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ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調

ズービン・メータ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年5月録音



Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [1.Feierlich, misterioso]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [2.Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [3.Adagio. Langsam, feierlich]


ブルックナーの絶筆となった作品です

しかし、「白鳥の歌」などという感傷的な表現を寄せ付けないような堂々たる作品となっています。ご存じのようにこの作品は第4楽章が完成されなかったので「未完成」の範疇にはいります。
もし最終楽章が完成されていたならば前作の第8番をしのぐ大作となったことは間違いがありません。

実は未完で終わった最終楽章は膨大な量のスケッチが残されています。専門家によると、それらを再構成すればコーダの直前までは十分に復元ができるそうです。
こういう補筆は多くの未完の作品で試みられていますが、どうもこのブルックナーの9番だけはうまくいかないようです。今日まで何種類かのチャレンジがあったのですが、前半の3楽章を支えきるにはどれもこれもあまりにもお粗末だったようで、今日では演奏される機会もほとんどないようです。

それは補筆にあたった人間が「無能」だったのではなく、逆にブルックナーの偉大さ特殊性を浮き彫りにする結果となったようです。

ブルックナー自身は最終楽章が未完に終わったときは「テ・デウム」を代用するように言い残したと言われています。その言葉に従って、前半の3楽章に続いて「テ・デウム」を演奏することはたまにあるようですが、これも聞いてみれば分かるように、性格的に調性的にもうまくつながるとは言えません。

かといって、一部で言われるように「この作品は第3楽章までで十分に完成している」と言う意見にも同意しかねます。
ブルックナー自身は明らかにこの作品を4楽章構成の交響曲として構想し創作をしたわけですから、3楽章までで完成しているというのは明らかに無理があります。

天国的と言われる第3楽章の集結部分を受けてどのようなフィナーレが本当は鳴り響いたのでしょうか?永遠にそれは聞くことのできない音楽だけに、無念は募ります。


初期のロマン派風のブルックナー?

メータのブルックナーか・・・、という声が聞こえきそうですが、この録音が行われた当時は「期待の若手」でした。この音源となった中古レコードのライナーノートには「今もっとも期待されている若手」として紹介されていて、それを裏付けるために、彼のコンサートを聞いたヨーゼフ・クリップスが「フランスのトスカニーニだ!」と絶賛したというエピソードが紹介されています。
さらにご丁寧に、そのクリップスの評価がほめすぎでないことは、その後の彼の活躍がはっきりと示していますとだめ押しをしています。

まあ、レコード会社にしてみれば売れてなんぼのものですから、解説を任された評論家もまた「忖度」すると言うことでしょう。もしも、今の時代にメータとトスカニーニを重ね合わせる人がいれば、正気を疑われるでしょう。
それにしても、クリップスというのは、彼を貶めるようなゴシップネタに翻弄された人だったんだなと同情を禁じ得ません。彼がウィーンフィルを先頭に各地で受けた酷い扱いを考えると、「フランスのトスカニーニだ!」と絶賛したというエピソードもどこまで真実なのか疑ってしまいます。
しかし、そう書きながらも、この録音にはある種の面白味があることも否定できません。
一般的にブルックナーと言えば宇野功芳氏の影響が大きくて、その音楽は宇宙が鳴動するような神秘的な音楽として受容されてきました。しかし、広く見渡せば、ブルックナーなんていっても所詮は後期ロマン派の交響曲でしょうと開き直って演奏する人も少なくありません。クラウス・テンシュテットなどはその典型で、そののたうち回るような音楽は、それはそれで面白いものでした。

ただ、話が少しばかり横道にそれますが、あの宇野功芳氏も亡くなってしまうと、主観性に満ちた白黒はっきりした物言いが懐かしくなります。
とりわけ、クラシック音楽のCDなんて全く売れなくなった今の時代は、何を誉めているのかも分からないような、「ありきたりの形容詞の連なりでしかない文章」ばかりです。
そうなると、好きか嫌いか、賛同するか否定するかはあっても、宇野氏の判断明瞭な物言いが妙に懐かしくなったりするのです。

そして、おそらく、宇野氏がこのメータの録音を聞けば一刀のもとに切り捨てたでしょう。いや、もしかしたら、取り上げる気もしなかったのではないでしょうか。
何故ならば、この演奏のどこを探しても宇宙が鳴動するような、いわんや第9番というブルックナーの遺言の様な作品が持っている神秘性などと言うものは欠片もなく、さらに言えば後期ロマン派と割り切ったような重さもないからです。
<追記>
その後調べてみれば、「メータのブルックナーなど聴くほうがわるい、知らなかったとは言ってほしくない」「あの顔を見れば、およそどのような指揮をする人であるかは一目瞭然」等と酷評していました。まあ、取り上げてくれただけましというものでしょうか。
<対着終わり>

一言で言えば、とんでもなく「軽い」ブルックナーです。
しかし、内部の見通しがよく、実にによく歌うブルックナーでもあります。そして、それをウィーン・フィルの美音を使って徹底的に磨き込んでいます。
歌えるところを見つけ出せば、その全てを存分に美しく歌わせるブルックナーであり、それを、ある意味ではではブルックナー作品の中でも特別な意味を持つ9番という作品に適用した「恐いもの知らず」が凄いのです。

そして、こういう響きの交響曲ってどこかにあったよなと考えをめぐらせて思い当たったのがメンデルスゾーンでした。明るくて軽やかで、そしてスッキリとした歌心溢れる初期のロマン派の雰囲気がここには漂っているのです。
そう言えば、その昔、クレンペラー指揮の「スコットランド(メンデスゾーンの3番)」のコーダを聞いたときに、そこにブルックナーに繋がっていくものを感じたのですが、それを素直にメーリングリスト(懐かしいですね^^;)に投稿すると「ブルックナーとメンデルスゾーンを同一視するなんて、どんな素晴らしい耳を持っているのでしょう」などと嫌みたっぷりの批判を浴びたものでした。

しかし、メータのこういう録音を聞かされると、そう言う見方があってもいいよねと彼を庇いたくなります。まさに初期ロマン派風のブルックナーです。
とは言え、一番最初に聞く録音としてはさすがに相応しいとは言えないでしょう。しかし、散々にブルックナーを聞いてきた人にこそ、是非とも一度は聞いてみてほしいものです。
もちろん、途中で怒り爆発するかもしれませんが、その時はご容赦あれ。

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