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シベリウス:トゥオネラの白鳥 作品22の2

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年10月30日録音

Sibelius:The Swan of Tuonela, Op.22, No.2




民族のアイデンティティ

民族のアイデンティティを問うのは難しいものです。私だって、面と向かって「日本人としてのアイデンティティとは何か?」と問われれば言葉に詰まってしまいます。
とはいえ、人は己のアイデンティティをどこかに求めたくなるのは当然のことであり、シベリウスもまた家庭内言語がスウェーデン語であった事を恥じ、己のフィンランド人としてのアイデンティティを民族叙事詩「カレワラ」に求めました。ですから、彼は若い頃はこの「カレワラ」を積極的に作品の題材として取り上げています。
しかし、「カレワラ」に題をとった若い頃の作品をまとめて聴いてみると、そこで展開される民族的な物語が最終的には西洋音楽の合理性の中でわくづけられてしまっている事に気づかざるを得ません。もちろん、そんなことは私が言うまでもなくシベリウス自身が一番強く感じ取っていたことでしょう。そして、40代になって生み出された作品49の交響的幻想曲「ポヒョラの娘」あたりまでくると、そう言う枠から抜け出しつつあるシベリウスの姿がはっきり見て取れるようになります。

組曲「カレリア」作品11
カレリア地方は「カレワラ」が生み出された地だと言われていて、シベリウスも新婚旅行でこの地を訪れています。
この組曲はカレリア地方の大学から野外劇の付随音楽を依頼され、その音楽から3曲選んで作品11として出版されたものです。

ちなみに、付随音楽の序曲も「カレリア序曲」作品10として出版されているのですが、こちらは演奏される機会は非常に少なく録音もほとんどないようです。
それと比べると組曲の方は、第1曲の雄大なダイナミズム、第2曲のしっとりとした北欧的な叙情、そして第3曲の素朴な民衆の踊りからは明るい快活さがあふれ出していて、疑いもなく若きシベリウスの美質が詰め込まれています。

トゥオネラの白鳥 作品22の2
シベリウスにとってオペラの作曲は一種のトラウマとなっています。
カレワラの英雄レミンカイネンを主人公とした作品を何度か構想するのですが、そのたびに己のオペラに対する適正のなさを思い知らされるのでした。しかし、そうして断念したオペラの断片から「4つの伝説曲」が生み出されたのですから、才能のない作曲家から見れば羨ましい限りの話でしょう。
「トゥオネラの白鳥」はこの「4つの伝説曲」の中の第3曲として位置づけなのですが、単独で取り上げられる機会の多い作品です。

「トゥオネ」とは「カレワラ」に出てくる黄泉の国のことで、そのまわりには黒い川が流れていて神聖な白鳥が悲しみの歌を歌っているとされています。日本の仏教説話である三途の川よりは遙かにロマンティックです。
ところが、「カレワラ」では英雄レミンカイネンは愛したポヒョラの娘を得るために娘の母親からその白鳥を捕まえてくるように命じられます。当然のことながらそのような試みは失敗するのですが、ここではその神秘的なトゥオネラの白鳥が描かれています。

交響的幻想曲「ポヒョラの娘」 作品49
この作品も「カレワラ」に題を得たもので、ここでは英雄ヴァイナモイネンとポヒョラの娘のやりとりが音楽で描かれます。それにしてもレミンカイネンにヴァイナモイネンという二人の英雄を手玉にとったポヒョラの娘とはよほど魅力的な女性だったのでしょう。
ここでも、娘は自分の愛が得たいのならば自分が与えた試練を乗り越える事を英雄ヴァイナモイネン要求します。英雄ヴァイナモイネンは己の力を駆使してその試練を次々と克服していくのですが、最後の「小さな糸巻き棒から船を造る」という試練に失敗し己の斧で負傷してしまいます。
そして、試練に失敗したヴァイナモイネンは試練をあきらめて再び旅に出ようとするのですが、そんなヴァイナモイネンに娘はあざけりの笑いを投げかけま

カラヤン的に再構築されたシベリウス


カラヤンのシベリウスと言えば、この4番と5番のセットの後に録音された6番と7番のセットが名盤として名高いようです。
聞いてみればすぐに分かることなのですが、響きの美しさにこだわり続けたカラヤンの美学とシベリウスの特質がものの見事にマッチした素晴らしい演奏と録音になっています。カラヤンは50年代のフィルハーモニー管時代から晩年の80代までに切れ目無くシベリウスの作品を取り上げているのですが、この60年代の一連の録音がもっとも上手くいっているように思います。

今さら言うまでもないことですが、4番と5番は対照的な雰囲気を持っています。
生死の境をさまよった後に作曲された4番は、シベリウス作品の中ではもっとも晦渋な佇まいをもっているのに対して、5番の方はそれとは対照的な祝典的雰囲気に溢れた音楽になっています。専門家筋の間では、この4番の晦渋さこそがシベリウスの最高傑作と言われるのですが、実際に聞いてみて、素直に心の底から「いい音楽だなぁ!」と思える人は多くはないでしょう。

それは私もそうであって、今まで聞いた中で唯一感心したのはヘルベルト・ケーゲル&ライプチッヒ放送交響楽団による69年盤くらいしかありませんでした。しかし、あれがシベリウスの4番の理想的な演奏なのかと問われれば、それはもう即座に「No!」と答えるでしょう。
つまりは、あれを聴いて感心したのはシベリウスではなくてケーゲルだったからです。
もう少し分かり安く言いかえると、あそこではケーゲルはシベリウスの4番を素材として、結局はケーゲル自身の音楽を再構築しちゃっていて、聞き手である私はその再構築したケーゲルの音楽に感心させられてしまっていたのです。

ですから、あれをシベリスの4番の理想的な演奏などとは全く思えませんでしたが、心底感心させられたことは間違いありません。

そして、もしかしたら、このカラヤン盤もまた方向性はケーゲルとは真逆なまでに異なっていますが、音楽の作り方は非常に通っているのかもしれません。
ここでのカラヤンもまた、シベリウスの4番を素材として、そこから己の感覚で美しいと思える響きを上手く再構築して連ねることで、カラヤン的な美しさに溢れた音楽に仕上げています。結果として、この作品につきまとう晦渋さは姿を消して、実に聞きやすく美しい音楽にしあがっています。
ですから、この演奏を取り上げて響きの美しさにこだわりすぎてノッペリしすぎなどというのは、カラヤンの意図を無視して自分の好みで好き嫌いを言っているだけのことに過ぎないのです。個人的には、こういうアプローチもあっていいのではないかとは思います。
なんと言っても、この晦渋なことで有名な交響曲が美しく、そして楽しく聞けるのですから。

なお、5番の方は、そこまで無理をしなくても美しい部分が満載の交響曲ですから、祝典的雰囲気がカラヤン的な豪華さと相まって楽しい演奏と録音になっています。

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