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カザルス・トリオ(Casals trio)|メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.49
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.49
(Cell)パブロ・カザルス:(P)アルフレッド・コルトー (Vn)ジャック・ティボー 1927年6月20日~21日録音
Mendelssohn:Piano Trio No.1 in D minor, Op.49 [1.Molto allegro ed agitato]
Mendelssohn:Piano Trio No.1 in D minor, Op.49 [2.Andante con moto tranquillo]
Mendelssohn:Piano Trio No.1 in D minor, Op.49 [3.Scherzo: Leggiero e vivace]
Mendelssohn:Piano Trio No.1 in D minor, Op.49 [4.Finale: Allegro assai appassionato]
ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲
![](../Jacket_record/Pablo_Casals/Casals_trio_Mendelssohn_Piano_Trio_No1_Op9_27.jpg)
メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は一般的に2曲が知られていて、一般的に演奏される機会が多いのはこの第1番の方です。メンデルスゾーンの三重奏曲演奏家の中では「メントリ」とよばれることが多いらしいのですが(「メンコン」「ドヴォコン」「チャイコン」の類ですね^^v)、「メントリ」と言えばこの第1番の方と言うことになっています。、
この第1番は1839年9月23日に完成し、この年の秋にライプツィヒで、発見されて間もなかったシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」などと共に初演されています。そう言う意味では、メンデルスゾーンにとっても自信に溢れた作品だったのでしょう。
そして、その初演の時にはメンデルスゾーン自身がピアノを担当しています。このピアノ・パートはかなり難しくて高度な技巧を要求するのですが、それもまた演奏では自分が担当すると言うことを頭に置いていたのでしょう。
なお、この作品は一度は1840年に出版されるのですが、その後ダヴィッドの助言を受けて第4楽章を中心に修正を加えて出版されたため2つの版が存在しします、
今日一般に演奏されるのは第2版の方です。
この三重奏曲を聞いたシューマンは「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」だと評し、メンデルスゾーンを「19世紀のモーツァルト、最も輝かしい音楽家」だと称えたという話が残っています。
確かに、分かりやすく美しい旋律が次から次へと出てくるのですから、親しみやすさ、分かりやすさは抜群です。
しかし、そう言う側面が後世のメンデルスゾーンへのマイナス評価に繋がる一つの要因になったことも事実です。それは、彼が大富豪の息子であった事への嫉妬と、ユダヤ人であったことへの偏見と差別がその不当な評価を増幅させました。
その最右翼がワーグナーであり、ニーチェもまた「メンデルスゾーンはドイツ音楽における『愛すべき間奏』、つまりベートーヴェンとワーグナーの幕間であるという」と酷評しています。
こういう言動を聞くと、20世紀におけるナチスの台頭とユダヤへの迫害はすでに19世において胚胎されていたことに気づかざるを得ません。
第1楽章冒頭からチェロが美しい旋律を情感豊かに歌い出すので、聞き手にしてみれば一気にハートをつかまれます。そして、それをヴァイオリンが引き継ぎ、そこにピアノが絡んできて情熱が高まっていきます。メンデルスゾーンらしい美しさに溢れたこの楽章はメンデルスゾーンの美質が遺憾なく発揮されています。
続く第2楽章は一転して静けさと幸福感に満ちあふれています。それは、どこか彼の「無言歌」の世界を思わせる音楽の様です。そして、それに続くスケルツォ楽章は彼の代表作である「夏の夜の夢」の妖精たちが飛びかう世界を彷彿とさせます。
そして、締めくくりのアレグロには「アパショナート」と記しているように、メンデルスゾーンの内面でたぎっている情熱がどれほどのものであったかを示しています。
「メンデルスゾーン――知られざる生涯と作品の秘密」の作者であるレミ・ジャコブはこの作品に対して次のように述べています。
シューマンやブラームスでさえほとんど凌駕していない、この作品の代表作品として、おおらかで情熱的でロマンチックなこの曲は、メンデルスゾーンの天才の側面すべてを改めて明らかにしている。
一つの「奇蹟」
ユーザーの方より、カザルス・トリオの録音が一つもアップされていないようなのですが・・・と言う指摘をいただきました。
そんな馬鹿なことはないだろうと思って確認したところ、本当に一つもアップしていないことに気づきました。いやぁ、穴はあるものですが、ここまでの大穴が開いているとは我ながら感心するというか、呆れるというか、驚かされました。
と言うことで、急遽彼らの録音を探し出してきて準備を始めた次第です。取りあえずはこの「大公」以外に以下の4曲は順次アップしたいと思います。
- シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調, D.898
- メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.49
- シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調, Op.63
- ハイドン:ピアノ三重奏曲第39番 ト長調, Hob.XV:25「ジプシー」
それにしても、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言うのは、信じがたいほどの顔ぶれです。まさにそれは一つの「奇蹟」だったと言ってもいいでしょう。
このトリオが結成されたのは1905年という事ですから、最年長のカザルスで32歳、最年少のコルトーは25歳だったはずですから。まさに血気溢れる若者のトリオだったと言えます。そして、この顔ぶれはその後30年近く続いたのですから、強烈な「我」というか、「個性」というか、「我が儘」というか、そう言ういろんなものを持っている超一流のソリストたちがかくも長きにわたって活動を継続したというのもまた奇跡的なことだったと言えます。
一例を挙げれば、100万ドルトリオと言われたハイフェッツ、ルービンシュタイン、フォイアマンの組み合わせではハイフェッツとルービンシュタインの間で諍いが絶えず、チェリストのフォイアマンが必死で間に入ってなだめたと言われています。そして、フォイアマンの急死によって新しく参加したピアティゴルスキーも二人の諍いの仲裁に翻弄されたと言うことです。
しかし、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言う組み合わせが30年も続いてくれたおかげで、後年の私たちはそれなりのクオリティで彼ら演奏を「録音」という形で聞くことができたのです。そして、そのおかげでこのトリオの凄さを「伝説」としてではなく実際の「音」として経験できると言うことです。
これを「幸せ」と言わずして何といいましょう。ただし、その様な神に感謝したくなるほどの録音を20年以上も放置をしていたのですから、まさに愚かさもきわまりで、何をかいわんやです。
ただし、彼らの録音については多くの人が語り尽くしていますから、今さら何も付け加える必要はないのですが、あらためて彼らの録音を聞き直してみて一つだけ気づいたことがありますのでその事だけを記しておきます。
それは、この組み合わせは年長者のカザルスに敬意を表してなのか「カザルス・トリオ」とよばれるます。そのために、音楽の主導権もまたカザルスにあるように語っている人は少なくありません。
しかし、彼らの録音をあらためて聞き直してみて、私が魅力を感じたのはカザルスではなくて、コルトーの歌心溢れたピアノと、それに対して素晴らしい閃きで絡んでくるティボーの方です。
カザルスはそう言う二人を裏方としてドッシリと支えているというのが私の率直な感想です。そして、この音楽的雰囲気が、つまりはリーダー格のカザルスがコルトーとティボーの自由闊達な演奏をニコニコと眺めながら、音楽面では裏方にまわってそんな二人を支えると言うスタイルこそが、このコンビが長く続いた理由だと確信したのです。とりわけ、コルトーの歌心ふれるピアノが強く心に残ります。もっとも、シューマンのようにヴァイオリンに比重がかかっている場合ではティボーが最高のパフォーマンスを披露してくれています。
おそらく、ナチスの台頭と、それに対するコルトーの融和的な姿勢がなければ、さらに長くこのコンビは活動を続けたはずです。
そう考えれば、ここにも思わぬ戦争の影が差していたと言うことがいえるのかもしれません。
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