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カラス(Maria Callas)|マリア・カラス~狂乱の場
マリア・カラス~狂乱の場
(S)マリア・カラス:ニコラ・レッシーニョ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 フィルハーモニア合唱団 1958年9月24~ 25日録音
Gaetano Donizetti:Anna Bolena [Piangete Voi? Al Dolce Guidami Castel Nati(Act2)]
Ambroise Thomas:Hamlet [A Vos Jeux... Paratagez-Vous Mes Fleurs... Et Maintenant Ecoutez Ma Chanson (Act4)]
Vincenzo Bellini:Il Pirata [Oh! S'io Potessi... Col Sorriso D'Innocenza]
マリア・カラス~狂乱の場
ドニゼッティ:歌劇「アンナ・ボレーナ」より「あの方は泣いているの?...私の生まれたあのお城」
(A)モニカ・シンクレア (T)ジョン・ラニガン (B)ジョセフ・ルルー(T)ダンカン・ロバートソン
ドニゼッティと言えば「愛の妙薬」、「ランメルモールのルチア」が有名です。特に、狂乱の場と言えば真っ先に指を折られるのが「ルチア狂乱の場」です。
しかし、それらの作品に先立って大成功をおさめ、作曲家としての地位を確立させたのが「アンナ・ボレーナ」です。
このペラは16世紀のイングランド国王ヘンリー8世とその2番目の妃アン・ブーリン、そして3番目の妃ジェーン・シーモアの史実に基づく作品で、オペラの中ではヘンリー8世は「エンリーコ8世」、アン・ブーリンは「アンナ・ボレーナ」、ジェーン・シーモは「ジョヴァンナ・セイモー」となっています。
そして、聞き所として「狂乱の場」が用意されています。
ストーリーは一言で言えば、愛と裏切りのどろどろの愛憎劇と言うことでしょうか。
王妃である「アンナ・ボレーナ」に飽きた「エンリーコ8世」は、王妃の侍女である「ジョヴァンナ・セイモー」に手を出してしまいます。
そして、ジョヴァンナを次の王妃として迎え入れるためにアンナに密通の濡れ衣を着せて処刑してしまうという話です。
この狂乱の場は、死刑を言い渡され、ロンドン塔に閉じこめられたアンナが錯乱しながら歌う場面です。アンナは時に正気に戻り、そして再び錯乱しながら、最後にエンリーコとジョヴァンナを「邪悪な夫婦よ」と呪いながら気を失います。
ドニゼッティはここでの経験を生かして、ルチアではさらに腕によりをかけてさらに陰惨な場面を書くことになるのですが、その反面、「愛の妙薬」のような喜劇も書けるという類い希な才能を持った作曲家でした。
トマ:歌劇「ハムレット」より「皆様のお楽しみに...それでは、私の歌をお聴きくださいまし」
このオペラの第4幕がオフェーリアの狂乱の場に割り当てられています。
永遠の愛を誓ったはずのハムレットから「尼寺へ行け」と告げられたオフェーリアが、小川の畔を彷徨いながら正気を失い、最後は小川に身を投げて亡くなるという場面です。
ただし、このオペラはシェークスピアのあまりにも有名な作品を下敷きにしているにもかかわらず、結末を変えています。
原作では復讐を果たしてハムレットは死ぬのですが、このオペラでは民衆が「ハムレット万歳、我らが王万歳」と讃えて終わります。
さらには改変版では、死んだはずのオフェーリアも蘇って二人は結ばれるという超ハッピーエンド版もあるそうです。
しかし、それではあまりにもご都合主義がすぎると思ったのか、「オフェリア、私も君と共に死ぬ!」と言わせて原作通りにハムレットが死ぬように改変した版もあるそうです。ややこしい!!(^^;
ベッリーニ:歌劇「海賊」より「ああ、目の前にかかる雲を...その無心の微笑みで」
オペラのストーリーは海賊のグアルティエーロ、公爵のエルネスト、そして心ならずもその公爵と結婚したイモジェーネのドロドロ三角関係を軸に展開していきます。当然の事ながら、海賊グアルティエーロと公爵夫人イモジェーネはかつては恋人であり、今も密かに愛し合っているという筋立てになっています。
このイモジェーネの狂乱の場はオペラの最後の最後、エルネストがグアルティエーロとの決闘に敗れて亡くなり、そのグアルティエーロも復讐を誓うエルネストの家臣達に捕らえられて死刑を言い渡されるという場面で歌われます。
狂乱の場でありながら非常に美しいアリアに仕上がっているので、これだけがよく単独で取り上げられます。
ドラマティックな悲劇を演じる力
狂乱の場はコロラトゥーラにとっては一番の聞かせどころを提供してくれるアリアなのですが、最も困難を強いるアリアでもあります。
それは、その「狂乱」が悲劇的であり、陰惨であればあるほど、軽く転がすだけのコロラトゥーラではどうしようもないからです。
概ねオペラなどと言うものは、そこで描かれる悲劇などというものはまともに向き合ってみれば阿保みたいなストーリーです。それ故に、そのクライマックスとも言うべき狂乱の場をころころ転がるだけのコロラトゥーラが歌えば、それは見事なまでの三文芝居になってしまいます。
しかし、そこで重みのあるドラマティックな声で歌い上げることが出来れば、それがどれほど阿保みたいなストーリーであっても、そこに真の悲劇が立ちあらわれます。
要は、歌い手次第なのですが、それが本当に歌えた、そして歌える歌手などはほとんど存在しなかったし、存在しないのです。
その意味で、このアルバムは真に価値のある一枚です。
初演で大成功をおさめた「アンナ・ボレーナ」は何度も上演されるようになるのですが、19世紀の終わり頃になるとほとんど取り上げられなくなりました。それは、作品の価値が下がったのではなくて、このオペラのクライマックスとも言うべきアンナの狂乱の場をまともに歌える歌手がいなくなったためです。
その意味では、1957年にマリア・カラスがスカラ座でアンナを歌って「アンナ・ボレーナ」を復活させた価値は大きなものがありました。そして、それは長いとは言えなかった彼女の全盛期の一つの頂点を為すものでした。
それとほぼ同じ事が、ベッリーニの「海賊」にもあてはまります。
ベッリーニとカラスの関係と言えば真っ先に「ノルマ」の復活を思い出すのですが、この「海賊」のイモジェーネ役もソプラノにとっては至難の役です。そして、これもまたカラスを上回るソプラノの登場は考えにくいのです。
それらと較べると、トマのハムレットのオフェーリアははるかに軽いので、ころころ転がるコロラトゥーラでもそれほど困ることはありません。ですから、何が何でもカラスでなければと言うことは感じません。
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よせられたコメント
2020-09-05:コタロー
- 実は、オペラは私にとって苦手なジャンルです。しかし、このアルバムは一気に聴き通してしまいました。それはひとえにマリア・カラスの歌の魅力の賜物でしょう。
そういえば、かつてある人が「20世紀の天才女性歌手は、マリア・カラスと美空ひばりである」と語っていましたね。まさにそのことを実感させる見事なアルバムです!
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