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ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 op.92

グィード・カンテッリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1956年5月28日~31日録音

Beethoven:Symphony No.7 in A major , Op.92 [1.Poco Sostenuto; Vivace]

Beethoven:Symphony No.7 in A major , Op.92 [2.Allegretto]

Beethoven:Symphony No.7 in A major , Op.92 [3.Presto; Assai Meno Presto; Presto]

Beethoven:Symphony No.7 in A major , Op.92 [4.Allegro Con Brio]




深くて、高い後期の世界への入り口

「不滅の恋人」は「アマデウス」と比べるとそれほど話題にもなりませんでしたし、映画の出来そのものもいささか落ちると言わなければなりません。しかし、いくつか印象的な場面もあります。(ユング君が特に気に入ったのは、クロイツェル・ソナタの効果的な使い方です。ユング君はこの曲が余りよく分からなかったのですが、この映画を見てすっかりお気に入りの曲になりました。これだけでも、映画を見た値打ちがあるというものです。)

それにしても、「アマデウス」でえがかれたモーツァルトもひどかったが、「不滅の恋人」でえがかれたベートーベンはそれに輪をかけたひどさでした。
第9で、「人類みな兄弟!!」と歌いあげた人間とは思えないほどに、「自分勝手」で「傲慢」、そしてどうしようもないほどの「エキセントリック」な人間としてえがかれていました。一部では、あまりにもひどすぎると言う声もあったようですが、ユング君は実像はもっとひどかったのではないかと思っています。
 
偉大な音楽家達というものは、その伝記を調べてみるとはっきり言って「人格破綻者」の集まりです。その人格破綻者の群の中でも、とびきりの破綻者がモーツァルトとベートーベンです。
最晩年のぼろ屑のような格好でお疾呼を垂れ流して地面にうずくまるベートーベンの姿は、そのような人格破綻者のなれの果てをえがいて見事なものでした。

不幸と幸せを足すとちょうど零になるのが人生だと言った人がいました。これを才能にあてはめると、何か偉大なものを生み出す人は、どこかで多くのものを犠牲にする必要があるのかもしれません。

この交響曲の第7番は、傑作の森と言われる実り豊かな中期の時期をくぐりぬけ、深刻なスランプに陥ったベートーベンが、その壁を突き破って、後期の重要な作品を生み出していく入り口にたたずむ作品です。
ここでは、単純きわまるリズム動機をもとに、かくも偉大なシンフォニーを構築するという離れ業を演じています。(この課題に対するもう一つの回答が第8交響曲です。)

特にこの第2楽章はその特徴のあるリズムの推進力によって、一つの楽章が生成発展してさまをまざまざと見せつけてくれます。
この楽章を「舞踏の祝祭」と呼んだのはワーグナーですが、やはり大したものです。

そしてベートーベンはこれ以後、凡人には伺うこともできないような「深くて」「高い」後期の世界へと分け入っていくことになります。

歌うべき部分は入念に歌い上げようとするスタイルへと変わろうと模索するカンテッリの姿が刻み込まれています


カンテッリのベートーベン録音は第1楽章を欠いてトルソーのように残された運命とこの7番だけです。
録音クレジットを見てみると次のようになっています。


  1. ベートーベン:交響曲第5番:May 31 & June 1 & 4-5, 1956

  2. ベートーベン:交響曲第7番:may 28-31 1956



これ以外にも、NBC交響楽団とのライブ録音が幾つか残されているのですが、カンテッリにとって自らのベートーベンを世に問う思いで取り組んだのはこの二つのスタジオ録音であったことは間違いありません。
そして、第5番に関しては、第1楽章の出来に不満があって後日録りなおそうとしたものの、不慮の事故でそのままになったと言われています。

しかし、彼を見舞った不慮の事故はこの年の11月です。この半年ほどの間に、カンテッリはオペラ指揮者としての評価も確立し、事故の直前にはスカラ座の次期音楽監督にも指名されて記念コンサートも行っています。
確かに、日の出の勢いで大変な過密スケジュールだったのかもしれませんが、それでもベートーベンの運命の録音を半年近くも放置するというのは、通常の録音スケジシュールから考えればあり得ない状態だと言わざるを得ません。

さらに言えば、この交響曲は第1楽章冒頭の短い動機を種子として構築される音楽です。
その肝心の第1楽章の形が決まらない状態で、どのようにして続く3つの楽章の姿を決め得たのでしょうか。
おそらく、彼が気に入らなかったのは第1楽章だけではなくて、音楽全体が気に入らなかったのではないかと勘ぐってしまいます。

何故ならば、それに先立つこの第7番の交響曲でも、カンテッリは変わろうとしていることが伺えるからです。
それは、トスカニーニが引退を表明をして、それに伴ってNBC交響楽団がなくなってしまったことが大きく影響したのかもしれません。

トスカニーニはカンテッリのことを若い頃の自分に似ていると言ったのは有名な話です。
実際に50年代初期のカンテッリとNBC交響楽団との録音を聞くと、それはトスカニーニ以上にエッジの効いた直線的な造形が特徴でした。そして、その特徴はフィルハーモニア管とのスタジオ録音でも変わりませんでした。
1953年に録音したブラームスの1番などはその典型でしょう。

しかし、トスカニーニが引退してNBC交響楽団がなくなってしまうと、彼の活動の軸足はアメリカからヨーロッパに移っていきます。
フィルハーモニア管とのスタジオ録音の比重が大きくなり、ザルツブルグ音楽祭でオペラの指揮にも本格的に乗り出し、そして事故の直前にはスカラ座の音楽監督の地位をつかみ取るのです。

おそらく、この軸足の移動が彼の音楽を変えていく切っ掛けになったのではないかと想像させられます。
そう言えば、ワルターもまたアメリカとヨーロッパではその演奏スタイルを真逆と言っていいほどに変えていました。(ウィーンフィルを指揮した、あのポルタメントを多用したト短調シンフォニーを思い出すべし!!)

ただし、その変化が彼の音楽の本質的な部分から発したのか、営業上の理由から変えようとしたのかは、結果ととしてその途上で彼の活動が絶ちきられたので断定するのは困難です。
しかし、ここには、そう言う変わろうとする、つまりは直線的に一気呵成に造形するのではなく、歌うべき部分は入念に歌い上げようとするスタイルへと変わろうと模索するカンテッリの姿が刻み込まれています。

そして、この録音をカンテッリの代表的な録音として評価する人も多いのですが、個人的には上で述べたような文脈に於いて、いまだ道半ばという感が拭いきれません。
そして、これは異論もあろうかと思うのですが、もしも彼があのような事故に遭わずにヨーロッパでの活動を本格化していれば、おそらくはカラヤンと似たような音楽へと変わっていったのではないかと想像します。

彼の(結果として)最晩年の録音を聞けば聞くほど、その思いは強くなります。


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