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ギーゼキング(Walter Gieseking)|ベートーベン:ピアノソナタ第30番
ベートーベン:ピアノソナタ第30番
ギーゼキング 1949年11月22日録音
beethoven:ピアノソナタ第30番「第1楽章」
beethoven:ピアノソナタ第30番「第2楽章」
beethoven:ピアノソナタ第30番「第3楽章」
ベートーベン最後の輝き

中期の絶頂期にあとにベートーベンを深刻なスランプが襲ったことは有名な事実です。そのベートーベンが長い雌伏のあとに後期の絶頂期を迎えるのが、この最後の3つのソナタを作曲した時期でした。
この時期にベートーベンは、ピアノ曲ではディアベリ変奏曲、交響曲の分野では第9を、そして声楽を含む巨大な作品である「ミサ・ソレムニス」などを生み出しています。
どの作品も今までの作品群とは一線を画するような正確を持っていますが、それはピアノソナタの分野でも同様です。
後期三大ソナタと言われる「作品109〜111」のソナタはいずれも幻想的な雰囲気を持ち、とりわけ変奏曲形式が重要な位置を占めていることが特徴です。
この作品109のソナタでも、作品全体を受けとめるような重みのある変奏曲を第3楽章に持ってきています。ソナタに変奏曲形式を盛り込んだことは今までも何度かありましたが、これほどまでの重みを与えたのはこれが初めてです。
ベートーベン自身が「歌うように、心の底からの感動を持って」と記しているように、実に感動的な音楽となっています。
第1楽章
ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ ホ長調 4分の2拍子 ソナタ形式
第2楽章
プレスティッシモ ホ短調 8分の6拍子 ソナタ形式
第3楽章
アンダンテ・モルト・カンタービレ・エド・エスプレッシーヴォ ホ長調 4分の3拍子 変奏曲形式
「かろみ」の世界
49年から50年にかけてベートーベンのピアノソナタをまとめて録音しながら、4・5・7番と20・22番の5曲だけは録音されずに残されてしまいました。この少し後にモーツァルトのピアノソナタは全曲録音して全集として完成させているわけですから、このベートーベンに関しても「全集」として完成させることへの意欲はなかったとは思えません。20番と22番に関しては演奏する気になれなかったというのなら理解できないことはないのですが、4・5・7番に関してはベートーベンの初期を代表する重要な作品ですから、この欠落の仕方は実に不思議です。
全くの想像ですが、おそらくは芸術上の問題ではなくてビジネス上の問題として打ち切られた可能性が高いように思われます。(あくまでも、私の想像ですが・・・)
その結果として、モーツァルトのピアノソナタ全集は20世紀におけるモーツァルト演奏の一つのスタンダードとして今もって現役盤としてカタログを飾り続けていますが、ベートーベンのこれら一連の録音は長く忘却の彼方に追いやられていました。おかげで、マスターテープの保存状態もあまりよろしくなかったようで、音質的にもいまいち冴えません。ギーゼキングにわずかに遅れて(50〜54年)、バックハウスがベートーベンのピアノソナタを全曲録音しているのですが、それと比べてみれば音質の違いは歴然としています。
バックハウスの録音は全集として完成し、さらに音質的にもモノラルの極上とは言えないまでも十分に音楽として楽しめるクオリティをもっていたのに対して、ギーゼキングの方は中途半端な形で放置されたままに、音質的にもパッとしません。結果として、スタンダードとしての地位を獲得したのがバックハウスであったことは仕方のないことです。
しかし、今ひとつさえない録音であるにも関わらず、ギーゼキング特有のクリアな音色は感じ取ることができます。一度魅了されれば麻薬のように人を虜にするあの魅力の香りはスポイルされていません。
さらに、バックハウスなどとは全く違う作品の作り方は実に魅力的です。
実はこういう言い方はあまりにも曖昧で注意しなければいけないのですが、いわゆるバックハウスなどに代表される「ドイツ精神主義」的な演奏とは全く異なったポジションからアプローチされた演奏です。その結果として、彼の演奏からは「重さ」ではなくて「軽さ」を感じます。イヤ。「軽さ」などと表現すれば「チープ」もしくは「プア」と混同されかねませんから、和語の「かろみ」と言い換えた方がいいかもしれません。
彼の演奏でベートーベンを聞くと、ベートーベンという偶像にまとわりついていた一切のしがらみから切り離されて、ふわりと空中に浮遊するような自由な感覚を楽しむことができます。それでいながら、作品のエッジは常に明瞭で一切の曖昧さとは無縁ですし、内部の見通しも極上の透明感を保持しています。
ギーゼキングは「ノイエ ザハリヒカイト(新即物主義)」の旗手といわれてきました。本人はこの「ノイエ ザハリヒカイト」といういわれ方はあまりお好きではなかったようですが、この一連のベートーベン演奏を聴くと「ノイエ ザハリヒカイト」の本当に正しい姿が提示されているように思えてなりません。
それは、ただ楽譜に忠実にばりばり弾きまくることではなくて、「楽譜に忠実に、そして作曲者の御心にそうように(^^;、己の想像力を最大限に活用して作品をもう一度クリアに再構築」することであったはずです。昨今の楽譜に忠実なだけの演奏がつまらないのは、作品を再構築する演奏者の「想像力」が欠落しているからです。
その様にとらえれば、バックハウスとギーゼキングの違いは両者のベートーベンに対する「想像力」の違いだということになります。そして、その様な様々な想像力を許容するところに作品の偉大さがあるのだということにも気づかされます。
ベートーベンのスタンダードとしてのバックハウスもいいのですが、時にはギーゼキングの「かろみ」の世界に遊んでみるものいいのではないでしょうか。
<追記>
8番「悲愴」・14番「月光」という有名どころがとりわけ音質が冴えないようです。ちょっと残念です。
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