クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでバイロン・ジャニス(Byron Janis)のCDをさがす
Home|バイロン・ジャニス(Byron Janis)|ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30

(P)バイロン・ジャニス アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1961年6月2日録音

Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30 [1.Allegro ma non tanto]

Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30 [2.Intermezzo: Adagio]

Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30 [3.Finale: Alla breve]


難曲中の難曲

今では映画「シャイン」のおかげで、2番のコンチェルトよりも有名になってしまったかもしれません。なんといっても、古今東西のあらゆるピアノ協奏曲の中でこれほどまでに演奏が困難なものはちょっと思い当たりませんし、映画でもその点を強調して主人公はその困難さにとりつかれて精神に異常をきたしてしまうのですから、話題性は満点です。

しかし、どうなんでしょうか?最近のバカウマの若手連中なら誰でも弾きこなすのではないでしょうか。確かに難しいことは難しいでしょうし、とりわけ2種類あるカデンツァのうち「ossia」と呼ばれる方はとんでもなく難しいものです。それでも、演奏するだけなら何とかやり遂げるだけの能力は今の若手ならほとんどが身につけているのではないでしょうか。

それはさておき、この作品を聞けば、派手さはあるものの2番のコンチェルトで聞けたロシアの郷愁のようなものは後退していることに気づかされます。それは、この作品がラフマニノフのアメリカへの演奏旅行のために創作されたという経緯とも関係しているのかもしれません。当時のアメリカではとにかく派手な名人芸がもてはやされていましたから、この作品ではラフマニノフの芸人魂が爆発したかのような作品が出来上がってしまったのではないでしょうか。
とにかくピアノという楽器を使ってどこまで圧倒的に音楽を盛り上げることができるのかという課題に対する一つの模範解答がここにあることは間違いありません。
ただしなのです。
この作品に限ったことではないのですが、私には彼の作品に散漫でとりとめのない雰囲気を感じ取ってしまうのです。その散漫さが2番のコンチェルトでは影を潜めていたのが、ここでまたあふれ出してきたように感じられます。
ピアノの響きはどこまでも分厚くて重厚であり、それがここぞという場面ではクレッシェンドに続くクレッシェンドで音楽を圧倒的に盛り上げていくのですが、聞き終わった後になんと見えない空虚さを感じてしまいます。その芸人魂には感服するのですが、果たして歴史の審判に耐えて芸術作品として後世に残るのかと聞かれれば自信を持ってイエスとは言えないユング君です。


パワープレイの世界がもたらす爽快感

ラフマニノフのコンチェルト3番と言えば難曲中の難曲と言うことになっているのですが、その難曲を唖然とするほどのテンポで弾ききっているのがこのジャニス盤です。かつて、彼のコンチェルト2番の録音に対して「誰も彼もが暗い憂愁や甘美なメランコリックに憂き身をやつしているなで、こんな風にまで吹っ切れた演奏をしていた奴がいたなんて楽しいじゃないですか。」なんて書いたのですが、それが3番となれば何の不都合も感じません。

とにかく、冒頭の出だしから尋常ではなくて、かつて「肉体的限界に挑むような怒涛の迫力」と言われたアルゲリッチ&シャイー盤(82年ライブ録音)よりも凄まじいような気がするのです。そう言う凄まじさは単純なタイム比較だけでは表現しきれないのですが、第1楽章をアルゲリッチが15分27秒で弾き言っているのに対して、ジャニスは15分を切る14分40秒で弾ききっているのです。そして、アダージョの第2楽章からアタッカで突入するファイナルも12分48秒で走り去っています。

もちろん、この時代のヴィルトゥオーソとは「限られた時間の中でより多くの音符を音に変換すること」だったという時代の亡霊が残っていましたから、この演奏もその様な価値観を幾ばくかは反映したものになっている事は否定できません。基本的には歌うよりはひたすら前に突き進んでいくような演奏なので、その辺りのバランスをもう少し欲する人は後年のドラティ&ロンドン響との録音をとる方がいいかもしれません。
しかしながら、ジャニスならではの強靱な打鍵から繰り出されるパワープレイの世界がもたらす爽快感は他では変えがたいものなので、個人的にはこのミュンシュ盤をおしたいなとは思います。

それから、同じ時期にジャニスはライナー&シカゴ響とのコンビでコンチェルト1番も録音しています。
おそらく、ジャニスとライナーは音楽感が近しかったのでしょうか、非常に馬が合うような雰囲気が漂っています。

録音の数もそれほど多くなく、パブリックドメイン音源としてはラフマニノフ盤(オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1939録音)しかアップしていなかったので、その意味では非常に貴重な一枚だとも言えます。

<追記>
「基本的には歌うよりはひたすら前に突き進んでいくような演奏なので、その辺りのバランスをもう少し欲する人は後年のドラティ&ロンドン響との録音をとる方がいいかもしれません。」と書いた以上はこちらも紹介しておくのが義務でしょうね。また、この録音は嶋護(しま・もり)氏によって『最高のオーケストラ録音は、アンセルメの「ロイヤル・バレエ・ガラ・コンサート」、協奏曲ならパイロン・ジャニスのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」、器楽曲ならシュタルケルのバッハ「無伴奏チェロ組曲』と紹介されているので、是非ともアップしてほしいという要望も幾つか寄せられています。

ただし、その辺りは難しいところで、下手にアップすると「せっかくの録音を台無しにするようなクオリティでアップするな!」というお叱りを受けたりします。そして、然るべきアナログ再生装置を用意して初期盤のLPで聞いてみないと真価は伝わらない・・・などと長々と蘊蓄を頂くことになったりするのです。お気に召さない方は、頑張って初期盤LPの入手に努めてください。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2922 Rating: 5.0/10 (155 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-07-24]

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調, Op.104(Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:ルドルフ・シュワルツ指揮 ナショナル交響楽団 1954年録音(Andre Navarra:(Con)Rudolf Schwarz The New Symphony Orchestra Recorded on, 1954)

[2024-07-22]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3(Beethoven:Piano Sonata No.18 In E Flat, Op.31 No.3 "The Hunt")
(P)クララ・ハスキル:1960年9月録音(Clara Haskil:Recorded on September, 1960)

[2024-07-20]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第9番 イ長調 K.169(Mozart:String Quartet No.9 in A major, K.169)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-07-18]

ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ短調 作品31(Vieuxtemps:Violin Concerto No.4 in D minor, Op.3)
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:フランツ・マルスツァレク指揮 ケルン放送交響楽団 1954年録音(Vasa Prihoda:(Con)Franz Marszalek Kolner Rundfunk-Sinfonie-Orchester Recorded on 1954)

[2024-07-16]

サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調, Op.33(Saint-Saens:Cello Concerto No.1 in A Minor, Op.33)
(Cello)ガスパール・カサド:イオネル・ペルレア指揮 バンベルク交響楽団 1960年5月録音(Gaspar Cassado:(Con)Ionel Perlea Bamberg Symphony Orchestra Recorded on May, 1960)

[2024-07-14]

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「芸術家の生活」, Op.316(Johann Strauss II:Artists Life Op.316)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-07-12]

ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op21(Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ・コロンビア交響楽団 1946年11月16日録音(Zino Francescatti:(Con)Andre Cluytens La Grand Orchestra Symphonique Colombia Recorded on November 16, 1946)

[2024-07-10]

J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲 ホ長調 BWV1042(Bach:Violin Concerto No.2 in E major, BWV 1042)
(Vn)レオニード・コーガンエ:ルドルフ・バルシャイ指揮 モスクワ室内管弦楽団 1959年録音(Leonid Kogan:(Con)Rudolf Barshai Moscow Chamber Orchestra Recorded on 1959)

[2024-07-08]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」 ニ短調 Op.31-2(Beethoven:Piano Sonata No.17 In D Minor, Op.31 No.2 "Tempest")
(P)クララ・ハスキル:1960年9月録音(Clara Haskil:Recorded on September, 1960)

[2024-07-06]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第8番 ヘ長調 K.168(Mozart:String Quartet No.8 in F major, K.168)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)