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モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364

ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 (Vn)ラファエル・ドルイアン (Va)エイブラハム・スカーニック 1963年12月28日録音



Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [1.Allegro maestoso]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [2.Andante]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [3.Presto]


痛切なる青春の音楽

私が初めてウィーンとザルツブルグを訪れたのは1992年のことで、ちょうどその前の年はモーツァルトの没後200年という事で大変な盛り上がりをみせた後でした。とはいっても、未だに町のあちこちにその「余熱」のようなものがくすぶっているようで、いまさらながらモーツァルトいう存在の大きさを実感させられました。

さて、その没後200年の行事の中で、非常に印象に残っているシーンがあります。それは、ヨーロッパで制作されたモーツァルトの伝記ドラマだったと思うのですが、若きモーツァルトが失意の底で野良犬のように夜のウィーンをさまよい歩くシーンです。そこにかぶさるように流れてきた協奏交響曲の第2楽章の冒頭のメロディがこのシーンに見事なまでにマッチングしていました。
ドラマのBGMというのは安直に選択されることが多くて邪魔にしかならないことも多いのですが、その時ばかりは若きモーツァルトの痛切なまでの悲しみを見事に表現していて深く心に刻み込まれたシーンでした。

ところが、この冒頭のメロディは一度聞けば絶対に忘れないほどに魅力的なメロディなのに、そのメロディは楽章の冒頭に姿を現すだけで、その後は二度と姿を見せないことに恥ずかしながら最近になって気がつきました。
似たような形に変形されては何度も姿を現すのですが、あのメロディは完全な形では二度と姿を現さないのです。
もったいないといえばこれほどもったいない話はありません。しかし、その「奥ゆかしさ」というか「もどかしさ」がこの作品にいいようのない陰影をあたえているようです。

冒頭の部分で愛しき人の面影をしっかりと刻み込んでおいて、あとはその面影を求めて聞き手をさまよい歩かせるような風情です。
そして、時々その面影に似た人を見かけるのですが、それは似てはいてもいつも別人なのです。そして、音楽はその面影に二度と巡り会えないままに終わりを迎えます。

いかにモーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切にえがききった作品はそうあるものではありません。


透明感あふれるロマン性が刻み込まれている

セル&クリーブランド管による「協奏交響曲 K.364」がアップされていないのではないでしょうかという指摘をいただきました。
いやいや、そんな事って絶対にあり得ないでしょう(^^vと思いながらも、念のために確認してみると、なんとアップしていない・・・ようなのです。そんな馬鹿なと思って何度も確認したのですが、やはり何処を探しても見つかりません。
人間、思いこみというものは恐ろしいものです。

と言うことで、また忘れてしまわないうちにアップしておきます。
何しろ、数あるセルの録音の中でも、この作品の第2楽章ほど大好きな音楽はないのですから、ほんとに信じがたいほどのアホさ加減です。

私にとってこの作品はモーツァルトの中でも特別なポジションを占めていました。
何故ならば、モーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切に描ききった作品はないからです。

そして、そう言う痛いまでの切なさがこのセルとクリーブランド管による演奏から伝わってくるのです。おそらくこの作品の第2楽章ほどに、セルの透明感あふれるロマン性が刻み込まれた演奏はないでしょう。
そして、このアンダンテ楽章をこれほど美しく演奏してみせた指揮者は他にはいませんし、さらに言えば、そう言うセルの意図に応えて、これほどまでに見事に素材の味わいを損なうことなしに演奏してみせたオーケストラもありませんでした。

若い頃は、この楽章を聞くたびにため息をついては針をあげ、再びこの楽章の始まりの部分に針を落としたものです。

それにしても、セルのことを機械的で冷たいとか、素っ気なくて味わいにかけるモーツァルトなどと言った奴は地獄に堕ちるべきです。
しかし、考えようによっては、そう言う「レッテル」というものは「業績の一端をかすめて思いついたことだけですべてを断定する」というやり方で「評論」という仕事が成り立っていた時代の「遺物」です。

そして、この録音はそのような「いかがわしさ」を見事なまでに照らし出してくれるのですから、痛快といえば痛快です。
おかげで、今ではセルのことをその様に言う人などは今ではほぼ絶滅しました。
そして、そう言うかけがえのない録音を今までアップしたつもりで、実はアップしていなかったという自分のアホさ加減にあらためて苦笑いをしてしまいます。

なお、独奏をつとめる二人の奏者ですが、ともにクリーブランド管のメンバーです。
ヴァイオリンのラファエル・ドルイアンはクリーブランド管のコンサート・マスターです。
彼はドラティがダラス交響楽団の指揮者だったときにコンサート・マスターを務めていた人で、ドラティが49年にミネアポリスに移ると彼もまたミネアポリスのコンサート・マスターに招かれます。そして、60年にドラティがミネアポリスを去ると、今度はセルに招かれてクリーブランド管のコンサート・マスターに就任しました。
この経歴を聞いただけで、ソリストではないもののただ者でないことは分かっていただけるでしょう。

ヴィオラのエイブラハム・スカーニックは1949年にクリーヴランド管弦楽団の首席ヴィオラ奏者を務め、1976年に退任するまでオケの内声部を支え続けたと言っていいでしょうか。
おそらく、こういう凄腕がゴロゴロしていたのがこの黄金時代のクリーブランド管だったのです。

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2020-10-04:笑枝





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