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モーツァルト:モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」 K.165 (158a)

ジョージ・セル指揮 (S)ジュディス・ラスキン クリーヴランド管弦楽団 1964年5月11日録音



Mozart:Exsultate jubilate in F major, K.165/158a [1.Allegro. Exsultate, jubilate Recitative: Fulget amica dies]

Mozart:Exsultate jubilate in F major, K.165/158a [2.Tu virginum corona]

Mozart:Exsultate jubilate in F major, K.165/158a [3.Alleluja. Allegro]


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イタリア的な無頓着さのなかに身を投じても、ザルツブルグを忘れ去りはしなかった事を証明している

モーツァルトは1772年の10月、彼が16才の時に父とともに3回目のイタリア旅行を行います。目的はミラノで謝肉祭用のオペラを作曲し、そのオペラの演奏を指導する為でした。
それは前回のミラノ訪問の時にかわされた契約によるものでした。

父レオポルドがザルツブルグの宮廷から冷ややかな視線を浴びながらも演奏旅行を重ねたのは、息子モーツァルトにオペラを作曲し、それが演奏される機会をつかむためでした。ですから、ミラノでモーツァルトのオペラを演奏する機会を得ただけでなく、次回の予約まで獲得できた2回目の演奏旅行はレオポルドにとっては大成功と言えるものでした。

さらに、モーツァルトはこの3回目のイタリア旅行の直前に新しく大司教に就任したコロレド伯ヒエロニュムスによって宮廷楽士長に任命されています。
宮廷楽士長と言えばコンサート・マスターのような地位ですから、楽長、副楽長に次ぐナンバー3のポジションです。

まさに、この3回目のイタリア旅行はレオポルドにとっては、「神童モーツァルト」を売り出すことから始まった己のプロジェクトが一つの大きな結果をもたらそうとする高揚感に溢れた時期だったと言えます。
モーツァルトもまた11月初旬にミラノに到着するとすぐにオペラの作曲に取りかかり、12月には姉のナンネルあてに「もう14曲作らなければなりません。 それで出来上りです。 ぼくはオペラのことばっかり考えているので、姉さんに言葉を書かずにアーリアをそっくり書いてしまいそうになるくらいです。」と書き送るほどに気分が高揚していたようです。

そして、そのオペラでは当時の人気歌手だったアンナ・デ・アミーチスが起用されることが決まっていたので、モーツァルトもまた全力を挙げて作品に取り組んだようです。
しかしながら、この「ルチオ・シラ」の初演はミラノの大公が大幅に遅刻して開演が3時間以上も遅れるという外面的な事情もあって成功とは言い難い結果となりました。

ちなみに、アインシュタインは明確に「全体としてこの作品はきわめて不手際であり、ムラが多い」と述べています。つまりは、その思わしくない結果は作品そのものにもあったのです。
そして、このオペラはミラノでは20回程度は再演されながらも、それ以外の地域では演奏されることはなく、さらに言えば、モーツァルトにイタリアからオペラの依頼が舞い込むことは二度となかったのです。

レオポルドにしてみればこれは彼にとっても初めての躓きの石であり、それがこの後のパリ旅行の失敗とコロレド伯との確執へと転がり落ちていく複線となったのかも知れません。

しかしながら、この3回目のイタリア旅行は後世の人々に素晴らしい贈り物を残してくれました。
それが、この成功とは言い難かった「ルチオ・シラ」に出演したカストラートのラウツィーニのためにモテット「エクスルターテ・ユビラーテ」を作曲したことです。

ラウツィーニはマンハイムの宮廷劇場第一歌手だったのですが、「ルチオ・シラ」初演のためにミラノに招かれていたのです。
そして、彼がいかに優れた歌手であったかはこの作品を聞けば誰しもが納得するはずです。
このモテットは今もなお、やる気に満ちたソプラノにとっては挑戦のしがいのある難曲であるからです。

それはもう、声によるコンチェルトです。
ですから、アインシュタインもまた「中間楽章を導入する短いレチタティーヴォがなければ、この曲はアレグロ、アンダンテ、プレストあるいはヴィヴァーチェの3部を持つミニアトゥール・コンチェルトと異なるところはない。 光輝や「優美さ」において、真の器楽コンチェルトにほとんど劣らない。」と述べているのです。

それは別の面から見れば、「イタリア的な光輝や無頓着さのなかに身を投じても、ザルツブルグを忘れ去りはしなかった」事を証明しているのです。
何故ならば、ザルツブルグの教会音楽がもつ壮麗さはシンフォニー的に着想され、そのシンフォニー的なものはコンチェルト的なものが混ぜ合わされているからです。

1.Aria

Exsultate, jubilate
o vos' animae beatae,
dulcia cantica canendo,
cantui vestro respondendo,
psallant aethera cum me.

歌え、歓べ、
おお、汝ら祝福された魂よ、
甘き歌を歌いつつ。
汝らの歌に応え、
天もわれに和して歌う。

2.Recitativo ed Aria

Recitativo

Fulget amica dies,
jam fugere et nubila et procellae;
exortus est justis inexspectata quies.

幸先よく陽は輝き、
はや雲も嵐もおさまりぬ。
まさに予期せずして、平安が訪れたり。

Aria

Undique obscura regnabat nox,
surgite tandem laeti,
qui timuistis adhuc,
et jucundi aurorae fortunatae
frondes dextera plena et lilia date.

暗き夜にあまねく支配されし折、
今こそ起きよ、喜びに充てる人々よ、
汝らこれまで恐れおののきしが、
幸せなる晩に歓びの声をあげ、
右手で緑したたる葉と百合の花を捧げよ。

Ti virginum corona,
tu nobis pacemdona,
tu consolare affectus
unde suspirat cor.

純潔の王冠たる汝よ、
われらに平安を与えたまえ。
いずこにか嘆き悲しむ心あれば
汝こそそれを慰めるべし。

3.Finale

Alleluya.

アレルヤ


ソプラノの名人芸を発揮する作品なのですが主導権は完全にセルが握っています

「ジュディス・ラスキン」は今ではセルとのコンビで録音したこのモテットとマーラーの交響曲第4番くらいでしか人々の記憶には残っていないでしょう。
悪い歌手ではないのですが、ドラマティックに歌い上げて聞く人の心を揺さぶるというタイプでもなければ、素晴らしい美声で聞く日の耳を楽しませるというタイプでもなかったようです。

ただし、とても折り目正しく明晰に歌い上げる歌手であったことは間違いないようです。

セルという人は、指揮者の言うことを聞かないで自分勝手に暴走する人とは絶対にコンビを組みませんでした。とりわけピアニストに対する選り好みは厳しくて、本当に限られたピアニストとしかスタジオ録音は行っていません。
ただし、一度気に入ってもらえると集中的に使ってもらえるという功徳はありました。

ただし、カサドシュみたいに「何でピアニストがお前なんだ!」と後年になって言われてしまうと言う不幸もないではなかったのですが・・・。
そして、それと同じ事が、このような器楽を伴う声楽曲でも貫かれていたようで、そのお眼鏡にかなった一人が「ジュディス・ラスキン」だったと言うことなのでしょう。

この作品は、もともとはソプラノの名人芸を発揮するものなのですが、ここでは主導権は完全にセルが握っています。
ラスキンはセルが指示したように、クリーブランド管とのバランスを完璧に保持しながら明晰に、そして折り目正しく歌っています。

しかし、その歌をサポートするオーケストラの何という精緻にして美しいこと!!
ラスキンにしてみれば不自由極まりないものであったことは事実でしょうが、その見返りとしてここまでの素晴らしいサポートが得られるのならばその苦労も報われようというものです。

おそらく、この録音でこの作品を一番最初に聞いてしまえば、後はどのような録音を聞いてもどこかがさつな雰囲気を感じとってしまうはずです。
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