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ラヴェル:舞踏詩「ラ・ヴァルス」

ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団 1962年3月録音



Ravel:La valse


沈みゆく船

この音楽を聞いていると、いつもタイタニック号のイメージが浮かび上がってきます。
華やかな舞踏会が繰り広げられる豪華な客船、しかし、その船はまさに沈みゆこうとしています。
それでも、人々は、そんなことを夢にも思わずに踊り続けている。

パッと聞くだけなら、この上もなく華やかで明るいだけの音楽に聞こえます。でも、その音楽を聞いていると、その底に何とも言えない苛立ちのような不安感が流れています。それは、おそらくは上辺の華やかさと底辺の不気味さが妙に同居していて、その不気味さが華やかな音楽の合間に時々ぬっと顔を出すからでしょう。
こういう不気味さは結構コワイ。
そして音楽はラストに向けてやけくそのようにテンポを速めながら、最後は砕け散るように幕を閉じます。

よく言われるように、この作品にはラヴェル自身の第一次世界大戦への従軍とその後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が間違いなく反映しています。

ラヴェルはこの作品に対して次のような標題を掲げています。

渦巻く雲の中から、ワルツを踊る男女がかすかに浮かび上がって来よう。雲が次第に晴れ上がる。と、A部において、渦巻く群集で埋め尽くされたダンス会場が現れ、その光景が少しずつ描かれていく。B部のフォルティッシモでシャンデリアの光がさんざめく。1855年ごろのオーストリア宮廷が舞台である。

おそらく、氷河に衝突したのがフランツ・ヨーゼフ1世治下の1850年代であり、その結果としての沈没が第一次世界大戦であったという思いがあったのでしょうか。

でも、これが他人事とは思えない現状も怖いなぁ。


デトロイト響と言うアメリカ的なものと、彼の中にあるフランス的なものとが絶妙なバランスで共存している

パレーという人の経歴を調べてみると録音活動の中心がデトロイト響だったために、ともすればアメリカの指揮者と誤解される事が多いようです。
しかし、彼は生まれも育ちもフランスであり、さらには、アメリカで長く活動しながら最後までほとんど英語を話せなかったという(^^;生粋のフランス人です。

ただし、そう言う誤解を招く要素は彼自身の演奏の中にも存在しました。
それは、パレーと言えば真っ先に思い浮かぶシューマンの交響曲における、あの強めのアタックと目を見張るような快速テンポによる攻撃的な音楽づくりです。
あれは、疑いもなく即物主義全盛のアメリカにおける典型的な音楽のスタイルでした。

今から思えば、あれはアメリカという社会に身を添わせていくための、随分と無理をしたスタイルだったのかも知れません。
その証拠に、取り上げる作品がラヴェルやドビュッシーなどのフランスものになると、「これぞ私の音楽」という雰囲気で実に楽しげに振る舞いはじめるからです。

ただし、そうはいってもフランスの指揮者がフランスのオケを指揮したときのように、粋な雰囲気は伝わってくるのだけれど中で何をやっているのか曖昧でよく分からないという音楽にはなっていません。
それはもうきわめて精細極まる音づくりです。
音と映像の違いはあるのですが、最近何かと話題になっている4Kとか8Kとか言われる超精細な世界がこの時代から既に存在していたのかと感心させられるほどです。

しかし、そこにはシューマンのような攻撃的な姿は全くありません。

そう言えば、パレーという人は1962年にデトロイト響の音楽監督を退いてからも元気に客演活動を続けるのですが、残念ながら目立つような録音活動は行っていません。
晩年のパレーはフランスのオケを中心に悠々自適で客演活動を続けたのですが、演奏も録音も冴えないものになっています。

やはり、デトロイト響と言うアメリカ的なものと、彼の中にあるフランス的なものとが絶妙なバランスで共存していてこそ彼の音楽は輝きをはなったのかも知れません。
そう言う意味では、この一連のラヴェルの録音こそはその最上の収穫の一つかも知れません。

なお、この中で「ラ・ヴァルス」に関しては「TAS Super LP List 2017」の中で最優秀録音盤に該当する「BEST OF THE BUNCH」に選ばれています。
選ばれているレコードは初期盤の「Mercury SR 90313」なのですが、そこに収録されている録音は以下の通りです。


  1. ラヴェル:スペイン狂詩曲

  2. ラヴェル:道化師の朝の歌

  3. ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

  4. ラヴェル:ラ・ヴァルス

  5. イベール:寄港地



確かに、言われてみればきわめて複雑なオーケストレーションが施されているラヴェルの音楽を、まるで超精細なハイヴィジョン画像を見るかの如くにとらえているので聞きごたえは十分です。
そして、そう言う録音の優秀さは、プロコフィエフの「スキタイ組曲」のドラティ盤で感じてしまったような「虚しさ」とも無縁なので何の留保条件をつける必要もありません。

もちろん、録音が優秀なのは「ラ・ヴァルス」だけでなく、それ以外にものもきわめて優秀な録音です。
「亡き王女のためのパヴァーヌ」の冒頭のホルンの響きなどは極上と言っていいでしょう。「道化師の朝の歌」における飛び跳ねるような打楽器の燦めきも見事なものです。

この演奏を評価してください。

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