏できるような新作のシンフォニーを持っていなかったためにこのような非常手段をとったのですが、後年この作品をモーツァルトの作品と間違って37番という番号が割り振られることになってしまいました。
もちろん、この幻の37番シンフォニーはミヒャエル・ハイドンの作品であることは明らかであり、モーツァルトが新しく付け加えた序奏部だけが現在の作品目録に掲載されています。

<追記>
モーツァルトの「交響曲37番」に関しては上で述べたように、リンツにおける滞在と結びつけた説明が為されてきました。しかし、詳細は避けますが、最近の研究ではこの説は否定されていて、この「序奏」部分はリンツに滞在した翌年(1783年)の2月頃にに書かれたものであることが明らかになっています。
つまり、モーツァルトはリンツで伯爵からの依頼に従って「K.425」のハ長調シンフォニーだけを仕上げて演奏会に供したというのが事実だったようです。
<追記終わり>

さて、大変な音楽愛好家であったトゥーン伯爵は、その様な非常手段では満足できなかったようで、次の演奏会のためにモーツァルト自身の新作シンフォニーを注文しました。
この要望にこたえて作曲されたのが36番シンフォニーで、このような経緯から「リンツ」という名前を持つようになりました。

ただ、驚くべきは、残された資料などから判断すると、モーツァルトの後期を代表するこの堂々たるシンフォニーがわずか4日で書き上げられたらしいと言うことです。
彼はその4日の間に全く新しい交響曲を作曲し、それをパート譜に写譜し、さらにはリハーサルさえもしたというのです。
いかにモーツァルトが天才といえども、全く白紙の状態からわずか4日でこのような作品は仕上げられないでしょうから、おそらくは作品の構想はザルツブルグにおいてある程度仕上がっていたとは思われます。とは言え、これもまた天才モーツァルトを彩るには恰好のエピソードの一つといえます。

まず、アダージョの序奏ではじまった作品は、アレグロのこの上もなく明快で快活な第1主題に入ることで見事な効果を演出しています。最近、このような単純で明快、そして快活な姿の中にこそモーツァルトの本質があるのではないかと強く感じるようになってきています。
そして、その清明さは完璧なまでに均衡の取れた形式と優れたオーケストレーションによって実現されている事は明らかです。
その背景にはウィーンという街で出会った優れたオーケストラプレーヤー達との共同作業で培われた技術と、演奏会のオープニングをつとめる「序曲」の位置から脱しつつあった「交響曲」という形式の発展が寄与しています。

第2楽章のアンダンテも微妙な陰影よりはある種の単純さに貫かれた清明さの方が前面にでています。
しかし、モーツァルトはこの作品において始めて緩徐楽章にトランペットとティンパニーを使用しています。その事によって、この緩徐楽章にある種の凄みを加えていることも事実です。
そして、緩徐楽章を優雅さの世界からもう一段高い世界へ引き上げようとした試みは、ベートーベンのファーストシンフォニーへと引き継がれていきます。ただし、ベートーベンがファーストシンフォニーを作曲したときにはこのリンツ交響曲のことは知らなかったようなので、二人の天才が別々の場所で同じような試みをしたことは興味深い事実です。

続く、メヌエットにおいても最後のプレスト楽章でもその様な明るさと簡明さは一貫しています。
メヌエットのトリオではオーボエとファゴットの二重奏で演奏されるのですが、そこにはザルツブルグ時代の実用音楽で強いられた浮かれた雰囲気は全くありません。
また、プレスト楽章もその指示通りに、「可能な限り速く演奏する」事を要求しています。オーケストラがまるで一つの楽器であるかのように前進していくその響きは新しい時代を象徴する響きでもありました。

交響曲第36番 ハ長調 K.425 「リンツ」


  1. 第1楽章:Adagio; Allegro spiritoso

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Menuetto e Trio

  4. 第4楽章:Presto




息子のカルロスが真っ直ぐに引き継いだもの

彼のほぼ最後の録音に近い1956年1月のケルン放送交響楽団とのモーツァルトも交響曲第39番にかんして、その時の私個人の特殊な状況と絡めて以下のように書いたことがあります。

ベートーベンは悲しんでいる人の首根っこをつかんで、「さあ立ってともに戦おう!」と呼びかけるのに対して、モーツァルトは悲しんでいる人の横で、「オレもまた悲しくてしんどいのよ」と寄り添ってくれる音楽だと言った人がいました。
実は、この録音は、私が生まれて初めて救急車で運ばれるという経験をした後に、家に帰ってきてから初めて聞いた音楽でした。そして、「モーツァルトは悲しみと辛さに寄り添ってくれる音楽」という「慧眼」に深く共感させてくれる演奏でもありました。

言うまでもないことですが、そう言う経験をした後にすぐに「音楽」などを聞けるものではありません。オーディオ装置の電源をオンにするのも億劫で、漸く何か聞いてみようかと思うまでには数日の時を必要としました。
そして、その時に「何を聞いてみようか」と考えて選び出したのが、この「パパ・クライバー」のモーツァルトだったのです。

今では考えられないような分厚い響きで最初の和音が鳴り響くのですが、その響きはどこまでも柔らかく、疲れ切ったからだと心にはこの上もなく心地よいものでした。
そして、もう一つ気づいたのは、そう言う響きでありながら音楽は決して重くなることはなく、それはカルロスの音楽を思わせるようなしなやか生命力にあふれていることです。


それ以後、何故か彼の録音からは離れていたのですが、気づけば彼の業績に比して紹介している音源のあまりに少ないことに気づきました。そこで、そう言う嫌な思い出(^^;も薄れてしまったので、久しぶりに彼のモーツァルトを幾つか聞き直してみました。
そうすると、どうも「今では考えられないような分厚い響きで最初の和音が鳴り響くのですが、その響きはどこまでも柔らかく、疲れ切ったからだと心にはこの上もなく心地よいものでした」というのとは随分と雰囲気が違うので、いささか戸惑ってしまいました。
同じケルン放送交響楽団と1953年に録音した交響曲第33番等は、「響きはどこまでも柔らかく」どころか、逆にエッジが立っていると思えるほどに直線的で堂々たるシンフォニーに仕上げているではないですか。1954年のベルリン国立歌劇場管弦楽団との交響曲第36番「リンツ」のライブ録音も事情は同じです。

特に、ベルリン国立歌劇場管弦楽団砥の演奏は、当時のライブ録音としては信じがたいほどの蒿音質で、さらには楽章間のざわめきも一切処理せずに収録されているので、その素晴らしい推進力によって堂々たる構築物としてのモーツァルトが描かれていく様が手に取るように伝わってきます。しかし、考えてみればあの56年に録音された39番のシンフォニーもまたただの「癒し」ではなく、同時に暖かい生命の燦めきのようなものを聞き手に与えてくれる音楽ではありました。そして、その生命の燦めきこそが息子のカルロスが真っ直ぐに引き継いだものだっと納得した次第です。あのカルロスが、父のエーリッヒが演奏を行った場所では指揮をしたがらなかったというエピソードにも納得させてくれる演奏だと言えます。

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