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チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調 Op.48


ウィレム・メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1938年11月7日録音

Tchaikovsky:Serenade for Strings in C Major Op.48 [1.Pezzo in forma di sonatina. Andante non troppo - Allegro moderato ]

Tchaikovsky:Serenade for Strings in C Major Op.48 [2.Valse. Moderato. Tempo di Valse]

Tchaikovsky:Serenade for Strings in C Major Op.48 [3.Elegia. Larghetto elegiaco ]

Tchaikovsky:Serenade for Strings in C Major Op.48 [4.Finale (Tema russo). Andante - Allegro con spirito ]


スランプ期の作品・・・?

まずは、弦楽セレナード、そして4つの組曲、さらにはマンフレッド交響曲の6曲です。マンフレッド交響曲は、その標題性からしても名前は交響曲でも本質的には多楽章構成の管弦楽組曲と見た方が自然でしょう。
まず第4交響曲は1877年に完成されています。


  1. 組曲第1番:1879年

  2. 弦楽セレナード:1880年

  3. 組曲第2番:1883年

  4. 組曲第3番:1884年

  5. マンフレッド交響曲:1885年

  6. 組曲第4番:1887年



そして、1888年に第5交響曲が生み出されます。
この10年の間に単楽章の「イタリア奇想曲」や幻想的序曲「ロミオとジュリエット」なども創作されていますから、まさに「非交響曲」の時代だったといえます。
何故そんなことになったのかはいろいろと言われています。まずは、不幸な結婚による精神的なダメージ説。さらには、第4番の交響曲や歌劇「エウゲニ・オネーギン」(1878年)、さらにはヴァイオリン協奏曲(1878年)などの中期の傑作を生み出してしまって空っぽになったというスランプ説などです。
おそらくは、己のもてるものをすべて出し切ってしまって、次のステップにうつるためにはそれだけの充電期間が必要だったのでしょう。打ち出の小槌ではないのですから、振れば次々に右肩上がりで傑作が生み出されるわけではないのです。
ところが、その充電期間をのんびりと過ごすことができないのがチャイコフスキーという人なのです。

オペラと交響曲はチャイコフスキーの二本柱ですが、オペラの方は台本があるのでまだ仕事はやりやすかったようで、このスランプ期においても「オルレアンの少女」や「マゼッパ」など4つの作品を完成させています。
しかし、交響曲となると台本のようなよりどころがないために簡単には取り組めなかったようです。しかし、頭は使わなければ錆びつきますから、次のステップにそなえてのトレーニングとして標題音楽としての管弦楽には取り組んでいました。それでも、このトレーニングは結構厳しかったようで、第2組曲に取り組んでいるときに弟のモデストへこんな手紙を送っています。
「霊感が湧いてこない。毎日のように何か書いてみてはいるのだが、その後から失望しているといった有様。創作の泉が涸れたのではないかと、その心配の方が深刻だ。」
1880年に弦楽セレナードを完成させたときは、パトロンであるメック夫人に「内面的衝動によって作曲され、真の芸術的価値を失わないものと感じている」と自負できたことを思えば、このスランプは深刻なものだったようです。
確かに、この4曲からなる組曲はそれほど面白いものではありません。例えば、第3番組曲などは当初は交響曲に仕立て上げようと試みたもののあえなく挫折し、結果として交響曲でもなければ組曲もと決めかねるような不思議な作品になってしまっています。
しかし、と言うべきか、それ故に、と言うべきか、チャイコフスキーという作曲家の全体像を知る上では興味深い作品群であることは事実です。

<弦楽セレナード ハ長調 Op.48>
チャイコフスキーはいわゆるロシア民族楽派から「西洋かぶれ」という批判を受け続けるのですが、その様な西洋的側面が最も色濃く出ているのがこの作品です。チャイコフスキーの数ある作品の中でこのセレナードほど古典的均衡による形式的な美しさにあふれたものはありません。ですから、バルビローリに代表されるような、弦楽器をトロトロに歌わせるのは嫌いではないのですが、ちょっと違うかな?という気もします。
チャイコフスキー自身もこの作品のことをモーツァルトへの尊敬の念から生み出されたものであり、手本としたモーツァルトに近づけていれば幸いであると述べています。ですから、この作品を貫いているのはモーツァルトの作品に共通するある種の単純さと分かりやすさです。決して、情緒にもたれた重たい演奏になってはいけません。


  1. 第1楽章 「ソナチネ形式の小品」

  2. 第2楽章 「ワルツ」

  3. 第3楽章 「エレジー」

  4. 第4楽章 「フィナーレ」



今は失ってしまった不思議世界


今さらこんな古い録音を持ってこなくてもいいだろうという声が聞こえてきそうです。
しかし、逆から見れば、こういうサイトだからこそ、こういう古い録音を公開する意味があるのだろうとも考えます。

それは、そんな古い録音はお金を払ってまで聞いてみたいと思わないという形而下的な理由だけでなく、そう言う古い録音もまた、クラシック音楽という世界を広く俯瞰していく上で取りこぼしてはいけない世界だからです。
そして、その取りこぼしてはいけない世界が商業的に採算が取れないと言うことで消えていくのが宿命ならば、別の形でアクセスできるようにするのも無駄なことではないからです。

そこで、一週間に一つくらいはそう言う古い録音を紹介してもいいのではないかと考えています。
そんな古い録音など何の興味もないし、ノイズまじりの貧弱な音で音楽を聞く奴の気が知れないという人もいるかとは思います。しかし、時間が許すようでしたら是非とも騙されたと思って聞いてみてください。
そこには、今の時代には絶対に聞くことのできなくなった「不思議な音楽」の世界がひろがっていることだけは保障します。

ただし、その「不思議な世界」がお気に召すかどうかは人それぞれです。
ただし、そう言う不思議な音楽の世界が大手を振って闊歩していた時代があったと言うことを知るだけでも値打ちはあるでしょう。

と言うことで、しばらくはメンゲルベルクを取り上げてみようかと思います。
彼こそは、二〇世紀前半の「不思議な音楽の世界」を代表する指揮者だからです。

チャイコフスキーはメンゲルベルクの十八番で、彼なら出端の不思議世界がひろがる音楽なのですが、この弦楽セレナードはかなり「不思議」な音楽に仕上がっています。
まず、第一楽章は何があったんだというくらいの早めのテンポで進んでいきます。

メンゲルベルクはこの第一楽章をわずか8分58秒という9分を切るタイムで駆け抜けています。
ちなみに、バルビローリは10分12秒、ドラティは10分44秒です。

録音なんか早めに終えて家に帰りたかったのか、リヒャルト・シュトラウスのようにトランプゲームの約束に遅れそうになったのかという雰囲気です。
しかし、この背景には「SP盤」ならではの制約があったと思われます。

ご存知のように「SP盤」の収録時間は5分前後でした。
一つの楽章で10分を超えるとそれだけで3面にわたることになります。ですから、おそらくは2面でおさまるように不自然を承知でテンポを上げたのではないかと思われます。

しかし、続く2つの楽章ではメンゲルベルクの本領が発揮されています。
この何とも言えない歌い回しこそが、今となっては絶対に聞くことのできない「不思議世界」です。
もしも、この「不思議世界」に興味を持たれるならば、メンゲルベルクこそは「宝の山」と言えるでしょう。

ところが、最終楽章になると今度は気の抜けたようにテンポがアップします。
バルビローリが7分32秒、ドラティが7分29秒かけているのに対して、メンゲルベルクは5分49秒であっという間に終わってしまいます。
そして、そこには第1楽章の高速テンポで感じられた「不思議世界」も影をひそめ、ただただ何となく気が抜けたような感じで終わってしまいます。

おそらくは、やる気がなくなったのでしょう。
気まぐれと言えば気まぐれなのですが、この時代のマエストロはそれが通るくらいに偉かったのです。

オケに対しては「振らしてもらいます」、レーベルに対しては「録音させていただきます」という、まるでどこかの営業職のように腰の低い昨今の指揮者とは貫禄が違うのです。
それ故に、この気まぐれのような終わらせ方もまた、この時代の「不思議世界」の一端なのでしょう。

なお、録音はパチパチノイズが満載ですが、楽器の音は結構生々しく捉えられています。私個人としては、音楽を楽しむ上で何の不都合もないレベルです。

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