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ブルックナー:テ・デウム ハ長調 ,WAB 45

ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック (S)フランセス・イーンド (A)マーサ・リプトン (T)デイヴィッド・ロイド (Bs)マック・ハーレル ウェストミンスター合唱団 1953年3月7日録音



Bruckner:The Te Deum in C major, WAB 45 [1.Te Deum]

Bruckner:The Te Deum in C major, WAB 45 [2.Te Ergo]

Bruckner:The Te Deum in C major, WAB 45 [3.Aeterna Fac]

Bruckner:The Te Deum in C major, WAB 45 [4.Salvum Fac]

Bruckner:The Te Deum in C major, WAB 45 [5.In Te, Domine, Speravi]


ブルックナー存命中の一番の成功作だったとも言える壮麗な教会音楽

今日では、ブルックナーと言えば習作と未完成作品も含めれば11曲の交響曲を残したシンフォニー作家というのが一般的な認識でしょう。
ブルックナーの交響曲と言えば真っ先に思い浮かべるのが吉田秀和氏の率直な述懐です。

彼が始めてヨーロッパに出かけて第7番の交響曲を聞いたとき、あまりにも単調なリズムが繰り返されるスケルツォ楽章の途中で居眠りをしてしまったのですが、再び目を覚ましたときも同じリズムが繰り返されていたので恐れ入ってしまったという話です。そして、その事をドイツの友人に話すと、彼は「日本人にはまだブルックナーは無理だ」みたいなこと言われたというのです。
まあ、隔世の感ではあるのですが、そんなブルックナーを日本に紹介した立役者である朝比奈にしても、ブルックナーの交響曲なんてものは訳が分からないと言っていましたし、彼の強みはそう言う訳の分からないものを何も考えずに訳が分からないまま放り出せる図太さにあったことです。

しかし、ブルックナーの交響曲が訳が分からないと思うのは日本人だけでなく、当時のヨーロッパの人にとっても馴染みにくい音楽ではなかったのかと思わせられるのがこの「テ・デウム」です。

「テ・デウム」とは「天主よ、われら御身をたたえ」と訳されるのですが、要は神への感謝を捧げる賛歌のようなものです。
ブルックナーという人はオルガン奏者としてまず最初の成功をおさめるのですが、その後は交響曲と教会音楽が彼の創作活動の二本柱になっていきます。しかし、日本では彼のシンフォニストとしての側面にばかり日が当たり、教会音楽に関しては殆ど日が当たらないのが現状です。

しかし、ブルックナーの存命中を振り返ってみると、この「テ・デウム」は演奏会で30回前後も取り上げられているのです。
「テ・デウム」は1884年に完成し、1886年に初演されていますから、時期的に言えば交響曲第7番の完成とその初演の成功の後に続く作品です。そして、交響曲の中では一番の成功作だった7番でもブルックナーの生前に演奏されたのは30回前後だそうですから、この「テ・デウム」こそはブルックナーにとっては一番の成功作だったとも言えるのです。
ちなみに、この2作に継ぐのが第3番の交響曲で演奏回数は20回を少し超えるそうです。

つまりは、当時のヨーロッパの人たちにとっても、どこか交響曲という規格から外れたブルックナーの交響曲よりは、声楽を伴った壮麗な教会音楽の方が馴染みやすかったのでしょう。
しかしながら、日本では教会音楽などと言うものは交響曲以上に馴染みのうすい音楽でしたから、そこに日が当たらないのは仕方がないのかも知れません。

なお、「テ・デウム」と言えばもう一つ思い浮かぶのがブルックナーの遺言とも言うべき言葉です。
彼は死の直前まで交響曲第9番の最終楽章の完成に心血を注ぐのですが、それがもし完成しないときはこの「テ・デウム」をその代わりに演奏してほしいと言い残したのです。

まあ、それは「遺言」のようなものですから、昔は第3楽章が終わった後に少し休憩時間をおいて「テ・デウム」を演奏すると言うことが行われたそうですが、今日ではそれもなくなりました。
おそらくは、ニ短調で始まった音楽がハ長調で終わるというのがどうにも収まりが悪かったのでしょう。

ファイル再生だとその二つをシームレスに再生すると言うことは簡単の出来るので試されるといいと思うのですが、確かに違和感がないとは言い切れません。
雰囲気的にはベートーベンの9番をさらに巨大化したような音楽になるのですが、ベートーベンの場合はニ短調で始まった音楽はニ長調で終わりますから、そこはきちんと計算されています。


やる気に満ちていた頃のワルターらしい真っ向勝負という感じの演奏スタイル

どこかでも書いたことではあるのですが、ワルターとブルックナーの相性はそれほど良くはありません。

スタジオ録音としては、最晩年にコロンビア響と4番と7番、9番、そしてモノラル録音の時代にニューヨーク・フィルと「テ・デウム」を残しているくらいではないでしょうか。
ライブ録音として残っているものもこの枠をはみ出るものではなくて、ニューヨーク・フィルと41年に演奏した8番の交響曲が唯一の例外ではないかと思われます。

つまりは、ワルターにとってはブルックナー作品というのは彼のレパートリーの中では傍流中の傍流だったわけです。
そんなブルックナーの交響曲を最晩年にコロンビア響を使って3曲も録音をしたのは、肺炎にかかって死線をさまよう事でブルックナーの本当のすばらしさが初めて分かるようになったからだと語っていたそうです。

確かに、一般的にはそれほど評価の高くないコロンビア響とのブルックナー演奏なのですが、他の指揮者ではあまり感じ取れない伸びやかで明るい音楽がそこに満ちていることに気づかされます。
とりわけ、緩徐楽章の歌心にに満ちた美しさは4番でも7番でも素晴らしいものがありますし、9番の最終楽章もある種の神々しさに満ちています。

しかし、そう言う最晩年の録音と較べてみれば、この「テ・デウム」は実に不思議な立ち位置にある録音です。
この「テ・デウム」は1953年のモノラル録音ですから、おそらくは肺炎によって死線をさまよう前の演奏であることは間違いはありません。

オケは手兵と言ってもいい存在だったニューヨークフィルですし、ソリストの4人もワルターが声楽を必要とする作品を取り上げるときにはいつも起用されるおなじみのメンバーです。そして、ワルターもまた未だ現役バリバリの気力に満ちた時代の演奏でした。
つまりは、彼にとって未だ傍流のプログラムだったブルックナー作品を、現役バリバリのやる気に満ちた環境の中で取り組んだ録音なのです。

おかしな言い方になりますが、コロンビア響との録音は、漸くにして共感できるようになったブルックナー作品をある種の思い入れを持ってしみじみと振り返るような演奏でした。
それに対して、この「テ・デウム」は彼のレパートリーにおける大きな欠落を埋めるために、どこか共感できないブルックナー作品の中で何とか受け容れられそうな作品を取り上げて料理したという雰囲気が漂うのです。

しかし、それでもなお、この「テ・デウム」の録音に対する評価はあまり高くないのであって、一部には鈍重にすぎるという厳しい意見も見受けられるのです。
しかし、時代背景を考えれば、このようなテンポ設定と重々しい表現はこの時代に相応しい真っ当なスタイルと言えなくもありません。

おかしな表情づけや下手な揺らしもなく真っ向勝負という感じの演奏スタイルは、やる気に満ちていた頃のワルターらしい演奏だとも言えます。
それでもなお、この手の教会音楽というのは日本人にとっては、あの「訳の分からない」と言われることの多い交響曲群よりもなお受容しにくい音楽であることもまた事実です。そうであれば、どこかで聞きやすくしてくれる録音、例えばカラヤン盤のような録音の方が評価難くなってしまうのかも知れません

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