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Home|クナッパーツブッシュ(Hans Knappertsbusch)|ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮:ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1955年3月29日~4月1日録音



Bruckner:Symphony No.4 in E-flat major, WAB 104 "Romantic" [1.Bewegt, nicht zu schnell]

Bruckner:Symphony No.4 in E-flat major, WAB 104 "Romantic" [2.Andante quasi Allegretto]

Bruckner:Symphony No.4 in E-flat major, WAB 104 "Romantic" [3.Scherzo. Bewegt; Trio. Nicht zu schnell. Keinesfalls schleppend]

Bruckner:Symphony No.4 in E-flat major, WAB 104 "Romantic" [4.Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell]


わかりやすさがなにより・・・でしょうか

短調の作品ばかり書いてきたブルックナーがはじめて作曲した長調(変ホ長調)の作品がこの第4番です。
この後、第5番(変ロ長調)、第6番(イ長調)、第7番(ホ長調)と長調の作品が続きます。

その中にあっても、この第4番は長調の作品らしい明るい響きと分かりやすい構成のためか、ブルックナー作品の中では早くから親しまれてきました。
「ロマンティック」という表題もそのような人気を後押ししてくれています。

この表題はブルックナー自身がつけたものでありません。
弟子たちが作品の解説をブルックナーに求めたときに、ブルックナー自身が語ったことをもとに彼らがつけたものだと言われています。

世間にはこのような表題にむきになって反論する人がいます。
曰く、絶対音楽である交響曲にこのような表題は有害無益、曰く、純粋な音楽の美を語るには無用の長物、などなど。

しかしながら、私はけっこう楽しんでいます。
それに、この作品の雰囲気に「ロマンティック」と言う表題はなかなか捨てたもんではありません。

それから、ブルックナーというと必ず版と稿に関わる問題がでてきます。
この4番についても1874年に作曲されてから、81年に初演されるまでに数え切れないほどの改訂を繰り返しています。

私にはその詳細を詳述する能力はないのですが、そういう詳細にこだわるブルックナーファンは多いので簡潔に記しておきます。

ブルックナーがこの作品に取りかかったのは第2番の交響曲が完成した2日後の1874年1月2日であった事は分かっています。
習作を含む過去の5作品は全て短調で書かれていたのに対して、この4番では「変ホ長調」という、長調の調性が初めて採用されています。

ブルックナーの交響曲に於いては前期とか中期というような「進化論的」な区分は意味はないと言われるのですが、それでも2番から4番にかけての飛躍は大きいように思われます。そして、そう言う大きな飛躍とも思える新しい一歩をわずか2日間という短い時間で踏み出したと言うことは、第2番の創作の過程において既にこの作品に対するイメージが固まっていたことを示しているのかもしれません。

その証拠と言うほどでもないのですが、この第4番の交響曲の創作は実にスムーズに進んだようなのです。
残された資料によると全楽章のスケッチは8月中旬に終了し、オーケストレーションを終えて作品が完成したのは11月22日の夜8時30分だと彼は記しているのです。

こうして完成されたのが「1874年稿」、もしくは「第1稿」と呼ばれるものです。

ところが、この作品は出版の見込みがないどころか初演の見通しさえもなかったのです。
それが原因かどうかは分かりませんが、1878年から全面的な改訂作業にとりかかります。

この改訂は作品全体にわたるものだったのですが、特にフィナーレと第3楽章のスケルツォには大幅な改訂が加えられ、とりわけスケルツォ楽章は「狩りのスケルツォ」とも呼ばれるようになる全く新しい音楽に生まれ変わってしまうのです。
ところが、1880年になるとブルックナーは再び気になる部分の改訂作業に取り組み始め、特にフィナーレ楽章に加えられた大幅な改訂は殆ど「改作」と言っていいほどのレベルになってしまいました。

この2回にわたる改訂を一つにまとめたものが「1878/1880年稿」」とよばれるもので、この稿に従ってハースが校訂して出版(1936年)されたのが「1878/1880年稿 ハース版」です。
こんにちでは、これが「第2稿」とか「決定稿」とか呼ばれたりします。

と言うことで、ここまででも随分と複雑なのですがブルックナー作品ならばよくある話ではあります。

ところが、アメリカでブルックナー作品を積極的に紹介していたアントン・ザイドルからの依頼によって、1886年にブルックナーはスコアを送っているのですが、そのスコアにもまた小さな改訂が加えられていたのです。
この背景にはザイドルが出版の労を執ってくれそうだという期待があったからであり、そのためにスコアを送ろうとしてもう一度目を通したときに気になる点が出てきたので手直しをしたようなのです。

まさに改訂魔です。(^^;

ただし、至急に送れと言うことだったので、その手直しは冒頭のホルンとトランペットに留まったので、過去2度の改訂とは全く性質を異にするものでした。
そして、このザイドルに送られたスコアが発見されたのは1940年代に入ってからのことだったので、1936年に出版された「1878/1880年稿 ハース版」には反映されていません。

この改訂を出版譜で始めて反映させたのがノヴァークなのですが、彼はこの改訂は作品全体から見て本質的なものではないと言うことで「1878/1880/1886年稿」とはせずに「1878/1880年稿」と記したのです。
しかし、「1878/1880年稿 ノヴァーク版」には1886年の小改訂は反映していますが、「1878/1880年稿 ハース版」にはその改訂は反映していません。ですから、その相違を分かりやすくするために「1886年稿ノヴァーク版」 と記されることも多いようです。


ウィーンフィルの素朴で美しい響きが堪能できる

クナッパーツブッシュとウィーンフィルは1955年3月29日から4月1日にかけてムジークフェラインザールで以下の2曲をセッション録音しています。レーベルは言うまでもなくDeccaです。
残念なのは、1955年と言えばすでにDeccaはステレオ録音を開始していた時期なのですがモノラルでしか録音されていなかったことです。
収録されたのは以下の2曲です。

  1. ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」(1888,Loewe edition)

  2. ワーグナー:ジークフリート牧歌


この組み合わせによるブルックナーのセッション録音は前年の3番「ワーグナー」に続くもので、それはこの翌年の第5番の録音へと引き継がれています。
ブルックナーの交響曲への認知度はい今とは比べものにならないほどに低かった時代に、この組み合わせで積極的に録音を行ったDecca(おそらくはビクトール・オロフ )の先見性には感謝せざるを得ません。
60年代にブルックナーを録音したいと申し出たクレンペラーに、「そんな物が売れると思うのか」といって拒否したEMIのレッグとは随分とスタンスが異なります。

しかしながら、カルショーとは対照的にオロフはステレオ録音に関しては無関心だったので、この55年録音がモノラルでしか録音されなかったのは仕方のないことかも知れません。

このクナパーツブッシュの「ロマンティック」は彼のブルックナー演奏の中ではそれほど重要視されない録音なのですが、それは、おそらくはあまりにも真っ当な演奏であることがその原因かもしれません。とりわけ、この国では彼の演奏には何か奇矯なものを求めたがる傾向があるので、そう言う期待を持ってこの録音を聞いてみると見事に肩すかしを食らわされてしまうのです。

クナパーツブッシュがご多分にもれず、この録音でも「レーヴェ改訂版」を使っているのは仕方のない事です。
しかし、分かりづらい師匠の音楽を出来る限り多くの人に理解してもらえるように涙ぐましい努力をしたのがレーヴェでした。そんなレーヴェの願いに応えるかのように、この上もなく自然に、そして分かりやすく聞きやすい音楽に仕上げているクナパーツブッシュの演奏を聞いていると、彼の改訂版の使用は確信犯ではなかったのかと思ってしまいます。

ですから、ここでは「異形のクナパーツブッシュ」を求めてはいけません。

しかし、そのかわりとして、この時代にこの組み合わせでなければ聞けなかった、の未だ田舎オケだった時代のウィーンフィルの素朴で美しい響きが堪能できます。そして不思議なことに、この組み合わせ以外では、何故かこの素朴な田舎オケの響きは出てこないのです。
おそらく、余り五月蠅いことも言わず、リハーサルも適当に済ませて、後はオケの自発性を優先しながらも全体のコントロールは絶対に誤らないという姿勢がこの響きをもたらしているのでしょう。
当然の事ながら、その背景には本番では絶対に振り間違えないという己の高い指揮技術への自負があります。

それから、このセッション録音の中でおそらくは時間が余ったのでしょう。
最終日にワーグナーの「ジークフリート牧歌」も録音されています。

カルショーの著書を読んでいると、セッション録音はある一定の時間を拘束して行うものなので、予定よりも早く録音が仕上がってしまうと、その余った時間で別の作品を録音することがよくあったようです。
そして、オロフは本音ではワーグナーがあまり好きではなかったようですから、この選曲はクナパーツブッシュとウィーンフィルの合意の元で選ばれたのかもしれません。

クナパーツブッシュの「ジークフリート牧歌」と言えば1962年のミュンヘンフィルとの録音が一般的です。しかし、クナパーツブッシュとウィーンフィルとの組み合わせならではの優しさと安らぎに満ちた響きはまた異なった魅力があります。
他の指揮者と較べれば、じっくりと腰を落ち着けたテンポで演奏しているのは同じなのですが、その遅いテンポは作品の誇大化としてではなく、落ち着きにつつまれた慈愛のようなものを描き出すことに貢献しています。

当然の事ながら、昨今のブルックナーやワーグナーの演奏から見れば古色蒼然たる演奏なのでしょうが、たまにはその様な古き良き時代の響きに身を浸してみるのもいいのではないでしょうか。
それから言うまでもないことですが、モノラル録音とは言ってもこの時代のDeccaによる正規録音ですから、音質的には何の不満もありません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



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