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メンデルスゾーン: 交響曲第2番 変ロ長調, Op.52 「讃歌」(1)~Sinfonia

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 (S)ヘレン・ドーナト,ロートラウト・ハンスマン (T)ワルデマール・クメント ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 ニュー・フィルハーモニア合唱団 1967年6月録音



Mendelssohn:Symphony No. 2 in B-Flat Major, Op.52 "Lobgesang" [1.Sinfonia:Maestoso con moto-Allegro-Allegretto un poco agitato-Adagio religioso]


自然と宇宙の調和

この作品は一応は「交響曲第2番」とよばれているのですが、聞いてもらえば分かるように通常の交響曲とは随分と佇まいが異なります。もっとも、この先例としてベートーベンの交響曲第9番が存在しているのですが、それにしても後半の声楽を含む部分が巨大にすぎます。
メンデルスゾーンは「聖パウロ」や「エリヤ」というオラトリオを残しているのですが、この作品は交響曲とオラトリオを結合したような作品と言うべきでしょう。
ですから、「交響曲カンタータ」等とよばれることもあるようです。

1840年6月のグーテンベルク聖書400年記念祭のためにライプツィヒ市からの委嘱を受けてこの作品は作曲されました。
作品は前半部分の「シンフォニア」と後半部分の「オラトリオ」的な部分に分かれます。前半の「シンフォニア」は切れ目なく演奏されますが、明らかに交響曲の3楽章部分に相当します。ですから、第4楽章に合唱を取り入れたベートーベンの第九的な作品と見てもいいのでしょうが、それでもやはり、後半部分はオラトリオです。

そして、その後半部分ですが、全て旧約聖書から歌詞は選ばれています。
どこかで読んだ記憶があるのですが、当時のドイツでは「交響曲」というのはソナタ形式を持った管弦楽曲という楽曲のスタイルだけでなく、「自然と宇宙の調和」という意味も失っていないので、この「器楽と声楽、世俗的なものと宗教的なものを統合した音楽」もまた交響曲というタイトルが与えられても不思議ではなかったのです。

では、その後半の宗教的な部分ですが、「すべての息あるものよ、主をほめ讃えなさい』という言葉で始まり、その言葉で締めくくられています。そして、第6曲の「死の綱がわたしたちを取り巻いた」が後半部分の中心となるとメンデルスゾーンは書き残しています。

ちなみに歌詞は以下の通りです。

第2曲:すべてのもの、息あるものよ


すべてのもの、息あるものよ、ほめ讃えなさい、主を。
ハレルヤ、ほめ讃えなさい、主を。
(詩篇150:6)
ほめ讃えなさい、主を、弦を奏でて、
ほめ讃えなさい、あの方を、あなたたちの歌で。
(詩篇33:2)
そしてすべての肉あるものはほめ讃えなさい、その聖なる名を。
(詩篇145:21)
ほめ讃えなさい、主を、わが魂よ、
そして私の内にあるものよ、その聖なる名を。
ほめ讃えなさい、主を、わが魂よ、
そして忘れないように、あの方があなたにもたらした恵みを。

第3曲:レチタティーヴォ:語りなさい、救われたひとたち


語りなさい、救われたひとたち、主のおかげで、
あの方が苦難から解き放ったひとたち、
重苦しい苦悩から、屈辱と桎梏から、
闇に捕らえられていたひとたち、
すべての、あの方が苦難から救ったひとたち。
語りなさい!感謝しなさいあの方に、そして讃えなさい、その慈愛を!
(詩篇107)
あの方は数えます、私たちの涙を、苦難の時に、
あの方は慰めてくれます、悲しみを、その言葉で。
(詩篇56:8/119:50)

第4曲:語りなさい、救われたひとたち


語りなさい、救われたひとたち
主によって、すべての苦悩から。
あの方は数えます、私たちの涙を。
(詩篇107/56)

第5曲:私は主を待ち焦がれました


私は主を待ち焦がれました、そしてあの方は私に耳を傾け
そして私の嘆願を聞き入れてくれました。
幸いなるひとよ、その希望を主に託すひと!
幸いなるひとよ、その希望をあの方に託すひと!
(詩篇40:2/5)

第6曲:死の綱がわたしたちを取り巻いた


死の綱が私たちを取り巻いた、
そして地獄の不安が私たちを捕えた、
私たちはさまよった、暗闇の中を。
(詩篇116:3)
あの方はしかし言う:目覚めよ!眠っている者よ、
立ち上がれ、死者の中から、私があなたを明るく照らそう。
(エフェソス5:14)
私たちは呼びかけた、暗闇のなかで:
見張り人よ、夜はまもなく明けるのでしょうか?
見張り人はしかし言った:
朝がまさに来るなら、それでもなお夜があるだろう;
お前たちがまさに尋ねるなら、それでもまた来てそして再び尋ねるだろう:
見張り人よ、夜はまもなく明けるのでしょうか?
(イザヤ21:11-12)

第7曲:夜は過ぎ去った


夜は過ぎ去り、昼が代わって近づいています。
だから捨て去りましょう、暗闇の行為を、
そして身につけましょう、光の武器を、
そして握りしめましょう、光の武器を。
(ローマ13:12)

第8曲:さあ、感謝しましょう


さあ、感謝しましょう、皆で神に
心と口と手をもって、
その神はあらゆる苦難においても
恵み深く私たちの方に向いてくれるのです、
その神はかくも多くの恵みをもたらします、
幼少の頃から
私たちをその保護のもとに置き、
そしてすべてのものに慈しみを与えてきました。
称賛、誉れ、そして賛美が神にあらんことを、
父に、そして子に
そしてその聖なる精霊に
いと高き天の玉座において。
称賛が、三位一体の神に、
その神は夜と闇を隔てました
光と曙から、
あの方に感謝を、私たちの歌で。
(リンカルトによるコラール)

第9曲:それゆえ私は歌います


それゆえ私は歌います、私の歌で永遠に、あなたの称賛を、信実なる神よ!
そしてあなたに感謝します、すべての恵みに、あなたが私にもたらしてくれた。
そして私はさまよう、夜と深い闇の中を、
そして敵があちこちで私を追いかける、
そこで私は主の名を呼びかけ、
そしてあの方は私を救い出すのです、その慈愛によって。
(詩篇138?)

第10曲:あなたたち諸々の民よ


あなたたち諸々の民よ!来たらせなさい、主に誉れと力を!
あなたたち諸々の王よ!来たらせなさい、主に誉れと力を!
天空よ、来たらせなさい、主に誉れと力を!
大地よ、来たらせなさい、主に誉れと力を!
(詩篇96)
すべてのものは感謝しなさい、主に!
感謝しなさい、主に、そして讃えなさい、その名を
und preiset seine Herrlichkeit! (歴代誌上16)
すべてのもの、息あるものよ、ほめ讃えなさい、主を、
ハレルヤ、ほめ讃えなさい、主を!
(詩篇150:6)


まさにプロの仕事

サヴァリッシュのメンデルスゾーンと言えば、1967年にニュー・フィルハーモニア管弦楽団と録音した「全集」を想起するのが普通でしょう。
ところが、このメンデルゾーンの各曲の初出年がなかなか確定できませんでした。

しかし、漸くにして1966年に録音された4番と5番が1966年にリリースされ、1967年に録音された3番も1967年にリリースされていることが確認できました。
しかし、3番と同じく1967年6月にまとめて録音された1番と2番の初出年がどうしても分かりません。
日本国内では1968年に全集としてリリースされていることは分かったので、残念ながらギリギリでアウトかなと思っていました。しかし、最近になって、3番と同じく1967年にオランダで発行(Philips SC71AX404)されていることが確認できました。

つまりは、めでたくサヴァリッシュの全集はギリギリでパブリック・ドメインになっていると言うことです。
おそらく、60年代後半におけるサヴァリッシュの録音活動としてはこのメンデルスゾーンの交響曲全集は大きな位置を占めるものですから、それらがパブリック・ドメインとして紹介できるのは幸いなことです。

サヴァリッシュのメンデルスゾーンと言えば1959年にウィーン交響楽団と録音した「イタリア」があります。
このニュー・フィルハーモニア管弦楽団を使っての全集録音は、その時のアプローチとほとんど変わっていないように思われます。さらに言えば、59年録音の特徴だった美しい響きにはさらに磨きがかかっています。

ニュー・フィルハーモニア管弦楽団とは、フィルハーモニア管がウォルター・レッグによって1964年に解散させられた後に、オーケストラ団たちが自主運営組織として再スタートさせたオーケストラです。ですから、実態はフィルハーモニア管とほとんど変わらないはずです。
そして、この新しいスタートを支えたのがクレンペラーだったのですが、クレンペラーが高齢となって引退したあともリッカルド・ムーティやロリン・マゼールなどが支え続けました。そして、1977年には再びフィルハーモニア管弦楽団(The Philharmonia Orchestra)の名称を回復することになります。

そういう事情を考えてみれば、財政的にかなり厳しかったであろう1966年と67年にメンデルスゾーンの交響曲全集の録音という仕事が入ったのはありがたかったことでしょう。

おそらく、オーケストラ側にはここで底力を見せなければ先が見えてこないという思いもあり、さらにはそう言うやる気のあるオーケストラを前にして、的確なコントロールでその能力を十全に発揮させるサヴァリッシュの手腕があいまって、過去のフィルハーモニア管とはひと味違う響きの美しさ生み出しているように思われます。
ただし、その響きは力感を排した柔らかくて透明感のある響きなので、聞き手によっては迫力不足に感じるかもしれません。しかし、ともすればある種の物語性を纏いかねない音楽から一切の物語性を脱ぎ捨てて、おそらくはメンデルスゾーンですら想像しなかったほどのスタイリッシュにしてクリアな音の造形物へと仕上げていく上では、そう言う響きこそが相応しかったのでしょう。

そういえば、この頃のサヴァリッシュの指揮を「外科医のような」と評した人がいました。
さらには、毎年日本を訪れてN響を指揮をしている姿を見て、これで演奏できなければ不思議だと言わしめたほどにクリアな指揮をする人でした。
確かに、それもまたサヴァリッシュのの本質をい当てているのでしょうが、このメンデルスゾーンの録音では響きの美しさに魅せられます。

そう言えば、サヴァリッシュにとってメンデルスゾーンはお気に入りの作曲家で、彼の管弦楽作品の校訂を全て自分で行ったという話を聞いたことがあります。おそらく、5曲の交響曲のスコアはその済みの隅まで知り尽くしていたことでしょう。
そして、その徹底的なスコア・リーディングによって読み取ったものを、的確な指示でオケに伝えて、その結果として響きの美しさを生み出している事は明らかです。

そう言う美しさというのは、全て現実的な細かい作業の精緻な積み重ねの結果であって、決して「やる気」や「根性」「気合い」などによっては実現しないものです。
それは、ごく当たり前のことなのですが、そう言う当たり前のことをあらためて思い知らされたプロの仕事でした。

それから、全曲聞き通して気づいたことですが、第1番と第2番というレアな作品への共感が強いように感じました。その2曲に関しては何とも言えない勢いを感じます。その辺もまたプロならではのスタンスなのでしょうか。

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