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シェルヘン(Hermann Scherchen)|リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」, Op.35
リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」, Op.35
ヘルマン・シェルヘン指揮:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 (Vn)ルドルフ・シュトレンク 1957年録音
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [1.The Sea and Sinbad's Ship]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [2.The Legend of the Kalendar Prince]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [3.The Young Prince and The Young Princess ]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [4.Festival at Baghdad. The Sea. Ship Breaks against a Cliff Surmounted by a Bronze Horseman]
管弦楽法の一つの頂点を示す作品です。

1887年からその翌年にかけて、R.コルサコフは幾つかの優れた管弦楽曲を生み出していますが、その中でももっとも有名なのがこの「シェエラザード」です。彼はこの後、ワーグナーの強い影響を受けて基本的にはオペラ作曲家として生涯を終えますから、ワーグナーの影響を受ける前の頂点を示すこれらの作品はある意味ではとても貴重です。
実際、作曲者自身も「ワーグナーの影響を受けることなく、通常のオーケストラ編成で輝かしい響きを獲得した」作品だと自賛しています。
実際、打楽器に関しては大太鼓、小太鼓、シンバル、タンバリン、タムタム等とたくさんでてきますが、ワーグナーの影響を受けて彼が用いはじめる強大な編成とは一線を画するものとなっています。
また、楽曲構成についても当初は
「サルタンは女性はすべて不誠実で不貞であると信じ、結婚した王妃 を初夜のあとで殺すことを誓っていた。しかし、シェエラザードは夜毎興味深い話をサルタンに聞かせ、そのた めサルタンは彼女の首をはねることを一夜また一夜とのばした。 彼女は千一夜にわたって生き長らえついにサルタンにその残酷な誓いをすてさせたの である。」
との解説をスコアに付けて、それぞれの楽章にも分かりやすい標題をつけていました。
しかし、後にはこの作品を交響的作品として聞いてもらうことを望むようになり、当初つけられていた標題も破棄されました。
今も各楽章には標題がつけられていることが一般的ですが、そう言う経過からも分かるように、それらの標題やそれに付属する解説は作曲者自身が付けたものではありません。
そんなわけで、とにかく原典尊重の時代ですから、こういうあやしげな(?)標題も原作者の意志にそって破棄されるのかと思いきや、私が知る限りでは全てのCDにこの標題がつけられています。それはポリシーの不徹底と言うよりは、やはり標題音楽の分かりやすさが優先されると言うことなのでしょう。
抽象的な絶対音楽として聞いても十分に面白い作品だと思いますが、アラビアン・ナイトの物語として聞けばさらに面白さ倍増です。
まあその辺は聞き手の自由で、あまりうるさいことは言わずに聞きたいように聞けばよい、と言うことなのでしょう。そんなわけで、参考のためにあやしげな標題(?)も付けておきました。参考にしたい方は参考にして下さい。
- 第1楽章 「海とシンドバットの冒険」
- 第2楽章 「カランダール王子の物語」
- 第3楽章 「若き王子と王女」
- 第4楽章 「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」
細部の細微まで注意の行き届いた演奏
今は随分とましになりましたが。シェルヘンという指揮者は誤解されることの多い人でした。その原因は、一頃の評論の風潮にあります。
いわゆる、変わった演奏を探し出してきては「とんでも盤」、通称「ト盤」と言って持て囃す風潮が広がったことがありました。そして、そう言う風潮の中で、1965年の1月から4月にかけて一気呵成にルガーノ放送管弦楽団との間で行われたベートーベン交響曲全集(ライブ録音)が取り上げられ、「猛烈なスピードと過激なデュナーミク、大胆な解釈で荒れ狂う演奏」と持て囃されたのです。
そして、シェルヘンは「爆裂型指揮者」というレッテルが貼られることになりました。
もう何度も書いてきたことなので今さら繰り返すのもどうかと思うのですが、そう言う「汚名」を雪ぐために娘さんが「Thara」というレーベルを立ち上げたのは有名な話です。
しかし、シェルヘンという指揮者のもうひとつの側面をはっきりと知らしめる演奏の一つがこの「シェヘラザード」でしょう。やる気になればいかようにも爆裂型の演奏が可能な作品だけに、まさにその真逆をいく、細部の細部までに配慮の行き届いた演奏は注目に値します。
やや遅めのテンポで作品全体を貫き、いかなる細部までもを疎かにせずに、高貴で美しいシェエラザードを描き出しています。そこには「爆裂」の欠片すら存在しません。
そして、さらに注目したいのはシェエラザードのテーマを演奏するヴァイオリン・ソロの見事さです。
録音クレジットを見ると「ルドルフ・シュトレンク」と記されています。さて、聞いたことの亡いヴァオリニストだなと思ったのですが、調べてみるとバリリ四重奏団のヴィオラ奏者でした。と言うことは、ウィーン・フィルのヴィオラの首席奏者と言うことになります。
本業はヴァイオリンではなくてヴィオラの人なんですね。
しかし、そう考えると、オーケストラは「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」となっているのですが、そのコンサート・マスターを務めているのが「ルドルフ・シュトレンク」となっています。
ウィーン・フィルはDeccsと専属契約を結んでいるので、Westminsterはがウィーン・フィルを使うときは「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」の名前を使ったと言われるのですが、「ルドルフ・シュトレンク」がコンサート・マスターをつとめるウィーン・フィルなどは考えられません。
おそらくは、歌劇場のメンバーでウィーン・フィルには未だ声のかからないメンバーなども集めたオケなのでしょうが、驚くほどに響きが美しいのでウィーン・フィルのメンバーも多く参加しているのかもしれません。もしくは、歌劇賞のオケそのもののスキルが非常に高かったことの証左かもしれません。
そして、コン・マスが「ルドルフ・シュトレンク」なので、随分と気楽に楽しく演奏できたのも大きく影響したのかもしれません。
しかし、指揮者のシェルヘンはそう言う混成軍団の手綱をしっかりと握って見事にコントロールしています。
おそらく、この演奏の方向性は、冒頭のルドルフ・シュトレンクのヴァイオリン・ソロで決定されているとも言えますから、おそらく二人の間では綿密な打ち合わせがあったのでしょう。
誰ですか、ごく一部の録音だけを取り上げて彼のことを「爆裂型指揮者」といった人は!!
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