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シューリヒト(Carl Schuricht)|ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調, Op.67「運命」
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調, Op.67「運命」
カール・シューリヒト指揮:パリ音楽院管弦楽団 1949年6月13日録音
Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [1.Allegro Con Brio]
Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [2.Andante Con Moto]
Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [3.Allegro]
Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [4.Allegro]
極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。
交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。
この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803~4年にかけて創作されています。)
しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。
そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。
その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。
それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)
それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。
ここには「力強さ」がある
シューリヒトのベートーベンと言えば真っ先に1950年代の後半にパリ音楽院管弦楽団と全曲録音したものを思い出します。あの演奏に関しては私は次のように書いていたようです(^^;。
これは、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュのベートーベン演奏からは対極にある演奏であることはすぐに分かりますが、かといってトスカニーニやセルのベートーベンと同族かと言われるとそれも少し違います。
そこで気づいたのが、もしかしたらこれと一番対極にあるのは晩年のカラヤンかもしれないということです。そう、あの「カラヤン美学」から最も遠い位置にある演奏がこのシューリヒトではないかと思い至ったのです。
カラヤンの特長はめいっぱいに「音価」を長くとって、それを徹底的に磨き抜くことです。たとえば、晩年に録音したシベリウスの交響曲第2番の第4楽章などは、別の音楽に聞こえるほどに音価を長くとって、まるでハリウッドの映画音楽みたいになっています。
それに対して、ここでのシューリヒトは限界までに音価を短く切り詰めています。
たとえば、エロイカの冒頭などは切り詰めを通り越して切り上げてるようにすら聞こえます。結果として、聞こえてくる音楽はとても「軽く」なります。当然のことながら、人の官能に訴えかける魅力は非常に乏しくなります。
しかし、そう言う俗耳に入りやすい「分かりやすさ」を犠牲にしてシューリヒトが獲得しようとしたのは明晰でクリアなベートーベン像だったことは明らかです。
ただし、そのベートーベンはトスカニーニやセルのような甲冑を身にまとったベートーベンではなくて、「透明感のある響き、まるでステンドグラスのようなベートーヴェン」です。
確かに、フルトヴェングラーのように、最後の着地点を見定めておいて、全ての部分をそこを目指して築き上げるドラマの素材にしてしまうような音楽とは真逆です。
そして、カラヤン美学とは全く遠い地点にあることは言うまでもありません。
もちろん、こんな風に書いたからと言ってフルトヴェングラーやカラヤンを否定しているわけではありません。つまりは、ベートーベンの音楽というのはどの様なトライをするにしても「全力投入」を求めますが、アプローチの仕方の多様性は許容すると言うことです。
そして、この40年代から50年代初頭に録音した一連のベートーベンにおいてもその様なシューリヒトの基本は変わっていません。
しかし、50年代後半の全曲録音と較べると、明らかにここには「力強さ」があります。
しかし、その力強さによって音と音の絡み合いの妙が一切犠牲にはなっていません。結果として、この上もなく見通しの良いベートーベンであることにはかわりはないのです。オーケストラを絶妙のバランスでコントロールしながら、それを前へ前へと推進していくシューリヒトの姿が目に浮かぶようです。
おそらく、50年代後半の全曲録音では、オーケストラを統率する手腕が次第に弱くなっていたのかもしれません。
しかし、この時期のシューリヒトはまさに全盛期だったようで、もはやこれを「ステンドグラスのようなベートーヴェン」と言うことは出来ないでしょう。
それならば、トスカニーニ流のベートーベンなのかと言えばそれもどこか異なります。同時期に録音されたトスカニーニのNBC交響楽団の全曲録音と較べてみれば音楽にしなやかさがあります。
そして、もう一つ気づいたのは、そう言う全体の構成や内部の見通しの良さを大切にしながら、その中におさえがたい熱情が封じ込まれていることがより明確になっているのです。
その意味では、どこかセルのベートーベンと似通った部分があるのかもしれません。
ただし、我が儘なウィーンフィルと蜜月を築く事が出来た指揮者でしたから、オケに対する姿勢は真逆だったことでしょう。
第1番と第2番ではウィーンフィルの持つ魅力も堪能できます。
それから、1949年にパリ音楽院管弦楽団と録音した第5番もまた後年の録音と較べれば圧倒的な迫力に溢れています。
これもまた、見落とししまってはあまりにも勿体ない録音です。
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