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ウェーバー:グランド・デュオ・コンチェルタント 変ホ長調 作品48

(Cl)レジナルド・ケル (P)Joel Rosen 1953年6月録音



Weber:グランド・デュオ・コンチェルタンテ 「第1楽章」

Weber:グランド・デュオ・コンチェルタンテ 「第2楽章」

Weber:グランド・デュオ・コンチェルタンテ 「第3楽章」


魅力的なのは幽愁の気に包まれたクラリネットの美しさです

この作品は認知度という点では「マイナー作品」の部類にはいるのでしょうが、実際に聞いてみれば実に面白い作品です。そして、クラリネット奏者にしてみれば実に魅力的な作品だと思うのですが、実際のコンサートでもあまり取り上げられる機会は多くありません。
はて、不思議な話だなと思ったのですが、聞くところによるとクラリネットにおつきあいをするピアニストにとっては「おつきあい」ではすまない「大変」さがあるので、なかなか共演相手を見つけるのが難しいとのことです。

確かに、ウェーバー自身が「Grand duo concertant」と名づけたように、これはまさしくクラリネットの独奏にピアノが伴奏をつけるというような代物ではありません。二つの楽器がそれぞれ主役となって協奏することもあれば、片方が美しい独奏を演じているときは絶妙のバランスでサポートにまわらなければいけません。

ただ、この「Grand duo concertant」につけられている「協奏的大二重奏曲」というのはどうにかならないのでしょうか(^^;
そんな時代がかった無味乾燥な訳を与えるなら、そのまま「グランド・デュオ・コンチェルタント」でいいような気がしますし、最近はその様に表記することも増えてきているようです。

この作品で、なんと言っても魅力的なのは第2楽章の幽愁の気に包まれたクラリネットの美しさでしょう。この美しさを聞くだけで、これがなぜにここまでマイナーなのかと不思議に思ってしまいます。
さらに言えば、このクラリネットが静まる中間部ではピアノによる素晴らしい独奏も用意されているのです。
ただし、至るところにそう言うピアノの独奏が用意されているので、共演してくれるピアニストを探すのが大変だと言うことになるようです。

これに続く第3楽章もその幽愁の気分を引き継いだように始まるのですが、それも次第に日が差しこむように穏やかなメロディラインへと姿を変えていきます。

なお、この作品はまずは第3楽章の「ロンド」が完成し、その後に第2楽章の「アンダンテ・コン・モート」を書き上げ、最初の「アレグロ・コン・フォーコ」はその翌年に完成させています。
何ともおかしな順序なのですが、終楽章の「ロンド」とつり合うように、第1楽章は古典的な均衡を崩さない「ソナタ形式」をもってくる事で上手くバランスを維持しています。


  1. 第1楽章:アレグロ・コン・フォーコ(ソナタ形式)

  2. 第2楽章:アンダンテ・コン・モート(三部形式)

  3. 第3楽章:ロンド、アレグロ




ダーク系のサウンドを基準にして「がっかりする」などというようなことをいってはいけない

こういうサイトを長くやっていると、昔の文章を読み返してつくづく馬鹿なことを書いてしまったものだと思うことがよくあります。
そんな馬鹿なことの一つが、このレジナルド・ケルに対して「同時代に活躍したウラッハと比べると少しガッカリするかもしれません」と書いていたことです。

つくづく、阿呆なことを書いたものだ。(^^;

確かに、レジナルド・ケルはイギリスを代表するクラリネット奏者ではあったのですが、知名度という点ではウラッハには一歩も二歩も譲らざるを得ません。
しかし、クラリネットの魅力がウラッハのような「ほの暗い音色」だけにあるわけではないという当たり前のことに気づけば、「ウラッハと比べると少しガッカリする」等という阿呆な言葉は出てくるはずもないのです。

Reginald Kell(レジナルド ケル)はイギリスのヨークに生まれ、当初はヴァイオリンを学ぶものの、15歳の時にクラリネットに転向し、その後ビーチャムが創設したロンドン・フィルの首席奏者に就任します。
1939年には、トスカニーニによってルツェルン祝祭管弦楽団の首席奏者に選ばれ、さらにNBC交響楽団の首席奏者にも誘われます。しかし、その誘いは断って戦時中はリヴァプール・フィルの首席奏者、戦後はウォルター・レッグが創設したフィルハーモニア管弦楽団の首席奏者に就任し、さらにはビーチャムが創設したロイヤル・フィルの首席奏者も兼ねることとなります。

まさに、イギリスを代表するオーケストラで首席奏者を歴任したのですから、まさに掛け値無しに「イギリスを代表するクラリネット奏者」だったわけです。
しかし、ケルの活動はその様なオーケストラプレーヤーとしての仕事にとどまりませんでした。

1948年からは活動の本拠をアメリカに移し、ソリストとして活躍しながらも室内楽団対も主催するという売れっ子となります。
また、教育者としても大変に有能な人だったようで、当時すでに名声を獲得していたベニー・グッドマンがレッスンを受けに来たというのは有名な話です。
また、いくつかの教則本も残していて、クラリネットをやっている人にきくとそれは「拷問」に近い代物だそうです。

これだけの経歴を持ったクラリネット奏者の演奏が「ウラッハと比べると少しガッカリする」はずなどはないのです。

注意しなければいけないのは、ケルのクラリネットはウラッハのようなほの暗い音色ではなくて、それとは正反対の明るくて、スッキリとした高域の透明感が特徴でした。
聞くところによると、ケルはメルテル兄弟が作ったクラリネットを使っていたようで、それはウィーン風のダークなサウンドではなくて明るくて高音域が痩せないタイプの楽器だったよです。

つまりは、最初からクラリネットという楽器に求める音色の指向が全く違うのであって、その違いをウラッハのようなダーク系のサウンドを基準にして「がっかりする」などというようなことをいってはいけないのです。
ですから、ケルの魅力はその様な伸びやかで明るく、透明感にあふれた高音域にあるからこそ、聞いていると心がふんわりと癒されて仕事に行くのがいやになってしまうのです。(^^;

そう言うケルの美質がいかんなく発揮されているのがこのウェーバーの「グランド・デュオ・コンチェルタント」でしょう。
とりわけ、高音域でピアノとやり合う場面の美しさはウィーン風のダーク・サウンドではなかなか表現できないものです。

そして、振り返ってみれば、そう言うことはサン=サーンスのクラリネットソナタをアップしたときに気づくべきだったのです。
これはもう少し頑張ってケルの録音を発掘しないといけないようです。

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