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バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066

エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1955年5月31日~6月2日録音

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [1.Ouverture]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [2.Courante]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [3.Gavotte I, II]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [4.Forlane]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [5.Menuett I, II]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [6.Bourree I, II]

Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066 [7.Passepied I, II]




ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品

ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。

そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。
同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。

ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。

ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。
それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。

疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。


  1. 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
    荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。

  2. 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
    パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。

  3. 管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
    この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。

  4. 管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
    序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。



ノーブルで上品


ベイヌムという人はあまりにも早く亡くなりすぎました。58才という年齢は、指揮者という稼業では明らかに早死にです。
そして、その最期の10年間に大きな変化を見せ始めていただけに、その早世は本当に残念でした。

この変化についてはブラームスの録音のところで詳しく書いたことがあるのですが、もう一度掻い摘んでまとめておきます。

ベイヌムという人は「音楽は縦割りだ」というスタンスで生きてきた人でした。
その典型例が世間では評価の高いブラームスの1番の51年盤です。がっしりとした造形に重量感のある響きは、歴史上最も素晴らしい響きを実現したオーケストラと絶賛する人もいるほどです。

ところが、そんなベイヌムが音楽を縦から横へと変換させるのです。
例えば、ブラームスの4番の58年盤などはその方向性がはっきり表れていて、剛直なベイヌムを高く評価する人たちはそれを「緩い」と感じ、病によってパワーが落ちてきていたベイヌムの「緩さ」を見いだすのです。
しかし、その反面として、例えば最終楽章の第12変奏におけるハッとするようなフルートソロの美しさなどに出会うと、「緩さ」と切って捨てるわけにはいかないような気もするのです。

ですから、それをあっさりと「下降線」と切って捨てるのではなく、新しいスタイルを模索しようとする「過渡期」ではないかと提案したのでした。
そして、そう言うベイヌムの変化が、見事なまでに刻み込まれているのが、このバッハの「管弦楽組曲」なのです。

録音は55年(1番・2番)と56年(3番・4番)なのですが、ここではもう「音楽は縦割りだ」というスタンスは完全に消えています。
56年と言えば、この翌年にリヒターがマタイ受難曲を録音する年です。
対位法の人だったバッハの音楽を縦に積み直して、まったりと横に流していくような音楽は過去のものなろうとした時代でした。

そんな時代に、ベイヌムはコンセルトヘボウの響きを存分に生かして、徹底的に横に流す音楽を提示したのです。

ただし、ベイヌムが凄いと思うのは、そうやってみせても下品な甘ったるさとは全く無縁な音楽になっていると言うことです。
確かに、いくつものラインが横に絡み合いながら流れていくような響きにはなっていません。本来はパラパラに分離されなければいけない響きが渾然一体となって響いてしまっていることは否めません。
第2番のフルートのようにソロイスティックに活躍すべき楽器もオケの響きに埋没してしまっているのは残念です。

結果として鈍重なバッハになっているのですが、それでも不思議なほどに暑苦しさは感じません。全体の印象はこの上もなくノーブルで上品です。
そして、もう聞くことのできなくなった古き良き時代のバッハ像に思いを馳せるのです。

50代の初め頃までは剛直きわまりない音楽をやっていた男にどのような変化があったのかその内面まではうかがい知ることは出来ません。
しかし、この見事なまでの変わり方を前にすると、その変化が絶ちきられてしまったことは残念と言わざるを得ません。

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